20.
店員は何事もなかったかのように別の客へ給仕をしに行き、再び舞の側を通った。
「すみません」
彼に声をかけ、改めてその容姿を見て驚いた。
凛々しい眉、理知的な切れ長の瞳、高く通る鼻梁、しなやかで均整の取れた体。
屋敷で容姿端麗な執事に囲まれているにも関わらず、ここまで完璧な男性は見たことがなかった。
「お呼びでしょうか」
あっけに取られていた舞に、彼は感じの良い微笑みで尋ねた。
洒落たデザインの制服の胸元には「秋山」と書かれたプレートがついている。
「いえ、注文はないんですけれど。先ほどのお礼をと思いまして」
頬が熱くなってきて、舞はうろたえた。
「お礼?」
とぼけたように秋山は笑い含みの声で言った。
「さっき、追い払ってくださったんでしょう」
「ばれてましたか。うまくやったつもりだったんだけど」
秋山は白い歯を見せて無邪気に笑った。
「ありがとうございました」
「大変ですね。美人はゆっくりお茶も飲めないんだな」
からかう口調に、舞は恥じらって目を伏せた。
「少なくともこの店では、僕がしっかり目を光らせておきますから、安心してごゆっくりおくつろぎぎください」
見事なお辞儀をすると、秋山は優雅に歩き去った。
その後1週間、舞はカフェ「ONE plus ONE」に通った。
川村の勤務時間に合わせて張り込んでいたので、秋山は姿を見せるときもあれば、現れないこともあった。
会えば一言二言会話を交わす、顔見知りにさえ満たない間柄。
たったそれだけの、ささやかな関係だ。
そう言い聞かせるたびに感じる、かすかな胸の痛みに、舞は見向きもせずに封をした。




