13.
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
丁重に言い、目礼したのは天河だった。
舞の表情は驚きから、冷ややかなものへと変わる。
周りを見れば、このむし暑い中、律儀にも背広を着込んだ美しい青年の姿は注目の的となっている。
「何の用」
不快感をあらわにして、舞は言い放った。
「萌様がお呼びです。お楽しみのところ大変恐縮ですが、至急お屋敷にお戻りいただきたく存じます。正門を出たところで、藤城がお車にて待機しております」
口先だけは詫びていても、鋭利な眼光にはいささかも謝罪の色は込められていない。
舞はくっきりと眉根を寄せた。
「ここへは来るなと言ったはずよ」
「藤城はたいそう恐縮しておりました。二時間ほど前ここへ到着した際、せめて正午までは待つようこのわたくしに申し出てきましたから」
天河は御剱家の筆頭執事である。
彼に逆らうことは、御剱家当主の意向にそむくことを意味する。
このままでは、藤城はただでは済まされないだろう。
「その申し入れを呑んだだけ、譲歩したと言いたいの」
「いいえ、そのようなことは。ただ、舞様の慈悲深きお心で藤城をお救いになることは可能かと」
「この私を脅すというわけ」
舞は腕を組み、冷酷にしなる鞭のような声で凄んだ。
萌からの呼び出しは、日向野から任務の依頼があったことを意味する。
帰還すれば、ただちに指令が下されるだろう。
少女でいられる時間を奪われ、非情な竿斬りへと引き戻される。
嫌だと心は叫んでいる。
けれど、どんなに抵抗したところで、力ずくで連行されるのは目に見えているのだ。
「舞!プレーンとね、苺とチョコ、どれが……」
何も知らず駆け寄ってきた朋子が、天河の姿を見て絶句する。
その細い指先から、チュロスの袋が哀しい音を立てて地面へ落ちた。




