59.
舞は最初、鉄が冗談を言ったのかと思った。
だが彼の顔は、からかうどころか大真面目だった。
「社長が?」
形式上の雇用主であるとはいえ、今まで鉄は竿斬りの指令に関して一切口を挟まなかった。
標的の詳細を握り、舞に細かい指示を出していたのはいつも女帝であった。
復讐を請け負うビジネスというのは、いかにもやり手である女帝の考えそうなことだ。
てっきり女帝を主体にこの事業は動いているのだと思っていた。
竿を破棄せず保管するのも、女帝の収集癖か何かだと高をくくって、今まで気にも留めてこなかった。
竿塚から竿が忽然となくなった、あの日までは。
物問いたげな舞の視線をするりとかわし、鉄は朴訥とした口調で話しだした。
「前にも言ったろう。日向野は男への制裁を秘密裏に請け負い、報酬と引き換えに復讐の手助けをしている。だが実際は、それは建前にすぎない。竿を斬ることが重要なんじゃない。切り取った竿の有用性こそが真に重要なのだよ」
「有用性、ですか」
一体、竿にどれほどの価値があるというのだろう。
舞にとっては、それは忌むべき異物でしかない。
悪趣味な人体収集家に闇ルートで売り飛ばすくらいしか、活用する方法がないように思える。
だが鉄は、あくまでも真顔で頷いた。
「そうだ。といっても、君は決してこのような話を信用しないだろうが」
「社長は竿を使って、一体何をしたいのですか」
「それが人間の寿命を大きく延ばす特効薬だと言ったら」
舞は目を瞠り、やがて腕を組んで冷笑した。
「何を言い出すかと思えば……ふざけるのも大概にしてください」
社長はファンタジーにでも耽溺しているのだろうか。
そうだとしても、とんだ悪趣味な妄想だ。
舞は軽蔑を込めて鉄を見下した。




