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白と黒の特異点〜互いの家族を殺した2人が出会うまで〜  作者: 福岡へむ
第五章 革命の光
107/122

51 約束(白)

[カオリー]とは、立松華織の西側での呼ばれ方です。夫であるアンドレ以外の革命派の人間は全員その名で呼びます。

 翌日、3人はムロストの街を歩いていた。


「いやぁ、昨日は悪かったな。ウチの団長がいきなり。」


「まったくですよ。この腕、傷口は浅いけど内部の筋繊維が焼けてて完治するまで1ヶ月はかかるって。」


 ヴァルスは包帯を巻かれた左腕をナルキに見せる。


「マジですまねぇな。嬢ちゃんも、怖い思いさせて悪かった。」


「殺されかけるのは慣れっこよ。でも、今日も同じ事になるんじゃないでしょうね?」


「いや、それだけはない。昨日も電話で言ったが、団長も大いに反省している。それに仮に昨日のようになっても俺が全力で止めるから安心してくれ。」


「安心できないわね。あんな狂気的な目をした人は初めてよ。私に相当な憎悪を抱いているに違いないわ。」


「明日は俺も油断しない。最悪の場合はあの人を殺す覚悟もしてきた。俺が守るから安心してほしい。」


「……うん…分かった。」


「やっぱ態度が全然ちげぇ…まぁいいや。それよりも先を急ぐぞ。」



 再び3人は林を抜けて別の建物に辿り着いた。そこでもナルキが暗号を言い、中に入る。そして今度も地下にある和室に案内された。


「団長、ナルキです。」


「入れ。」


「失礼します…ぅ!?」


 ナルキが中に入ると衝撃の光景が広がっていた。


 中にいたヒューラは天井に吊るされた鎖付きの手枷で繋がれていた。それどころか、両足も枷で拘束されており身動きがほとんど取れない状態だったのだ。


「団長、これは一体…」


「また私が暴れ出さないように、自ら自由を奪った。これで2人も安心して話を聞けるだろう。…あん。」


 自由を奪われたヒューラは何故か恍惚とした表情であり、たまに小さく喘いでいる。


「……」


 ヴァルスとリシェルはそれを見てドン引きしていた。

 冷え切った空気を変えるためにナルキが苦笑いしながら話し始める。


「まぁ、団長からの誠意って事で2人とも少しは安心してくれる…かなぁ?」


 困惑したナルキに聞かれて、2人も正気に戻った。


「何だか警戒していたのが馬鹿らしくなって来たな。いつもはクールなのにポンコツだったリミ姉を思い出したよ。」


「こんな変態が団長で大丈夫なの?『革命派』は変態の集まりなのかしら?」


「失礼だな、私は変態などではない。…あぁん!」


「あははは……まぁこんなでも、強さと頭の良さは比類ない。『革命派』が帝国に潰されずにやってこれているのは、ほとんどこの人のお陰と言っていい程に凄い人なんだ。性癖だけは目を瞑ってくれ。」


「私などまだまだだ…()()に比べればな…それよりも2人とも、昨日の事を謝罪させてくれ。本当にすまなかった!」


 拘束されたまま、ヒューラは最大限の誠意を込めて謝罪した。その言葉は嘘偽りなく本心を述べているとその場の全員が理解した。しかし一度殺されかけている2人は手放しに許すことは出来ない。


「許すかどうかは貴方の話を聞いてからです。詳しい話を聞かせてください。」


「もちろんだ。包み隠さずに全てを話す事を誓おう。

…その前に一つだけ彼女に質問させて欲しい。リーシェ、私の事を覚えているか?」


 ヒューラは真面目な顔でリシェルに問うた。


「私?…うーん…正直全く覚えてないわ。ごめんなさいね。」


 リシェルは少し考えるがやはり全く覚えていない。


「いいや、ダメ元で聞いてはみたが覚えているはずはない。何故なら私がお前と最後に出会ったのは17年も前の事なのだからな。」


「17年前…って!私1歳じゃない!!そんなの覚えてるわけないでしょ!」


「今から17年前、私は今と同様、『革命派』に所属していたんだ…




ーー15年前ーー


 とある訓練施設で2人の男女が話していた。


「はぁ、疲れた。どうでしたか、先輩?」


 能力を鍛える為に、広範囲の火力調整をしていたヒューラは目の前で見ている男に話しかける。


「うむ、やっぱりお前は筋がいいな、ヒューラ。あと10年もすれば俺どころかアンドレ(アイツ)よりも強くなれるんじゃないか?」


「ありがとうございます!コニル先輩!!私、頑張ります!!」


 コニルと呼ばれた目の前の男からの言葉に、ヒューラは満面の笑みを浮かべる。すると、遠くから声が聞こえる。


「2人ともお疲れ様。はい、冷たい水だ。」


 訓練を終えた2人の元に現れたのは赤子を抱えたアンドレだった。


「団長!!ありがとうございます!!」


「サンキュー。」


 2人はアンドレから水を受け取って一気に飲み干す。それを見てアンドレはヒューラに話しかける。


「ヒューラ、革命派(僕たちの組織)にも慣れて来たかな?」


「はい!皆んな優しくて、本当に毎日が楽しいです!!…あの地獄から救ってくれたコニル先輩たちには一生頭が上がりません!」


 ヒューラは幼い時からとある貴族の奴隷として生きて来た。約1年前、革命派がその貴族を殺害し、囚われていたヒューラは救い出されたのだ。


「でも良かったのか?お前たちを飼って喜んでたあのクズから解放した他の子供たちは皆んな故郷に帰ったのに、君は革命派(ウチ)に入った。ウチは皇帝と敵対している。脅すわけじゃないが、万が一にもウチが負けて君が捕まればあの時以上の地獄を味わう事だってあり得る。」


「そうですね…あんな地獄はもう勘弁です。でも、私が頑張れば私のような被害者を少しでも減らせるかもしれない!その為に、私も命懸けで頑張ります!」


「くぅー何ていい女なんだ!!アンドレ、俺がコイツを嫁に貰っていいか?」


「コニル先輩!?」


「うん!僕も2人はお似合いだと思うよ!少し歳の差はあるけど、愛の前ではそんな事は関係ないね!ヒューラが結婚できる年齢になったら式をあげよう!華織もきっと賛成するよ!」


「私なんかがコニル先輩と結婚なんて…うへへ…」


「うぇええん!!」


 その瞬間、アンドレの腕の中にいた赤子が泣き始めた。


「うわぁあ…またやってしまった。どうしよう、どうしよう…」


「落ち着けよアンドレ、父親であるお前がそんなんじゃ(リシェル)が可哀想だろう?」


 あたふたしているアンドレを見てヒューラが優しく赤子(リシェル)を抱き上げる。


「少し貸してください。はーい、リーシェちゃーん。大丈夫でちゅよー。ヒューラお姉ちゃんが付いてますからねー。いないないばぁ!」


「……」


 それをみて赤子(リシェル)は泣き止んだ。そしてそのままヒューラの腕の中で眠ってしまった。


「すごいね、流石は女の子同士だ。やっぱり男の僕ではダメらしい。」


「何言ってるんですか、カオリーさんが居ない今、父親である団長が頑張らないと!」


「カオリーのヤツ、産むだけ産んで直ぐに戻って行ったからな。全く、母親としての自覚あんのか?」


「コニル、華織はそんな薄情な人間じゃないよ。彼女は恩人への義理を果たしに行ったんだ。それに今の抗争が終わったら、組をやめてこの子の母親と、『革命派』の支援に専念すると言ってくれた。だからしばらくの辛抱だ。」


「リーシェちゃーん。ママがいつか帰ってきますからねー。それまでは私がママでちゅよー。」




ーー現在ーー


まだ1歳だったお前を泣き止ませたり、オムツを変えたり、カオリーさんの代わりに私が世話をしていたよ。」


「うんうん、普通にメチャクチャ世話になってるな、リシェル。」


「そ、そうね。でも流石に何も覚えていないわ。父親の顔すら分からないんですもの。」


「私はな、元々良いところの令嬢だったんだ。しかし親の事業が失敗し、とある変態貴族に売られ、地獄のような日々を過ごした。私のこの性癖も、その変態貴族(ブタ)に調教され続けた副産物と言える。そんな私を助け出してくれたコニル先輩、団長やカオリーさん、今の副団長など多くの仲間に恵まれた。今思えばあの時が私の人生の絶頂期だった。多くの仲間に囲まれ、切磋琢磨した日々。大好きな人と共に過ごす時間。一日たりとて忘れた事はない。

 しかし()()()、我々の幸せを破壊する事件が起きたのだ。」




ーー17年前の()()()ーー


「クソッ!皆んな大丈夫か!?グォオ!!」


「コニル先輩!!」


 吹き飛ばされるコニルを見てヒューラは叫びを上げる。数刻前までは穏やかな雰囲気だった『革命派』の本部が今や火の海に包まれていた。その原因は、奇襲を仕掛けて来た帝国軍だった。どこからか情報を掴んだ帝国軍は大量の戦力を持って『革命派』の壊滅作戦を決行したのだ。

 本部にいた革命派の人間は既に半数以上殺されており、残っていたのは生粋の武闘派である構成員ばかりだった。

 

「イッテテ…ちくしょう…何でここがバレた…おいイズカン!どうなってんだ!」


 頭から血を流して立ち上がるコニルの近くで闘っていたイズカンが答える。


「おそらく裏切り者だ。すまん、多分俺がドジった。」


 イズカンは『革命派』の参謀として人員の調整などを行なっていた。イズカンによる情報統制は完璧だと思われていたが、今回は情報が流出してしまった。理由が分からない以上、イズカンの監督責任であると本人が言ったのだ。


「マジかよ、しっかりしてくれよ!参謀!」


 冗談混じりにコニルがイズカンに呟くが、少し遠くから声が聞こえる。


「…今のを受けてもまだ生きてるんだ…凄く、丈夫…」


 小さな声で呟きながらコニルの元へ歩いてくる女がいた。それは先ほどコニルを攻撃した女で、手には剣が握られており、軽量の鎧を装備していた。


「コイツ…ぼーっとしてるようで、実力は本物だ。おそらく『帝国十傑』。それにアッチも…2人がかりとは言えアンドレがあそこまで苦戦するって事は、おそらくあの2人も。」


 コニルが見つめる先では、2人の男と対峙するアンドレがいた。それを見てイズカンが冷汗を流す。


「『帝国十傑』が3人も…奴ら、本気で俺たちを皆殺しにするつもりだろうぜ。どうすんだ兄弟!」


 それを聞いてコニルは豪快に笑う。


「全員やるしかねぇだろぉ!俺がこの女をやる。アンタは雑兵どもを狩ってくれ。ヒューラは()()を守れ!」


《了解!》


 2人はコニルの指示を受けて即座に動き出した。


 ヒューラは目的の場所まで走りながら向かってくる敵を蹴散らしていく。

 迫り来る帝国兵を25人ほど倒した後にとある部屋に辿り着いた。時間のないヒューラは部屋の扉を開け、急いで部屋の中に入り、目的の()()を発見する。


「うわぁああん!!」


「よーしよし、大丈夫でちゅよー、リーシェちゃん。お姉ちゃんが来ましたからねー。」


 コニルが言った()()とはリシェルの事だった。ヒューラは泣き喚くリシェルを抱き抱え、何とか泣き止ませようと試みる。しかしいつもと違い、周りから大きな戦闘音がずっと鳴り響いている。


「よーしよーし…いい子でちゅよー。…ダメ、周りがうるさすぎて中々……っ!?」


 その瞬間、ヒューラの腹部に灼熱感が走った。


「ゴフッ!…あ、アナタは…」


「はぁ?他人の名前聞く前にまずは自己紹介からでしょ?アンタ友達いないね。バーカ。」


 その女は背後からヒューラの腹に突き刺していた獲物を雑に引き抜いた。その瞬間、再びヒューラは口から血を吐き出す。


「グハァ!!…ふんっ!」


 そのタイミングでヒューラは振り返る事なく背後の女に炎による攻撃を仕掛けた。しかし背後にいるゴスロリ風の女は容易くそれを弾いた。


「おっ、その傷でやるじゃん。でも、子持ちのガキは学生失格、人生からも退学しな。」


 女はそうして再び獲物を振り上げる。


(不味い!これは避けられない!!リーシェを抱き抱えたこの腕じゃガードも無理!!それでも、私はコニル先輩にこの子(リーシェ)を託されたの!何としても守らなきゃ!!)


「グゥッ!!…ブフゥ…」


 ヒューラはリシェルを守る様に背中を向けて蹲った。それにより激しく背中を斬られ、更に吐血した。それを見て女は嘲笑する。


「へぇ…そんな年で産んだ子供でも、やっぱり子供は大事なんだ。これだからリア充は嫌い…でも、そんなの無駄だよ。陛下の敵は全員殺すから。」


「…うぇええぇん!」


 その殺気を受けたリシェルが再び泣き出した。それを見てヒューラは薄れ行く意識の中でリシェルに話しかける。


「…はぁはぁ…大丈夫よ、リーシェ…私が…お姉ちゃんが必ず…貴方を………まも……って………」


 2度の深傷で限界を迎えたヒューラはその場で意識を手放した。


「ようやくくたばったのね。ほら、どきなさい。」


 女は気絶したヒューラを乱雑に蹴り飛ばし、赤子(リシェル)を回収しようとした。しかし、意識がないハズのヒューラは蹴り飛ばされても赤子を全身で守り、離さなかった。


「はぁ?なんで気絶してるのに離さないのよ。…クゥ!!はぁはぁ…」


 女はヒューラに近づきその腕から無理矢理赤子を取り出そうとした。しかし、その赤子を守るために優しく包まれた腕の強靭な力を剥がすことが出来なかった。


「はぁ…だる。このクソ女、本当にめんどくさいわぁ。仕方ないけどこのまま陛下の元へ連れて行くしかないね。」


 諦めた女はヒューラの足を乱雑に掴み、そのまま引きずって歩き始めた。地面を引きずられるヒューラはそれによって服が破れ、擦り傷を全身に作って出血する。しかしそれでも、泣き続ける赤子を決して離す事はなく、その赤に染まった腕で優しく抱きしめ続けていた。



ーー現在ーー


「私は約束を守れなかった。コニル先輩に託された使命を果たす事が出来なかったんだ。」


「帝国軍が…それに『十傑』が3人も…凄まじい戦場だったんですね。」


「ちょっと待ってよ!そんな地獄のような場所から、私と貴女はどうやって生き残ったのよ!今の話じゃ、私はそのまま殺されてるわよね?」


「ここからは私も気を失っていたため、後日に副団長から聞いた話になる。」




ーー17年前、ヒューラが気絶してから数日後ーー


「はっ!!…ここは…」


「…ようやく起きたか…ヒューラの嬢ちゃん。」


 いきなり飛び起きたヒューラの目の前にいたのはイズカンだった。何が何だか分からないヒューラはイズカンに質問する。


「イズカンさん…ここは一体…」


「ここは帝国の東側に位置する革命派の息のかかった病院だ。」


「そうですか…他のみんなは…っっ!!」


 ヒューラが動こうとすると、腹と背中の傷が強烈に痛む。


「お前さんは絶対安静だ。あの世の一歩手前まで行ってたらしいからな。現代医療に感謝しろ。」


「……イズカンさん…リーシェは…コニル先輩は…団長は…皆んなは!!皆んなはどうなったんですか!!」


 ヒューラの必死の質問を受けてイズカンも覚悟を決める。


「…いつかは知る事だ。お前にはハッキリと伝えてやる。……本部にいた幹部以外の構成員は全員死亡したか、敵に捕まった。……リシェルとアンドレは行方不明、コニルは……コニルは……死んだ。」


 それを聞いた瞬間、ヒューラの顔から表情が消える。


「……………ぇ……………」


「…嘘でも冗談でもない事実だ。…本部にいた仲間は俺とお前以外……全員やられちまった。」


「………ぅそ……コニル先輩が……なん…で…………………どうしてよ!!」


 ヒューラは大声で叫んだ。


「……」


 イズカンは拳を強く握ったまま答えようとしない。それ見たヒューラは痛みも忘れてイズカンの胸ぐらを掴む。


「どうしてって聞いてるでしょ!!答えてよ!!ねぇ!!どうしてなのよ!!」


 それを見たイズカンは観念したようにゆっくりと話し始める。


「……あの後、こっちの戦況はハッキリ言って優勢だった。アンドレは十傑2人相手に勝利を収め、コニルも敵を追い詰めていた。しかし……リシェルを人質に取られた事で形勢が逆転した。敵に捕まったリシェルを助けるためにアンドレは…ヤツはコニルを殺し、敵側に寝返った。」


 それを聞いてヒューラは信じられないと言った表情をする。


「嘘よ!団長がコニル先輩を殺すなんてありえない!!あの2人は本当に仲が良くて、互いを信頼し合っていた!裏切るなんて」


「…アンドレ(ヤツ)も人の子だ。自分の愛する子供の命を天秤にかけられて気が狂ったんだろう…とにかく、アンドレは俺たちを裏切り敵側についた。俺たちはこれから」


 イズカンは少しだけ何かを隠したように話すが、ヒューラにはそんな事どうでもよかった。


「そんなわけない!!嘘だ!!嘘だ!!私は信じないぞ!!」


「ヒューラ!!お前さんの気持ちはよく分かる。だが俺たちは前に進まなくちゃいけねえ。」


「嫌だ嫌だ嫌だ!!いやだぁ!!コニル先輩!!コニル先輩!!」


「コニルの兄弟はもう死んだ。もう2度と会う事は出来ない。」


「いやぁあ!!それ以上言わないでぇ!!」


「…分かった。今はそれでいい。…だからこれからの話を…」


「そんなのどうでもいい!!先輩がいなくなったなら私は…私は…生きてる意味なんて!!」


「…いい加減にしやがれ!!」


 イズカンはヒューラを思い切りビンタした。あまりにも容赦のないビンタにヒューラはベッドから転げ落ち、床に落とされる。イズカンは倒れたヒューラの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「テメェの気持ちを気遣ってやってたら好き放題いいやがって…俺だってなぁ!4年の付き合いだった親友2人を目の前で失ってんだ!!テメェより悔しいに決まってんだろ!!そもそも、元はといえば敵に捕まったテメェのせいだろうが!!テメェがリシェルを守っていれば…はぁはぁ……だがなぁ、俺たちは生き延びた。だからアイツらの代わりに『革命派』を引っ張っていかなきゃならねぇ!誰よりコニルを慕ってたお前なら、アイツの跡を継いでくれると思ってたんだが、俺の思い違いだったようだな。…死にてぇならさっさと死ね、クソガキが。俺は死なねぇ…菖蒲(アイツ)の仇を討つまではな…」


 イズカンはヒューラをベッドの上に投げ捨て、病室を後にした。その後しばらく、ヒューラは何も喋らずにベッドの上で泣き続けた。


ーー現在ーー


「全ては私のせいなのだ。私が弱いから誰も守れなかった。私が弱いから全てを失った。己の弱さを呪わなかった日は無い。私は強くなろうと決意した、ただ強く、とにかく強く、誰よりも強い力を求めたのだ。そうと決めた私は、病院を抜け出して、およそ5年間死ぬ気で鍛錬した。山にこもって、痙攣して身体が動けなくなるまで肉体を鍛えた。何も持たずに広い海の真ん中にダイブし、24時間休む暇もなく大量のサメと闘い続けた。東に渡り、最激戦地の極東部へ行き、東の猛者たちを何人も殺した。『帝国十傑』も既に3人殺した。何度も死にかけたが、そんな地獄を経て力を得た私は『革命派』に戻り今に至るというわけだ。」


 ずっと黙って話を聞いていたヴァルスとリシェルはあまりの衝撃に言葉が出てこなかった。


「マジか…団長にそんな過去があるなんてな…しかし、今の団長の化物じみた強さにも納得だ。…にしても、鍛錬のやり方がイカれすぎだ!!アンタやっぱりドM(変態)だろ!」


「私は少し特殊な体質でな、肉体の治りが常人よりも早いんだ。それに痛みを快感へ変換する事も出来る。そんな私にしか出来ない鍛錬法ではあるが、効果は絶大だ。今の若い衆にこれらの鍛錬法をやらせようと副団長に提案したのだが、断固拒否されてしまってな。確かに何度も死にかけるが、心身ともに鍛えられるし、素晴らしい鍛錬だと思うのだがな。」


「副団長がまともで良かった。痛みで興奮できる団長にはご褒美かもしれませんが、常人では1日で精神が崩壊しますよ。まぁそれはいいとして…じゃあリシェルちゃんを殺そうとしたのは…」


「あぁ…この17年間、あの日の事を思い出す度に考えるんだ、リーシェ(この娘)さえいなかったらアンドレ団長もコニル先輩も生きていて、私はあの人と結婚して幸せに…とな。頭ではそれが間違った考えだと分かっていたんだが、帝国のヤツらへの怒りが増幅すると共に、死人(お前)への怒りも増幅してしまった。昨日、お前と再会した時にその感情が爆発してしまった。本当にすまなかった。」


 ヒューラは再び真剣に謝罪した。それを聞いてリシェルも優しい顔で答える。


「そう言う事だったのね…理解したわ…私の方こそ、ごめんなさい。」


 そう言ってリシェルも頭を下げた。


「何を言ってる!!リシェル(お前)が謝る理由など一つもない!!元はと言えば敵に遅れを取った私の責任!!コニル先輩との約束を果たせず、敵にお前を奪われ、お前を危険に晒した上にお前から家族を奪ったのは私なのだ!!…お前には私の事を恨む権利がある……だから今日はこうやって無防備な状態でお前の前に立ったのだ。後ろを見ろ。」


 繋がれた状態のヒューラが2人の背後を見るように言うと、部屋の隅にとあるものが置いてあった。


「これは…()?」


「あぁ…お前の父親、アンドレ団長がずっと武器として使っていた愛傘だ。カオリーさんが、東へ帰る際に贈り物として渡した物らしい。内側には2人の名前も書いてある。先日、アンドレ団長の遺体と共に回収した。…それを使って私を殺せ。」


「だ、団長!!何を言って!」


「この子の家族を奪ったのは私だ。死で償うのは当然だ。」


「ヒューラさん…」


「さぁリーシェ、やってくれ!」


「………分かったわ。」


 リシェルはそう言って傘を手に取って構える。傘の先端に取り付けられた刃物がヒューラの方へ向く。それをみてヒューラは笑顔を見せた後、目を瞑って小さく独り言を呟く。


「コニル先輩…すみませんでした…私…2度も約束を破ってしまいました…こんな女でも…アッチでは…貰ってくれますか…」


「ふんっ!!」


 リシェルは思い切り踏み込み、傘の先端をヒューラに突き刺した。



トスッ…



「なんてね、私も一度やってみたかったのよねぇ、これ。」


 そう言って笑みを浮かべるリシェルの持っている傘は逆向きに刺さっており、丸くなっている取手部分がヒューラに向いていた。それを見たヴァルスも分かっていたかのように笑みを浮かべる。


「俺の真似するなよ…この人は償いだとか言ってたけど、命をかけてお前を守ってくれたんだもんな。いい人じゃんか。」


「そうね、感謝こそすれ恨むなんてありえないわ。」


「嬢ちゃんが構えた時は少し肝を冷やしたが、分かってくれて良かったぜ。やっぱりこの人、責任感が強すぎるんだよな。副団長も苦労するって言ってたし…って、団長。もう大丈夫ですよ、早く起きてください。……団長?」


 ナルキの言葉にヒューラからの返事は返ってこない。違和感を感じたナルキはヒューラに近づく。


「おーい、団長!2人とも許してくれるって言ってますよー!団長!何か言ってくださーい!死んだフリもそろそろ飽きて……ん!?おいおい、この人気絶してるぞ。」


「なにぃ!?」


「……死んではないな…傷も…あるわけねぇよな。一体何が起こったんだ…」


「リシェルお前、丸い先端だからって強く殴りすぎだ。鳩尾に入って気絶しちゃったじゃないか。」


「い、いや!私、寸止めしたわよ!確かにちょっと当たっちゃったけど、本当にちょっとよ!!ほら、これぐらい。」


 そう言ってリシェルはヴァルスの腹に傘の持ち手の部分を突き刺す。


「痛っ!おい、気絶するほどじゃないが十分痛いぞ!」


「い、今のは強くやり過ぎたわ!さっきは…このぐらい?」


「さっきと全然違うじゃないか!適当な事言うんじゃない!」


「団長!!大丈夫ですかー!?」



 喧嘩を始めたヴァルスとリシェル、手錠を外してヒューラの無事を確認するナルキ、と部屋はカオスな状況となった。


 数時間後、ヒューラは何事もなかったかのように目覚めた。ヒューラは死を覚悟した事で気持ちが最高潮に昂り、そのまま意識を失ってしまっただけだった。

分かりにくいですが、コニルと戦っていた女はレムナです。レムナも雷葉と同様に、ねるの能力によって寿命の壁を無くしているので、今と見た目がほとんど変わりません。


『帝国十傑』は欠員が出る度に補充されます。なので、レムナを含めた上位の4人以外は就任してから3年未満の新人です。新人とて弱い訳ではありませんが。

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