43.
「じゃあまた。機会があれば」
機会など永遠に訪れないことを知っていながら、平気で偽りを口にする。
いつの間にこんなにずるくなったのだろうと思いながら、舞は歩きだした。
「あ、そうだ。御剱さん!」
よく通る声に、思わず足を止める。
数メートルの距離で、久保田はこちらを見つめて立っている。
企みごとをほのめかす、いたずらっ子のような笑顔が言った。
「ねえ、知ってる?最近、男のアソコを切り取って盗む奴がいるらしいよ」
声も出ずに固まっている舞に、久保田はにやりと笑いかける。
「たまにそう言って警察に届けに来る、頭おかしい人がいるんだって。誰も相手にしてないらしいけど」
「どうして、そんなこと知ってるの?」
振りしぼって出た声は、かすれてひび割れていた。
恐怖と混乱が、じわじわと背中から忍び寄ってくる。
久保田は何も知らずに言っているのだろうか。
わざわざ呼びとめてまで?
久しぶりに偶然会った、元クラスメイトの目の前で?
一点の曇りもない笑顔のまま、久保田は言った。
「うちの父さん、下っ端だけど一応刑事なんだ」
「へえ。そうなの」
久保田は舞が引いているのに気づいたのか、気まずさをごまかすように軽く笑い、
「ごめんごめん。こんなの女の子にする話じゃなかったね。じゃあまた」
「ええ。さようなら」
背を向けて歩き出した舞の後姿を見送り、久保田は凶悪な笑顔で呟く。
「またね。――竿斬りさん」




