91.
一詩の瞳は、鏃のような鋭さで舞を捕えている。
へばりついた喉の奥から、しわがれた声が出た。
「どうして」
一詩は切ない目をして微笑んだ。
「知ってたよ。俺の親父は北山組とその背後にある組織、SPOに資金援助をしている。俺も会社を継ぐ上で知らないわけにはいかなかった。北山や田中に面が割れたのが決定打になったな。SPOは今、血眼になってお前の行方を探してるぞ」
信じていたものが壊れゆく音に、舞は耳をふさぎたくなった。
「俺が御剱に融資を申し出たのは、狭山コーポレーションにとってもSPOにとっても一番都合のいいことだったからだ。舞さえSPO側についてくれるのなら、怖いものは何もない」
「兄さんは……御剱だけでなく、私を買収しようとしていたのね」
小さく痛んだ胸の傷を、秋山の優しい言葉がかすめてよぎった。
こちらに来いと言った彼もやはり、SPO――狭山と裏でつながっていたということか。
「幼馴染のお前に、こんなひどいことをさせる日向野を、俺は許さない。舞、俺を信じてこっちに来るんだ」
舞は思わずその手を取ろうとする。
だが、脳裏に朋子の悲痛な泣き声が蘇る。
萌の全てを悟ったような面持ちも。
それらが舞をがんじがらめにし、足を踏みとどまらせた。
「……できないわ」
「どうして」
「謝りはしない。私を、殺したいほど憎めばいい。だけどもう決めたの。
……あなたの竿をもらうわ。一詩兄さん」
一詩は衝撃におののいた。




