42.
翌日、日向野本社へ向かっていた舞に声をかける人物があった。
「御剱さん?御剱さんじゃないか!」
明るく弾んだ声でて駆け寄ってこられ、舞は反射的に身構えた。
「誰?」
見覚えのない少年に、鋭く詰問する。
少年は照れたように頭をかいて笑った。
「そっか、覚えてないか。でもやっぱり御剱さんだ。あのときから変わらない、綺麗なままだ」
舞は顔色一つ変えず、平坦な声で繰り返す。
「あなた誰?」
「俺だよ俺。くぼっちだよ!」
黒くカールした髪に、Tシャツにジーパンを履いている。
笑うとえくぼができ、愛嬌抜群だった。
「もしかして……久保田君?」
「そうだよ、思い出してくれた?六年のとき、同じクラスだった久保田だよ」
舞の顔が警戒から安堵へ、そして切ない色へと変わる。
「俺、みんなと違う中学に入ったから、どうしてるかなってずっと思ってたんだよ。おとなしい感じの子と仲よかっただろ?ほら、あの、石原さんだっけ?」
「石田朋子のこと?」
「そう、石田さん。連絡とろうと思ったんだけど、あのころ携帯とか持ってなかったから、うやむやになっちゃって。こんなところで会えるなんて思わなかったよ。家近くなの?」
「ええ、まあ」
舞は曖昧に言った。
久保田は小学校のころの思い出話などを嬉しそうに語っていた。
それらは舞が宝物のように心の中にしまっているものばかりで、懐かしさに息が詰まりそうだった。
「ごめんね。話したいことはたくさんあるけど、私これから用事があって」
「そっかそっか。こちらこそ、引き止めてごめん」
久保田はあっけらかんとした笑顔で言った。
屈託ない明るさは、舞の心に垂れこめた雲を吹き飛ばす風のようだった。




