第12話 シャチ
「ペリカンは、何者かに操られている」
それが、俺の推理だった。
習性に合わない行動をするということは、何か別の力が介入しているとしか考えられないし、何かを器にするのにわざわざペリカンを選んだ理由も思いつかなかった。
それ故に、このペリカンは何者かに操られているのであろう。
「動物を操る能力...か」
もしくは鳥類を操る能力かもしれない。まぁ、詳しくは断定できないだろう。
「ペリカン、来るよ」
「よっし、ありがとう」
お姫様抱っこをしている状態であるから、カスミは空を飛んでいる3匹のペリカンがよく見えている。
だから、ペリカンを飛んでくる等の情報を教えてくれるのであった。
「───っと!」
俺は、急降下してくるペリカンの動きを見極めて、避ける。相手は、操られているだけのペリカンだ。
だから、このペリカンは悪くない。傷付ける必要はないのだ。
───そして、わかったことがある。
イルカを見ていた子連れの若い夫婦は、こちらを見て逃亡を選択していた。こちらとしても嬉しい判断だったし、彼らは俺にヒントを与えてくれた。
「───ペリカンを操っている人の能力では、人間を操れない。または、人間を操るだけの条件を満たせていない」
使役・調教等の性癖なのかもしれないし、それを断定する術は今の俺にはない。だけど今、俺やカスミ、そして子連れの夫婦が操られていないということは、人間は操れない───と考えていいだろう。
「ペリカンが操れるってことは、ある程度親密度が必要なのか?親密度の高い動物を操れる能力なのかも───ッ!」
俺が、シャチの水槽の前を通ろうとした時。
ドパンッと、重低音がして、俺とカスミの2人にシャチが入っていた水槽の水がかかる。
「───んだよッ!」
”ザパァァン”
「───ッ!」
俺の頭上に飛び出してきたのは、体調5mを超えそうな巨大なシャチ。水槽の中で勇猛果敢に泳いでいる姿と、こうも飛び出してその鋭い牙のある口を開いている姿を見ていると恐怖感は違うものなのだろうか。
「シャアアアチ!」
俺は、そんな声を出しながら水槽のガラスを飛び出して俺のことを丸呑みして食おうとしてくるシャチの下を全速力で通り抜ける。
「シャチまで操れんのかよ!」
周りにいる動物は、全て敵だらけ。動物園だったら、もっとやばかったな───などと思いつつ、俺達のことを襲っている能力を考察する。
「ペリカンだけじゃなくシャチまで動かせるってことは、人間を除いた全ての動物を操れるって考えてもいいかもな...しかも、ほとんど無条件に等しいような感じで」
後方で、ドンッという大きな音が鳴り、その音で顔からシャチが地面に着地したことを察した。そして、バタバタと跳ねる音が聞こえてきていた。
「───ッ!」
後ろを振り向く暇も与えられず、俺の目の前から接近してきたのは、鋭い嘴を持つペリカンだった。
しかも、顔の高さではなく俺の胸の高さ辺りで飛行しているから、避けるのも難しい。
「殺しにきてやがる!」
俺は、カスミにペリカンが当たってカスミが怪我をしないように、最新の注意を払いながら、もう中身が空っぽであるシャチの水槽の方へ飛ぶ。
この水族館の中心を通る1本の線を軸とすると、シャチの水槽の線対称の場所にイルカの水槽があった。
だから、先程の家族は問題ないだろう。一番の問題は、俺達だった。
「何が狙いでこんなことしてんだよッ!人のデートを邪魔しやがって!」
俺は、そんな愚痴をこぼす。折角楽しい思いをしようとここまで来ているのに、どうしてこんなひどい仕打ちを受けなければならないのだろうか。
「───ったく、どうすれば!」
とりあえず、俺がする必要があるのは能力を使用している人物を探し出すことだった。
「動物を操る能力だからどこにいるのかわからねぇ...」
───いや、わかるかもしれない。
動物を操るという能力。もしそれが自動操作なのであれば、習性に従った行動をするはずだった。
ならば、これは人が実際に見て行っているだろう。そうでないと、辻褄が合わない。
そして、正確に俺達を狙うペリカやシャチ。ならば、俺達のことをどこかで確認しているということだった。
「───ッ!」
俺は、上空を見る。そこでは、旋回しつつ俺達の上空をグルグルと飛び続けるペリカン。
「こいつらが目印か!」
どこか遠くで、ペリカンのことを見て俺達の位置を把握しているのかもしれない。この大都会で、ペリカンが何匹も翔んでいればそれは目立つだろう。
「遠くで見ているのか?」
ペリカンがいれば、遠くから狙うこともできるだろう。水族館の立地さえ正確に把握できれば、俺のことを狙うことだって可能。
「───なら、ペリカンがいないところに隠れればいいのか?」
屋内にいた時に攻撃されなかったことが、それならば理由になる。
「レン、大丈夫?怖い顔してるけど...」
「大丈夫...色々察しがついた。とりあえず、室内に移動しよう」
俺が目指すのは、進む先にあるおみやげショップだった。そこならば、空中を翔んでいるペリカンだって通用しなくなるだろう。
もう、おみやげショップは目と鼻の先だった。