27.
自家用車に萌と舞が乗り込むと、車は音もなく走り出した。
車窓を流れる夜の街を眺めながら、ようやく心は平静を取り戻す。
あの女帝から一本取るとは、さすが年の功と言うべきか。
その上、竿の紛失事件について既に調べをつけていたとは恐れ入る。
今回の事件の黒幕に、萌はSPOという組織を挙げた。
Sao・Protect・Organization。竿を保護するための組織というのである。
その組織は闇に包まれており、構成員の総数、設立時期などは不明。
奪われた竿を取り戻すという強い目的意識を持った者の集団である。
つまりは、被害者の拠りどころだと言ってもいい。
それならば、竿を取り戻すために、難攻不落の竿塚に忍び込んだのも頷ける。
盗んだ切断済みの竿を、どうやって元の身体に戻すかは不明だが。
組織の背後にいるのが、東京近辺を縄張りにする暴力団『北山組』だという。
北山組を探れば、竿のありかや犯人の手がかりを得ることができる。
おそらく女帝は、舞を北山組に潜入させるつもりだろう。
「萌様。本日はありがとうございました」
助手席に座る萌は振り向き、あどけない笑みを浮かべた。
「よいのじゃ。それに今回はそなたを助けに行ったわけではない。日向野に貸しを作りに参ったまでよ」
現在は弱い立場とはいえ、本来ならば御剱家は日向野など相手にならないほど身分が上の家柄である。
自然、矜持も高くなるというものだ。
「しかし、あんなに小さかった天河が軽々妾を持ち運べるようになったとはの。月日が流れるのは早いものじゃ」
からかう萌の声音に、さすがの天河も慌てたように、
「萌様。お戯れはおやめください」
萌はころころと上機嫌に笑う。
「妾は足が弱くての。昔から誰かに運ばせていたのじゃが、天河が御剱家に参ったのはこやつが八歳の頃。必死に妾をかつごうとするのじゃが、なかなかうまくいかなくての。何度背中から振り落とされたか。そのころから笑わぬし泣かぬし、いつも仏頂面な男じゃったわ」
「そうだったのですか」
舞が萌や天河と初めて相対したのは三年前。
しかし萌はもちろん天河も、舞が生まれる前から御剱家にいたということか。
輪廻に囚われ、業を背負ったこの家に。
舞は自分の手のひらを見つめ、そっと詰めていた息を吐いた。




