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乙女ゲームのヒロインは推し活がしたいのです  作者: ひよっと丸


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6/6

第6話 推しの推しは推しなので


「逆だ、逆」


 顔は真っ赤にはなってはいないものの、明らかにクラウディオは恥ずかしそうな顔をしていた。もちろんアンジェリーナだけの当社比である。周りから見たらいつもの仏頂面で感情の籠っていない声を出しているだけにしか見えていない。


「はい?」


 手を差し出したままアンジェリーナは顔を少しだけ上げてクラウディオを見た。


「俺が手を差し出してお前が手を取るのだろうが。何を見ていたんだ。これだから庶民は……」


 クラウディオがそう言い放つと、アンジェリーナの前身に震えが走った。それはもちろん、恐怖からではなく、感動してのことである。なにしろ、推しに叱責されたのだ。乙女ゲームで出てきたセリフのままに罵倒されたのである。


(ヤバイ、ヤバすぎる。推しが、推しに、推し)


 アンジェリーナは感極まって固まってしまったのだが、周りから見れば罵倒されて萎縮してしまった可哀想な平民の女子生徒である。


「ほら」


 クラウディオがアンジェリーナの前に手を差し出した。その手にはキッチリと白い手袋がはめられていた。


(推しの白手袋頂きましたァ)


 アンジェリーナは内心ガッツポーズを決めながら、背すじを正しそっとクラウディオの手のひらの上に自分の指先を置いた。その直後、教師が音楽をスタートさせた。乙女ゲームで何度も聞いた曲である。いや違う。アンジェリーナは記憶がみるみる蘇っていくのを感じた。この曲は知っている。そしてステップも。前世でアンジェリーナはクラウディオが推しだった。そしてクラウディオが出てくるこの乙女ゲームが、大好きだった。だからイベント事には参加しまくっていた。その中でも、特に熱量が高かった、すなわち課金しまくっていたイベントがあった。

 それはお茶会である。

 2.5次元俳優が攻略対象者たちとなり、ヒロインたちをもてなしてくれる乙女ゲーム版のメイド喫茶のようなものだった。大きな違いは課金をすれば攻略対象者に分した2.5次元俳優とダンスが踊れたことだ。そう、アンジェリーナは課金しまくりクラウディオに分した2.5次元俳優とダンスを踊りまくっていたのである。だからリズムもステップもアンジェリーナの魂に刻み込まれていると言っても過言では無い。だから、本来なら脳みそ沸騰ものの状態であるにもかかわらず、アンジェリーナは完璧なステップを踏んでいた。平民の女子生徒にも関わらず、自分の足を踏んでくるようなヘマをしないアンジェリーナに気を良くしたのか、クラウディオもなかなかなステップを踏み始めた。

 アンジェリーナは魂に刻み込まれた記憶のままにステップを踏み、クラウディオのリードに合わせて華麗なターンを決めまくった。そして、残念なことにショタ枠であるクラウディオの顔はアンジェリーナにものすごく近かった。近すぎてしまい、長いまつ毛まで金髪であることや、緑色の瞳も中心は黒いことなど余計なことまで見えてしまった。


「あの、クラウディオ様」

「なんだ」


 ターンを決めながらもアンジェリーナは懸命にクラウディオに話しかけることに成功した。


「おつかれでいらっしゃるのでしょうか?目の下にクマがめだちます」

「クマ?」

「はい。あの目の下の辺りが黒くなっています」


 どうやらこの世界では疲れてる状態の顔のことをそのようには言わなかったらしい。まぁ、確かに乙女ゲームの世界であるから、本来ならそんな現象なんて起こるはずがないのだから。


「クラウディオ様がとても勤勉でいらっしゃるとお聞きしています」

「ふん。領地を治める貴族として当然のことだ」


 もちろん、そんなことはアンジェリーナは知っている。乙女ゲームのキャラ名鑑にそのことはしっかりと書かれていたからだ。次代の侯爵として領地を治めなくてはならないクラウディオは、毎晩遅くまで領地経営の書物を読み、父親がまとめた領地の帳簿を確認しているのだ。それが悪いこととは言わないが、学校の勉強もしてさらに領地経営学までやっているのだから、それは睡眠時間が大幅に削られていることだろう。睡眠不足はお肌によろしくない。夜のゴールデンタイムに魔道具の明かりで書物を読んだり帳簿の確認をするのは目も疲れるだろう。それがクラウディオの表情を険しいものにしているのだとアンジェリーナは考えたのだ。


「クラウディオ様は夜遅くまで起きていらっしゃるのですよね?」

「当然だ」

「すごくよろしくないと思います」


 アンジェリーナが、バッサリ切るように言うとクラウディオの眉間にシワがよった。


「夜遅くまでクラウディオ様が起きていらっしゃると、クラウディオ様付きのメイドさんたちが寝られません。いつ何時クラウディオ様に呼ばれるかかわらないから、気を張って待機していなければならないではありませんか」

「夜中にメイドを呼ぶことはしない」

「それでもクラウディオ様付きのメイドさんたちは待機しなくてはなりません。仕えるクラウディオ様が起きていらっしゃるのですから」


 アンジェリーナがハッキリと告げれば、バツが悪いと思ったのか、クラウディオはありえないタイミングでアンジェリーナにターンさせた。


「それに、ですよ。夜中に起きているということは、貴重な魔石の灯りを使用することになります」

「魔石などいくらでもある」


 鼻を鳴らしながらクラウディオが吐き捨てるように答えると、アンジェリーナはターンの勢いのままクラウディオに顔を近づけた。


「有り得ません。魔石は高価なものです。私たち平民は暗くなれば寝ます。夜更かしの為に魔石の灯りを使うなんて贅沢な真似はできません」

「それはお前が庶民だ……」

「贅沢は許されざれる悪です。クラウディオ様は領民がより良い暮らしをするためにお勉強なさっているのですよね?」

「そうだ」

「ならば夜更かしは領地の暮らしを苦しいものにする行為にほかなりません」

「何故だ」

「贅沢だからです。高価な魔石を湯水の如く使えるのは貴族の特権ですが、その魔石を購入するお金は領民が納めた税金からではありませんか」


 アンジェリーナに指摘され、クラウディオは真一文字にくちびるを閉じてしまった。


「それに、夜更かしは秒の敵なんです。メイドさんたちを夜更かしさせるなんて、肌荒れの元です。寝不足は仕事に支障をきたします」

「…………」


 グルっと回転させらながらも、アンジェリーナはなおも話しというお説教を続けた。


「早起きをするべきです。領民の心をつかむ為には同じような生活リズムをするべきです」

「早起きだと?」

「そうです。朝早く起きれば魔石の灯りを使わなくて済みます。お日様の光でちゃんと本が読めるし、帳簿の文字だってしっかりと確認できます。それに、クラウディオ様が夜、早く寝ればメイドさんたちも早く寝られます。だって、メイドさんたちはクラウディオさまよりも早起きをしなくてはならないんですよ?メイドさんたちの睡眠時間が確保出来ます」

「なるほど」

「クラウディオ様の護衛の騎士たちは早起きしていませんか?総長に素振りをしたり稽古をしたりしていませんか?」

「しているな」

「ご一緒に身体を動かすのがいいとおもいます。だってー守られるガワが弱すぎたら護衛する方も大変じゃありませんか?それに、一緒に身体を動かしてコミュニケーションを取れば信頼関係も深まります」

「なるほど、一理あるな。なかなか弁が立つかな庶民」


 そういうとクラウディオはアンジェリーナ手を高く掲げクルクルとまわし、音楽に合わせてピタリと背中を抱くようにして止めたのだった。


「なかなか有意義な時間だった。褒めてやる」

「ありがたき幸せにございます」


 パートナーにお辞儀をして解散。と、なるところだったのだが、クラウディオから待ったがかかって。


「まて庶民。なんだそのカーテシーは」


 スカートの端をつまんだまま、アンジェリーナは固まった。


「お前はロドリゲス嬢の何を見ていたんだ。ステップだけは上等であったが、最後がなっていない。今一度ロドリゲス嬢に教えを乞うことを勧める」


 そう言ってクラウディオはアンジェリーナに背を向けてしまった。そしてそのままダンスホールを後にする。アンジェリーナはそんなクラウディオの背中を見つめたままじっと動かなかった。傍から見れば、以下略。


「アルテマ様」


 俊敏な動きでアンジェリーナはアルテマの前にたった。もちろんいつも通り取り巻きたちからの冷ややかな視線のオプション付きだ。だが、そんなことで怯むようなアンジェリーナではない。なにしろ推しの推薦なのだ。


「あら?なにかしら」


 先程のクラウディオとアンジェリーナの会話は絶対に聞こえていたはずなのに、アルテマはあえて素知らぬ顔でアンジェリーナに聞いてきた。これが貴族の処世術なのだろう。


「はい。先程クラウディオ様とダンスをしたのですが、最後のカーテシーができていないと指摘されました。そして、ロドリゲス嬢に教えを乞うように言われた次第です」


 アンジェリーナは精一杯畏まった。頭の中にある限りない知識から引っ張り出した単語を必死に繋ぎ合わせ、なんとか先程のクラウディオとのやり取りをアルテマに伝えた。アルテマの取り巻きたちだって、絶対に先程の会話が聞こえていたはずなのに、誰一人として好意的には見てくれていないし、同情もしてくれはいなかった。


「あらまぁ、クラウディオ様はお厳しいのね」


 ころころと鈴の音を転がすような笑い声を出してアルテマは言った。どこに隠しているのか分からないけれど、扇が出てきて口元を隠すことを忘れないあたり、乙女ゲームにおいての絶対的悪役令嬢である。


「向上心のある事は良いことですわ。もちろん、わたくしでよろしければ喜んでお引き受け致しましょう」


 乙女ゲームでの面識、耐性がなければ、アルテマの芝居がかったようなものの言い方に、うっかり笑ってしまいそうになる。いやいや、現実でこの喋り方は凄すぎる。アンジェリーナはそんなことを思いつつも、アルテマに礼を言うのであった。


「この後お時間はよろしいかしら?善は急げと言いますでしょう?せっかくダンスホールにいるんですもの、あちらのおおきな鏡の前でお教え致しましょう」


 アルテマがダンスホールの奥にある大きな鏡の壁を示した。空間を広く見せるためのものでもあるし、ダンスの練習の為のものでもある。


「もちろんです。アルテマ様のお時間を頂けるなんて光栄です」


 アンジェリーナが嬉しそうにそんな返事をすれば、取り巻きたちが何故か満足そうな顔をした。


「「「あのっ」」」


 壁際に集団で固まっていた平民の女子生徒たちが一斉に駆け寄ってきた。貴族のご令嬢ならハシタナイ。と、言われてしまう行動であるが、そこは平民の女子生徒たちのしたことなので、アルテマも少し目を見開いただけだった。


「何かしら?」


 ここでの発言権があるとすれば、イチモニもなくアルテマである。取り巻きたちになんぞあるはずもなかった。


「わ、たしたちにも教えてはいただけないでしょうか?」


 一人が勇気を振り絞って声を出した。後ろに立つ平民の女子生徒たちも緊張した面持ちでアルテマを見つめている。


「……もちろん、宜しくてよ?」


 一拍置いて、少し含みのあるような言い方をするのもなんとも悪役令嬢らしくて様になっていた。この余裕、この高圧的な態度、これでこそ乙女ゲームの悪役令嬢である。


「それでは皆さん、あちらに移動致しましょう」


 アルテマについて、女子生徒たちが移動する。何故か取り巻きたちも付いてきて、ものすごい人数になっていた。


「アルテマ様」


 明らかに貴族の女子生徒だが、アルテマの取り巻きではない女子生徒が口を開いた。


「あら?何かしら」


 扇で口元を隠しながらアルテマが答えた。当然ながら、取り巻きたちの視線がその女子生徒に集中する。


「恐れながら、私にも教えていただけないでしょうか」


 本当に恐る恐ると言った感じで取り巻きたちの視線に怯えながらようやく口を開いた。そんな感じのするやや震えた声だった。それは確かに公爵令嬢であるアルテマにおいそれと声をかけるなんてできることでは無い。だがしかし、ここは学校、目の前で平民の女子生徒たちがこぞってアルテマに教えを乞うているのだ。貴族令嬢であるからには、家庭教師や母親に礼儀作法は厳しく躾られてはいる。だが、完璧か?と問われれば、それは違う。どう見てもアルテマよりおぼつかない。清廉さに欠けるそれでもまぁ、見苦しいわけではない。けれど、目の前公爵令嬢たるアルテマが教えてくれる。と言う絶好の機会が繰り広げられるというのならば、それに便乗したい。と思うのは仕方の無いことだろう。


「もちろん宜しくてよ。わたくし、向上心の有る方は大好きでしてよ」


 アルテマがニッコリ微笑んで快諾したものだから、取り巻きたちは歯ぎしりをするしかなかったのであった。

 

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