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3.
母屋にある食堂の席につくと、既に父親と母親が食事を始めていた。
「おはようございます。お父様、お母様」
「おはよう、舞」
母は気弱な笑顔で何気なく付け加えた。
「朝食が済んだら、萌 様にご挨拶に行きなさいね」
舞はぴくりと眉を動かした。透きとおった黒い瞳で母を見つめる。
母はたじろぎ、たちまち視線を逸らした。
舞はよく知っていた。母が、何の用もなく萌に会いに行けなどと言うはずがないということを。
だが、言葉はいつも曖昧に濁される。
母は繰り返される惨劇から目を背け、常識の埒内にある世界しか目に映すまいと拒絶を決め込んでいる。
血に染まったこの右手を見ても、まだ欺瞞に満ちた微笑みを浮かべられるだろうか。
思って、舞は苦く笑った。




