56.
だが、舞は後に、自分の甘さを嫌というほど痛感することになる。
竿塚の鉄に竿を預けたのち、舞は竿奪回のため、frank中目黒店を訪れた。
早朝の、まだ店が開いていない時間帯を狙って侵入する。
厨房に入ると、大きな冷凍庫が目についた。両手をかけると、扉はあっけなく開いた。
そして――舞は大きく目を見開いた。
壁に手をつき、氷の含まれた冷気を吸い込む。
「……ない」
そこはもぬけの殻だった。竿どころか、食品類さえ一切積み込まれてはいなかった。
がらんどうな空間の中に、白いカードのようなものが置かれている。
手を触れた瞬間、舞の本能は激しく警鐘を鳴らした。
――ここから離れなければ。
扉を突き破るようにして外へ転がり出る。
その瞬間、建物が一瞬横に膨張したかと思うと、凄まじい衝撃音を立てて内部から爆発した。
バアアアアアアアアアアン!!!!
鼓膜が破れるほどの音、もうもうと煙の立つ地面に伏せて、舞は苦しげに眉を寄せる。
うかつだった。――甘かった。相手の言葉を信じ、ノコノコこんなところにまで来るなんて。
北山の高笑いが聞こえてくるようだった。
教えられた場所に竿などなく、そこへ来た人間を抹殺するための罠だった。
本物の竿は、とっくに安全な場所へ移動していたのだ。
そして竿を奪われるという恐怖さえも、北山の前には何ら意味をなさなかった。
なぜなら――舞は手元に残った一枚のカードを見つめる。
そこにはこう書かれていた。
【愚かなる竿斬りへ。お前がいくら竿を斬ろうとも、再生の力を持つ私には無駄だ。竿は全て私が元の持ち主へ還す。お前の右手に有する力は、私には通用しない K】
同じカードを、日向野本社の地下倉庫で見つけた鉄は愕然とする。
つまりこいつは――Kは、盗みたいときにいつでも、竿を盗むことができるのだ。
日向野本社の地下倉庫の堅固な護りを、いとも容易く破って。
そして、この手紙に書かれてあることが真実なら、Kが竿を取り返しさえすれば、北山や他の人間の竿を再び体に戻すことも可能なのだ。
再生の力。そんなものが存在するなんて。
舞はわなわなと震える右手を押さえ、強くかぶりを振る。
灼熱の炎を上げて燃えさかる建物は、哄笑するかのように舞を見下ろしていた。
【第五夜・終】




