84.
「もしもし?」
『この女は預かった』
朋子の声ではなく、変声器らしき不自然な声が応じた。
全身が総毛立つ。
「あなたは誰」
鋭く詰問する。だが電話の主は答えない。
代わりに、すすり泣くような声が聞こえてきた。
「朋子?……朋子!」
『返してほしければ、狭山一詩の竿を斬れ』
「朋子に何をしたの」
自分のものとは思えないほど低い声が言った。
『竿を斬れ』
「あの子に何かしたら許さない。朋子を返して。返しなさい!」
『竿を斬れ』
まるであざ笑うかのように、その声は言った。
そして、
『舞?舞なの?』
「朋子!そこはどこなの?怪我はない?すぐ助けにいくから、場所を教えて!」
朋子の声は涙に滲んでいた。
『分からない。分からないよ……気がついたらここに』
鈍い音と共に、『うっ』とうめき声が響いた。
「朋子!」
舞は喉が割れんばかりに叫んだが、電話は無情にも切れた。
「分かったかしら?早く指令を実行に移さなければ、大切なものがどんどんなくなっていくわよ」
一瞬、警察が頭に浮かんだが、日向野の権力は竿斬りさえもみ消してしまえるのだ、朋子の失踪など問題にならないだろう。
自力で探し出すしかない。
舞は今まで感じたことのないほど強い憎しみをこめて、女帝を睨み上げた。
「……外道」
走り去る舞の背中を、女帝の高らかな笑い声が追いかける。
「逃げてもいいわよ。お友達がどうなっても構わないというのならね」




