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竿斬りの舞  作者: 凪子
第四夜
44/146

44.





日向野エンタープライズに到着すると、舞は直通エレベーターで最上階へと向かう。


ガラス張りの箱が天へ向かってぐんぐん上昇してゆく。


そこから地上を見下ろしながら、舞は思索にふけっていた。


紛失した竿。SPO。力の暴走。そして、事件をもみけしているであろう警察内部の関係者。


阿部の竿を斬ってから、事態はどんどん混迷している。


何か、とてつもないことが起ころうとしているように思えてならない。


ポン、と音がしてエレベーターの扉が開く。


何も考えずにフロアに足を踏み出した舞は、角を曲がってきた人物と正面衝突した。


「すみません」


このフロアにいていいのは日向野本社の専務以上の肩書を持つものか、舞のような関係者のみである。


今まで誰一人としてすれ違うこともなかったため、完全に油断していた。


「こちらこそ、失礼しました」


柔らかな声に顔を上げ、舞は息を呑んでその場に立ち尽くした。


そこにいたのは、事もあろうにあの秋山だった。


秋山も端正な顔を驚きでいっぱいにして、目をみはったまま棒立ちになっている。


「君は」


信じられない思いでいっぱいで、言葉が全て喉の奥につかえている。


「彼を知っているのか、舞」


低く落ちついた声に、舞はようやくそこに鉄が立っていたことに気づいた。


「……ええ」


舞は頷くのがやっとだった。


「彼は私の幼馴染おさななじみだ。養い親のもとで暮らしていたが、その方が亡くなったので東京へ戻ってきたというんだ。久しぶりに偶然出くわしたので、連れてきた」


淡々と事実だけを述べる口調に、舞は救われた気持ちになった。


「そうでしたか」


「敬太。こちらは御剱舞。日向野本社で私が雇っているアルバイトだ」


嘘はついていない。


時給30万円以上の特殊な業務につくアルバイトだということを除いては。


「御剱舞と申します。改めて、よろしくお願いいたします」


舞は折り目正しく挨拶をして、深くお辞儀をした。


「舞、こちらは秋山敬太。先ほど言ったように私の幼馴染だ」


鉄が互いの本名をわざわざ教えて引き合わせたということは、少しでも怪しまれては困るからだ。


この人は、鉄にとっての急所となり得る存在に違いない。


「秋山敬太です。よろしく」


差し出された手を握ると、思いがけぬ強さで握り返され、舞は顔を上げた。


すくすくと伸びやかに育ってきた者だけが持つ、太陽のような明るさが彼を取り巻いている。


何の疑いもなく、人は幸せになるために生まれてきたのだと信じているような瞳だ。


舞はその眩しさに魅せられたまま、秋山の手の温もりを驚くほど心地よく感じていた。









【第四夜・終】

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