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02

俺とシンが出会ったのはもう10年も前の事。


けれども、アイツと出会った日は今でも鮮明に覚えている…



「もーいいかい?」


「まーだだよ」


「もーいいかい?」


「……」


幼稚園の休み時間、友達とかくれんぼをしていた。

俺が鬼で皆を探すために園庭をぱたぱたと駆けまわる。


「みーっけ!」


「レイがおにだとつまんない!すぐみつかっちゃう!」


滑り台の下やトンネルの中、トイレ、色んな場所へ探しにいくと

だいたい誰かがそこに隠れていた。


「ここもいない…」


それでも、あと一人がどうしてもみつからなくて、

園庭の隅っこまで探しに行った。

すると、その茂みからがさがさと音が聞こえた。

おまけにそこに隠れた影が動いている。


「みーつけた!」


絶対にそうだと思って走っていった。

バサッと植木に乗り上げてそう叫ぶ。


「―――!?」


けれども、そこにいたのは友達じゃなくて全く知らない子だった。

真っ白で、金色に近いふわふわの髪の毛に

大きなビー玉みたいな深い紺色の瞳を持った女の子がいたんだ。

陽射しを浴びてキラキラと輝くその子は

まるで、おとぎ話に出てくる天使そのものだった。


思わず息を飲む。


この世にこんな綺麗な人間がいるのかと、本当に驚いた。

あまりに鮮烈で雷に打たれたような衝撃を受けたんだ。


「きみ、だれ?」


「……」


問いかけても、じっと俺を見つめるだけで答えてはくれない。


「おーい!レイ!なにしてんだよ~!」


「やすみじかんおわっちゃうよ!」


そんな中、一緒に遊んでいた奴らが俺を呼ぶ。


「わかった!すぐいく!!」


見つけたこの天使を俺だけのものにしたくて、皆には内緒にした。


「ねぇ、またすぐここにくるからぜったいいてね」


終始無言の彼女に、俺は一方的にそう告げてあわてて教室へと戻ったんだ。

その後、帰りに急いでさっきの場所に戻ったけれど、あの子はいなかった。


「レイ、どうしたの?大丈夫?」


「うぅ…」


ショックを受けて、家に帰っても何もしないで

部屋の隅でずっと泣いていた俺。

いつもはすぐに遊びに出かけてしまうのに、

あまりに違う様子に母親は驚いていた。



そんな次の日、幼稚園で朝の時間に先生からのお知らせがあった。


「今日から新しいお友達がきます!」


そして教室に入ってきた転入生をみてびっくりする。

なんと、昨日、逃げてしまったと思った天使だったからだ。


「お名前を大きい声で言おうね!」


「…さいとう…しんです」


先生に促されて、天使は小さな声でそう名乗った。

そこで初めて男だと知った。

そして、アイツは何処かの国のハーフらしい。


それがシンとの出会いだった。

あの日、この街に越してきたアイツが同じ幼稚園に来たんだ。


俺はアイツ以上に美しいものを知らない。


本当は男だと知った後も、それは変わらなかった。



「ねえ、おれのことおぼえてる?きのうあったよね?」


「うん…かえってごめんね。おねえちゃんがむかえにきたから」


ちゃんと俺の事を覚えてくれてたし、謝ってくれた事もすごく嬉しくて

俺はアイツに更に惹かれていつも一緒にいるようになった。


「レイ、まってよ!」


「シン、はやくしろよ!ジャングルジムのぼろうぜ!」


クラスの隅っこで絵本を読んだりしている

アイツの手を引っ張って外へ連れ出す。


家にも連れてきて、母親の焼いたクッキーを一緒に食べたりしていた。

今でもアルバムのページをめくれば、幼い俺とシンが

2人で並んでる写真がたくさんある。

一緒に昼寝している写真やお風呂に入ってる写真。

全部の思い出がアイツと一緒だった。



けれど、時折不思議に思う事があったんだ。



「おい!シン、みろよ!これすごいだろ!?」


ある日、家に遊びに来たアイツとリビングのソファでぴょこぴょこ跳ねて

遊んでる時に、戦隊ヒーローの変身ベルトをみせた。


「ほんとだ!すごーい!ね、へんしんしてみてよ!」


「おーっし!まかせろ!」


掛け声とともに変身ポーズを決めると、シンは"おおっ!"と沸き立つ。


「これ、おれのたんじょうびプレゼントなんだぜ!」


毎年、俺の誕生日には家族だけじゃなくて

じいちゃんやばあちゃんまで呼んで盛大に誕生日会が行われていた。

そこでもらったのは、欲しくて欲しくて堪らなかったこのベルト。

だから、自慢したくて仕方なかったんだ。


「たんじょうび…プレゼント?」


けれど、俺の予想とは反して、シンは不思議そうに目を丸くしていた。

まるで誕生日にプレゼントをもらう事自体が有り得ないという感じだ。


「なんだよ!たんじょうびってすっげえひじゃん!

 おれがしゅやくでみんなにいわってもらって、

 プレゼントももらってさ!ごちそうもたくさんたべれるし!」


「…そんなことない」


「えっ!?」


シンの発言にびっくりする。

当然、誕生日なんてのは皆が同じ様に

祝ってもらっているものだと思っていたから。


「ぼく、たんじょうびなんていわってもらったことないよ。

 おねえちゃんはそんなことしない」


シンは年の離れた姉さんと2人暮らしで、

両親は亡くなっているのは知っていた。


「じゃあ、おれがおまえのたんじょうびにプレゼントおくるよ!

 これからずっとずっと」


祝ってもらう喜びを知って欲しくて、そんな事を提案した。

けれど、アイツの表情はますます暗くなるばかり。


「…べつにいいよ。ぼくにはたんじょうびなんてかんけいないから」


「なんだよ…それ」


納得がいかなくて問い詰めようとしたけれど、

目を伏せて口をつぐむシンにそれ以上は何も言えなかった。

それは、ただ自分の生まれた日を祝ってもらえないというだけでない、

それよりも更に深い諦めみたいなものが潜んでいる気がしたから。


二人の間にある溝の存在を知らされた出来事だった。

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