82.
「どうして……」
どれくらい時間が過ぎただろうか。
真っ白になった頭を抱えたまま、舞は呆然と問いかけた。
「どうして彼なのですか。狭山一詩は性犯罪者ではないし、SPOとも関係がないはずです。なのにどうして」
女帝は腕を組み、艶然と微笑みかけた。
「関係大ありなのよ。狭山コーポレーションは、北山組に多額の資金援助をしているの。SPOの経営母体はあの会社であると言ってもいいくらいよ」
頭を鈍器で殴られたような衝撃に、舞はよろめいた。
「狭山は地上げ屋として北山組を利用し、SPOは狭山の資金援助によって活動している。その大元を断たなければ、SPOを壊滅させることはできないわ」
「だからといって、竿を斬ったところでどうなるのです。そんなことをしても、打撃を与えることにはなりません」
舞は青ざめたまま言い返した。
女帝は彼女をさめた目で見下ろし、
「そうね。だけど狭山の意力を削ぎ、跡継ぎを産ませなくすることはできるわ。ことによると、婚約破棄ということになるかもしれない。竿を失った男は、あらゆる意味で精力も意欲もなくしてしまうもの」
舞は突如として真実がひらめき、瞳孔が開いた。
「御前。あなたはSPOのことなどどうでもいい、ただ日向野にとっての商売敵である狭山コーポレーションを失墜させたいだけなんですね。
一詩兄さんの力と経営手腕が脅威なのでしょう。だから、」
「何とでも言いなさい」
女帝はぴしゃりと舞の言葉を遮った。
「あなたはどう思っているか知らないけれど、狭山一詩は聖人などではないわよ。
でも、そんなことは理由じゃない。
――あの子は私を怒らせた。ビジネスの表舞台から消えてもらうわ」
静かな殺気の宿った声だった。




