61.
「まさか御前は」
鉄は、飲みたくないものを無理やり飲み込まされたような表情で頷いた。
「原因不明の奇病だ。分かっているのは、このままでは長くないということだけ」
ぶつりと言葉を切って黙りこむ。
沈黙には、これ以上語りたくないという意思が明確に込められていた。
あの女帝が――タフで美しく、およそ何にも負けそうにない、彼女が。
「竿は、誰のものでもいいというわけではない。およそ一千万に一つの確率で、その効力を発揮する伝説の竿があると言われている。確認には十ヶ月ほどを要する。SPOが我々から竿を盗んだのも、おそらくその伝承を知っているからだろう」
伝承というより、それではまるで都市伝説ではないか。本気でそれを信じているなんて。
舞にとっては、たかが竿だ。大の大人が、血眼になって取り合うようなものだとは思えない。まるで狂気の沙汰だ。
けれどその神話を信じ、現実に持ち込んでいる人間が数多くいるのだ。
それも、社会的地位の高い人間が、そのための団体まで組織して。
「悪夢のような話ですね」
そして最も恐ろしく哀しいのは、自分もその悪夢のような話の、紛れもない当事者であるということだ。
鉄は少し平静を取り戻したのか、いつもの無表情に戻った。
「ともかく君は、今までどおり我々の指令に従ってくれればそれでいい。こうなってしまっては、竿塚から竿を盗み出した犯人を直接たたくしかないからな。そうしなければ、いくら竿を斬ろうと、片っ端からSPOに横取りされてしまう」
「SPOも北山組も、既に調べはついているのでしょう。どうして、Kの正体が分からないのですか」
日向野の情報網ならそれくらい簡単なはずだ。
そもそも、ここまで犯人探しに手こずること自体信じられなかった。




