75.
ケーキセットを食べ終わって時計を見ると、もはや夕刻を指しており、舞は驚いた。
コーヒーを飲んでいた秋山が、窓の外を眺めている。
夕陽が海に向かってきらめきながら沈んでゆく。
浮かぶ雲が、水平線の彼方が、黄昏色に燃えていた。
あっという間だった――本当に。
舞は過ぎ去ってしまった時を名残惜しく感じた。
魔法が解け、現実に帰るときが刻一刻と迫ってくる。
「最後に、あれに乗って帰ろう」
秋山が観覧車を指さした。
切なさが胸を覆い、息をするのも苦しい。
ゆっくりと空を横切っていく箱の中から見下ろす景色は、何の変哲もないものなのに、何より美しく見えた。
秋山は鉄のことを聞きたいと言いながら、ほとんどその話をしなかった。
交わした会話はごく普通の若者がするような、他愛のないものばかりだった。
意を決して問おうとしたとき、図ったようなタイミングで秋山が口を開いた。
「鉄のことをどう思う」
舞は来たか、と身構えた。
「立派な方だと思います。面と向かってお話したことは数えるほどしかありませんが、冷静で賢明で、なすべきことを堅実に行っている方だと感じました」
秋山は頬杖をついたまま返答を聞いていたが、やがて軽く笑い声を上げた。
舞は首を傾げる。
「これじゃ答えにならないですか?」
「いや、違うんだよ。やっぱり俺の目は正しかったなと思って」
「どういう意味でしょう」
秋山は柔らかく微笑んだまま、声を真面目なものに改めて、
「君は俺と似てるね」
思いがけない指摘に、舞は目を瞬かせた。




