信者と部族
仕事をしていてふと思ったことを口にする。
「そういえばうちの信者って何族になるんだ?」
「え?」
サチに急に何を?みたいな顔された。すまんね、唐突で。
「魔族は魔神信仰だから魔族なんだろ?じゃあうちの信者もそういう呼称になるのかなって」
「あーそういう事ですか。そういえばその辺りの説明をしていませんでしたね」
うん、詳しく聞いてない。
「まず最初に下界にも神が存在します。正確には神をはじめとした崇められている存在です。オアシスの街の創設者である勇者がこれに当てはまるいい例ですね」
「ふむふむ」
「現存するしないは関係なく、象徴として扱われ、それがそのまま部族としてのくくりになります」
「さっきの例だと創設の勇者を崇めてる人達の事をコスプ族って呼ぶみたいなこと?」
「そうです。つまり魔族も魔神という存在を信仰している部族という事になります」
なるほど。
「じゃあうちは?」
「以前の神様ですとこの部族のくくりで良かったのですが、ソウが神になってからは完全に別扱いになりました」
「え、そうなの?」
「はい。部族を問わず信者になる人は信者になり、同じ部族でも信者になる人とならない人が存在するようになりました」
そういえばそうだな。
「傾向とかわかる?」
「統計を取っていますが、私ではちょっと・・・」
「ちとその統計したもの見せてくれる?」
「はい、どうぞ」
ふむ。どれどれ。
サチが送ってきたサブウィンドウには現在の信者一覧と部族内での信者の有無の色分けなどされた統計結果が事細かに載っている。
一通りじっと眺めて傾向として分かったことが一つある。
「これ、心に神を感じてる人が信者になってるな」
「心に神?どういうことですか?」
「んー・・・説明が難しいな。部族の象徴とは別の存在というかもっと漠然としたものというべきか」
サチがわからないという表情でこっちを見てくる。
「例えば悪いことをしたら天罰が下るとか、物には神が宿ってるから大事にしようとか、困った時にダメもとで願う先とかそういう事を考える人が信者になっている気がする」
「オアシスの街で急激に信者が増えたのは、ソウの言う例えで言うならば恋愛成就してくれる存在が居ると心に思ったから増えたということですか?」
「うん、そうそう。そんな感じ」
理解力のある子で本当に助かる。
「はー・・・なるほど・・・」
「恐らく象徴への信仰が熱心な部族はなかなかうちの信者にはならないと思う。コスプ族がそんな感じだったからな」
「ということはソウの定義ですと、魔族も魔族のまま信者になる可能性があるという事になりませんか?」
「希望的観測だが多分信者に出来るんじゃないかな。ただし熱心ではない魔神信者に限るが」
「どういうことですか?」
「魔神、魔の神というはっきりとした象徴が頭の中に作られてしまっているだろうから、その思考に俺のような他の神の存在が入り込む余地は無いから無理だと思う」
コスプ族も過去に実在してたり街に像があったりして想像がしやすいからこそうちの信者になり難かったんだと思う。
恋愛という別方向の観点から神という願いを叶える存在というのを認識したおかげで信者になってくれた感じだな。
「なるほど」
「逆に熱心でなければ魔神の存在に疑問を抱くだろうから、そうなると俺の存在が入り込む余地が出来て信者になることもありえるんじゃないかな」
どうやって入り込むかは俺にはどうにも出来ないから流れに任せることになるが。
「そういう事ですか」
「うん。まだ魔族の事も良く分からないし、仮説の域は越えないけどね」
「いえ、参考になりました。信者統計の一つの考えとして見てみようと思います」
「うん、よろしくー」
こうやって話すと頭の整理がされていって良い。
そして一つ思ったことがある。
恐らく魔神は象徴ではなく存在する。
それが下界内の天使のような位置にいるのか、はたまた俺と同じ存在なのかはわからないが、やはり警戒すべき存在であることを感じた。
あーあ、この前の会合でもう少し魔神とか魔王とかの事について他の神々に聞いておけばよかったなぁ。




