2.
目覚めると、背中がじっとりと冷や汗で濡れそぼっていた。
「夢……」
鼓動が胸をかき鳴らしている。浅い息を吐くたびに肺が鳴り、肩が大きく上下した。
窓外から差す清冽な朝日が白い頬を照らす。
強張った筋肉をほぐそうと、舞は深呼吸した。
寝台を降り、身支度を整えて髪をとかしつける。
軽く化粧を施すころには、鏡に映る青ざめた顔も、徐々に落ちついた色味を取り戻していった。
呪われた稼業に手を染めてから三年。悪夢など腐るほど見てきた。今更、このようなことに心を乱されたりはしない。
「舞お嬢様」
障子の向こうで、涼やかな男の声がした。
「朝食のお支度ができました」
「今行くわ、藤城」
自室を出ると、控えていた黒服の若い青年は深々と頭を下げた。
「おはようございます。舞お嬢様」
舞は無表情でおざなりな返事をし、母屋に向かって歩き始める。
藤城と呼ばれた青年は、御剱家に仕える執事の一人である。
舞専属の執事であるがゆえに、使用人の中でも位は高い。
舞が住まう御剱家の屋敷は、御剱神社の中に荘厳とそびえ立っている。
神殿のような広さに加え、内部構造は複雑で、住まう者でさえ正確な見取図を把握している者は少ない。
母屋を中心に少なくとも東西南北の離れが存在しており、舞はそのうちの北翼に住んでいた。
一度自室へ下がってしまえば、家族ですら接触することはほとんどない。
これらの特殊な環境を、舞は幼いころから当然のように享受してきた。
広大な屋敷、常に付き従う使用人、贅沢な食事、生活を彩る高級な品々。
御剱家に生を受けたことを幸福に思っていた。
世間一般と違うことは知っていたが、何不自由ない暮らしに満足し、疑問を抱くことはなかった。
――その背後にある、恐るべき秘密を知るまでは。




