57.
人混みの中を縫い、隠れるようにして舞はあてどなく歩き続けた。
ちかちかと頭の中で赤い光が明滅している。カードを握りしめた手が汗ばんでいた。
誰も彼もが自分を監視しているように見えて仕方ない。
いつもついてくるはずの藤城も、竿斬りの際は自宅待機を厳命してあるため、気配を感じることができなかった。
耳障りなメロディーが鳴り響いているなと思ったら、鳴っているのは自分のポケットの中に入っていたスマホであった。
舞は駅前で立ち止まり、スマホを見る。
画面には『日向野鉄』の文字。通話ボタンを押すと、静かな声が流れてきた。
『もしもし、舞か』
「すみません。北山にしてやられました。あれは偽のアジトで――」
『分かっている。その情報が今こちらに届いたところだ。実は、竿塚のほうも昨夜にまた何者かの侵入を許した形跡がある』
舞は目をみはった。
「それでは、」
『ああ。被害状況を確認してみたが、倉庫の第一区画と第二区画のほとんどの竿が抜き取られている。どうやら相手は、持てるだけ竿を持って逃げたようだ』
地下倉庫の第三区画は予備の領域である。
つまり日向野はとうとう、SPOにほぼ全ての竿を奪取されたということだ。
それだというのに、鉄の声は小面憎いほど落ちついていた。
「社長。倉庫には、白いカードが置かれていませんでしたか」
鉄は沈黙を持って応じる。
それが何よりの答えだった。
『ともかく、今すぐ本社へ来てくれ』
電話は一方的にそれだけを告げ、いささかの猶予も与えずに切れた。




