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竿斬りの舞  作者: 凪子
第八夜

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92/146

92.

「舞。何があったんだ。……まさか、脅されたのか」


舞は顔色一つ変えず、眉ひとつ動かさなかった。


何も知らないまま、一詩が自分を憎んでくれるなら、それでよかった。


「一兄。五年前とはもう何もかもが変わってしまったわ。私は昔の、あなたの幼馴染だった頃の舞とは違うの。今の私は、ただの化け物よ」


そう言って舞は、冷酷な表情で右手を振り上げる。


一詩はその様子を静観していたかと思うと、ふっと微笑んだ。


「いいよ」


浮かぶ笑顔は、昔と何一つ変わっていなかった。


舞の手が、空中でぴたりと止まる。


「お前がそれを望むのなら、俺の竿を斬ればいい」


「一詩兄さん」


「他に方法がないんだろ」


全てを受け入れる瞳に、舞は言葉を飲み込んだ。


一詩は舞の腕を引いて自分の胸に引き寄せると、そっと髪を撫でた。


「ごめんな。お前のこと、変わったなんて言って」


舞は目を見開いた。


「俺は何にも分かっちゃいなかった。どんなに綺麗になっても、ひどい奴らのせいで心を殺してしまっても、舞は何一つ変わっちゃいなかったんだ」


一詩の手が舞の小さな指を撫でる。


「こんなに小さな手で……ずっと辛い仕事をしてきたんだな。俺は何にも知らずにアメリカにいて、助けてやるどころか、お前の苦しみに気づきもしなかった。ごめん。ごめんな……舞」


一詩の声が涙に曇る。


舞は腕を引いたが、一詩は離さなかった。


「やめて一兄」


一詩は微笑んだまま、舞の手を引き寄せる。


「きっとお前は、昔のように大切な何かを守るために西へ東へ奔走ほんそうしていたんだ。それでもどうにもならなくて、俺のところに来たんだ。


なら、俺がすることは決まってる。


竿の一つや二つ、舞のためなら惜しくない。それで舞が助かるなら、救われるなら安いもんだ」


舞は感情の高ぶりが、右手に力となって溢れだすのが分かって戦慄せんりつした。


このままでは、自分は一詩の竿を斬ってしまう。


「お願いやめて!」


一詩は力強く微笑んだ。


「舞。幸せになれよ」


一詩の手は舞の右手を導き、悲痛な慟哭どうこくが夜にこだました。




























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