58.
鉄が直接舞に連絡を取り、呼びつけるということはごく稀だ。
そういうときは大抵異常事態で、切羽詰まった要求が突きつけられる。
経験上それを知っていた舞は、覚悟の上で日向野エンタープライズのドアをくぐった。
社長室に通された舞は、執務机の前に座っている鉄に向かって一礼した。
「御剱舞、ただいま参りました」
顔を上げて、舞は目を瞬かせる。
鉄はサングラスを取っていた。
いや、身だしなみを整える余裕もなかった、というほうが正しいだろう。
表情には、濃い疲れと焦燥感が滲んでいた。
組んだ指の上に顎を乗せ、重々しく頷く。
「先ほど言っていたカードのことだが」
舞は懐からカードを取り出し、鉄に差し出した。
鉄はそれを眺めると、低く呟いた。
「同じだ」
「ではやはり、SPOの仕業なのですね。前回の犯人が、もう一度冷凍保管庫に忍び込んで、逃げおおせたと」
「我々をあざ笑うかのようにこんなメッセージを残すんだ。犯人は相当な自信家だろう」
鉄の声のトーンは陰鬱で、表情は暗い。
舞はその原因に気づいて問いかけた。
「御前には、まだお知らせしていないのですね」
女帝がこの事態を知ったらどうするだろう。
烈火のごとく怒るだろうか。嘆き悲しむだろうか。鉄を責め、罵るだろうか。
感情をあらわにする女帝の姿は想像のつかないものだった。
鉄は額に手を当て、苦しそうに嘆いた。
「あれから全セキュリティーシステムを改新し、警備の数を倍増した。もう二度と、外部からの侵入など許さないと思っていたのに」
鉄が打ちひしがれている様子を見るにつけて、舞は根本的な疑問が沸きあがってくるのをこらえ切れなくなった。
「社長。御前はどうしてそこまで、竿を狩り集めることに執着するのですか」
鉄は開いた指の隙間から舞を見つめると、ゆっくりと手のひらを降ろした。
力なく左右に首を振る。
「違う」
舞は怪訝に首を傾げる。
「何が違うというんです」
「君の考えていることは間違っていると言ったんだ。竿を集めているのは彼女じゃない。この俺だ」




