19.
舞は内心で舌打ちした。
もめごとを起こせば、この店に出入りしにくくなる。
今ここで顔を覚えられるのも厄介だ。
「何でしょう」
事務的に返事をしたが、相手はあまり気に留めていないようだった。
「あのね、俺たち今からカラオケ行こうって言ってるんだけど、君も来ない?」
「申し訳ありませんが、人を待っているので」
若者はあきらめ悪くテーブルに手をつき、身を寄せてきた。
「待って。本当に怪しい者じゃないんだ。そこのW大に通ってる学生だよ。なんなら、学生証見せようか?1時間だけ、それでも無理なら30分でいいんだけど」
舞はきっぱりと首を振り、拒絶の意を示した。
「駄目かな。もちろん、全部俺がおごるよ。カラオケが嫌なら別のところでもいいし」
「申し訳ありませんが、人を待っているので」
あえて全く同じ台詞を繰り返すと、ようやく若者の顔に弱気な色が映った。
このままでは引き下がれないのだろう、仲間のところに戻りづらそうにしている。
舞は鞄から文庫本を取り出し、それを開いて読むふりをした。
強制的に男を視界から断ち切る。
目の端でコンビニを見ると、川村耀が店内に現れていた。
観察しようにも、若者が視界にちらちらと入ってきて邪魔だった。
「あのさ……じゃあ、せめてLINEだけでも教えてよ。ね、このとおり。お願い」
迷惑がいら立ちから怒りに変わりそうになった瞬間、若者が悲鳴をあげた。
「うわっ」
「申し訳ございません」
カフェ店員が、持っていたお盆ごと若者に衝突したようだった。
幸い食べものや飲みものは無事だったが、若者はよろめき、自然と舞から離れる格好となった。
店員は舞と若者の間にさりげなく割って入り、丁重な物腰で、
「お客様、お怪我はございませんか?」
「あ、はあ、まあ、何でもないっす」
若者は恥じ入った表情で、あたふたと自分の席へ退散していった。




