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14.
自家用車で屋敷に戻った舞は、帰るやいなや萌の居室へ出向くよう求められた。
「藤城。その顔は」
廊下を歩きながら、舞は藤城の左頬を指さした。
痛々しく腫れた痕があり、大きな湿布が張ってあった。
「見苦しいものをお見せして申し訳ありません」
「殴られたのね。天河に」
藤城の沈黙は、何よりも雄弁に真実を物語っていた。
「ひどいことを」
「いいえ。身分をわきまえず、天河様に逆らったわたくしが悪いのです」
「待っていなさい。いずれあなたを筆頭執事にしてあげるから」
萌が当主の座を降りれば、天河の地位も筆頭執事から上位執事へと格下げになる。
筆頭執事の地位は、新たに当主に立った人間の執事が継ぐことになる。
つまり舞は、萌に代わって当主の座につくと言ったも同然なのであった。
「いいえお嬢様。わたくしはお嬢様が気にかけてくださった、そのお心遣いだけで十分でございます」
「欲がないのね、藤城は」
「はい。永久に舞様のおそばに置いていただくことだけが、わたくしの願いでございますから」
よくそんなことが言えるものだ。このような異能を持った化け物に。
誠実な表情の青年を、舞は醒めた目で見つめた。




