85.
無我夢中で自宅に戻り、萌の居室に飛び込むと、手短に事情を説明して頭を下げた。
「お願いします。どうか御剱の力を使って朋子の身柄を保護してください」
まばたきもせずに事情を聞いていた萌は、大きく嘆息した。
「事情はよう分かった。じゃが舞、そなたの望みを叶えることはできぬ」
舞は弾かれたように顔を上げた。
「どうしてですか。当主様の力さえあれば、朋子を探し出すことなど容易でしょう?」
萌の表情は黒い扇によって半分隠されている。
両目だけが、かすかに憐れむような光を帯びて舞に注がれていた。
「舞、日向野はそなたより何倍も上手じゃ。たとえその朋子とやらを助けたところで、今度は他の人間を人質に取るだけのこと。きっとあらゆる手段を講じてくるじゃろう。そなたが狭山一詩の竿を斬るまで」
舞の表情が苦しく歪んだ。
「ですが……、このようなやり方は許せません。第一、Kの正体もつかめていないのに、竿を斬ったところで、SPOにぶんどられることは目に見えているではないですか」
「そなたも聞かされておろう。竿に執着しておるのは日向野鉄のほうじゃ。あの女は竿が盗まれようと歯牙にもかけまいよ。それに狭山一詩の竿を囮にして、Kが再び盗みに入ったところを取り押さえるつもりなのかもしれぬ」
「そんな」
目の前が真っ暗になる。
萌は長い睫毛を伏せた。
「SPOは再生の力を手にしたのじゃ。怖いものは何もないじゃろう」
確信のこもった口調に、舞は顔を上げる。
「再生の力が本当に存在するとおっしゃるのですか」
萌は重々しく頷いた。




