AV 最強(黒)
「失礼しますよ、オヤジ。」
赤川が扉を開けると中にはとある男が1人いた。
「か、カシラ!ひ、久しぶりです…あははは…」
豪勢な組長室に居た男はバツが悪そうに苦笑いを浮かべていた。
「…おい後藤、テメェここで何やってる。」
「い、いやぁ…ええっと…それはその…あっ!オヤジに会いに来たんですよ!!たまにはオヤジの顔を見ときたくて、待ってたんですよ!」
取ってつけたような言い草は、誰がどう見ても嘘だと分かった。
「嘘つけ、テメェがここにいる時は大体サボりだろうが!!」
「いやいや、サボりだなんてそんな!!俺はただ」
「もういい、それよりオヤジは?」
「はい、先ほど急に姐さんが体調を崩したそうで、そのお見舞いに行かれました。」
「そりゃしょうがねぇな…すまんな2人とも。どうやらオヤジはいないらしい。挨拶はまた今度だ。」
「は、はい。ええっと…その方は…」
香夜はずっと気になっている目の前の男について質問した。
「コイツは後藤、一応高木組で最強の武闘派だ。見ての通り、どうしようもないヤツだがな。」
「うっす、後藤です。…にしても君、可愛いね。君、いくつ?どこの高校行ってるのかな?」
後藤は鼻の下を伸ばしながら香夜の方へ寄ってきた。香夜は高校生だと思われた事に、内心ムカつきながら答える。
「私は高校生じゃありません、もう21です。それに正真正銘、『柏木組』の武闘派です。次間違えたら殺しますよ。」
「君も極道?…はっはっは!バカ言っちゃいけないよお嬢ちゃん、君みたいな可愛らしい少女が極道なわけ」
ガキィイイン!!
その瞬間、部屋に金属音が響き渡った。
「おっと、躊躇ないね。」
そう言ってヘラヘラしている後藤の眼前には香夜の刀があった。しかしその刀は寸止めされたわけではなく、刀の先端に触れている卓球ボール程度の大きさの鉄球に止められていた。
「当たり前でしょ。極道にとってメンツは命に等しいモノよ。それをバカにするヤツは許さないわ。」
冷静な表情でそう言い放った香夜の顔から一滴の汗が流れ落ちる。
(ふぅ…一応本気で殺す気でやったけど、まぁ最強と言われてるぐらいだし、この程度を防ぐのは当たり前よね。にしてもこの鉄の玉、さっきから全力で力を入れてるのに切れるどころかビクともしないわ!!ううっ!押し戻される!!)
「うぅ!」
次の瞬間、香夜の刀は鉄球によって押し返され、全力を入れていた香夜も後ろに尻餅をついた。
「あっ、ごめん。やりすぎた。でも、君のその覚悟と妥協を見て分かったよ。君が普通の女の子じゃないことはね。前言を撤回するよ、すまなかった。」
男は謝罪しながら尻餅をつく香夜に手を差し伸べた。
「おっと失礼。女神の手を握って良いのは夫たるこの私だけです。」
そう言って道草が割り込み、香夜の手を握って立たせた。
「おぉ、その年齢でもう結婚してんのか。最近の若いのはお盛んだねぇ。」
後藤はニヤニヤしながら2人を茶化す。
「結婚はしてません。この人はただの他人です。」
「他人という名の夫婦です。以後お見知りおきを…それより後藤殿といいましたかな。我が女神を高校生と馬鹿にしましたね?小さくて可愛らしい、そして天が遣わした美の結晶であると言う点には私も全面的に同意しますが、私の前で彼女を口説こうとした事は許せませんな。」
道草はそう言って後藤を睨みつける。
「悪かったよ、まさか旦那がいるなんて知らなかったからさ。この通りだ、許してくれ。」
後藤はヘラヘラ笑いながらも道草に頭を下げた。
「この人に謝る必要は無いですよ。私に関係のない他人なので。」
「おぉ!女神よ!その冷たい視線も私にとってはご褒美ですぞ!」
それを笑いながら見ていた赤川が話に割り込む。
「さて、夫婦漫才は一旦終わりにして…どうだい?2人とも、コイツと闘ってみねぇか?」
赤川は突然こんな提案をした。
「えっ!いいんですか!!」
「ああ、構わない。コイツもちょうど暇してたところだからな。」
「やった!ありがとうございます!」
(ちょうどいいわ、ムカつくこの男にギャフンと言わせてみせる。それに最強の極道ってのにも興味あるしね、やるしかないわ!)
香夜は心の中で燃えるが、当の後藤は嫌そうな顔をする。
「か、カシラ。俺はこれから中柳地区の見回りが…」
「ふん、お前が見回りをすると言って外に出た時は決まってサボってるだろうが。中柳にはボートレース場があるな。テメェ、仕事中に競艇を…」
「い、いや!中柳地区の見回りは今日じゃなくて明日だったかな!そうだ!今日は雪壱地区だった!」
「雪壱にはサッカー場がある。スポーツ賭博だな?」
「な、何故それを!!」
「はぁ…テメェが最強なんて言われてなきゃ俺がこの場でボコボコにしてやったのに…」
「あはは…すいません…」
「とにかく今日はこの2人に付き合ってやれ。2人が満足したら、この後は帰っていい。」
「うひょ!マジっすか!!それなら18時からのレースに間に合う!!2人とも、さっさと行くぞ!!」
後藤はそう言って2人を連れて行こうとする。
「この人、清々しいほどのクズね。こんなのが最強で、大丈夫なのかしら私たち。」
「全くですな。」
「すまん…俺たちもどうにか更生させようと頑張ったのだが、結果このザマだ。それに、こう見えてもコイツはやる時はちゃんとやる男でな。過去に何度もオヤジやカシラの危機を救っている。だからこれ以上は強く言えない。」
伊東は苦虫を噛み潰したような表情で2人に謝罪する。その顔を見て2人も同情の視線を送る。
「ちょうどいい。伊東、百合、お前らもついていけ。2人ではコイツの相手は務まらんだろうからな。」
「は、はい!頑張りますぅ!!」
「了解しました。」
赤川はそう言って伊東と百合を送り出した。
「よし、それじゃあ早く行くぞ!」
そうして5人は組長室を後にした。
(私と道草の兄貴2人では相手にならない、か…随分と舐められたものね、と言いたいところだけど、赤川の若頭は私たちを舐めてるんじゃなくて本当にその通りなのでしょうね。面白いわ、絶対一泡吹かせてやるんだから。)
香夜は道中でそんな事を考えていると、目的地に到着した。そこは非常に広い場所で、陸上競技場のような場所だった。
「はぁ!!」
「ふんっ!!ここだぁ!」
その中では何人もの武闘派達が模擬戦を行っていた。
「はぇぇ…広ーい。柏木組の施設の3倍はあるわね。」
「ええ、それに今見た感じでは…認めたくはありませんが一人一人の力も柏木組の武闘派達よりも強力ですな。流石は『高木組』ですね。」
香夜と道草はその施設に感心していた。
「さぁ!さっさとやりましょう!!こっちです。」
後藤は4人を中央へ案内する。すると、コチラに気づいた武闘派達が闘いをやめて、ざわめき始める。
「あれは…後藤の兄貴だ!!」
「何であの人がここに!?訓練はいつもサボってばかりだから、ここにいるのは初めて見た!」
「兄貴ぃ!!」
若衆たちは後藤に向かって走ってきた。
「おうおう、皆んなお疲れい。頑張ってやってるかい?」
「そりゃ、兄貴よりは頑張ってますよ!!」
「今日はいつもみたいに競艇行かないんですか?確か熱いレースがあるって。」
「そりゃ行くさ、そのために早く終わらせなきゃいかん。…兄貴!ここ、使っていいですか?」
集まって来た若衆の後ろから1人の男が歩いてくる。後藤に兄貴と呼ばれたその男はため息をつきながら答える。
「俺たちが呼んでも、何だかんだ言い訳付けてサボる癖に良く言うぜ。このサボリ魔が!」
「いやぁ、サボってる訳じゃ…」
「嘘付けぇ!この野郎…まぁいい、好きに使え。おいお前らぁ!!今から後藤がやるらしいから組み手は一旦中止だ。全員で観戦しろ!」
《はい!!》
その男の号令で武闘派の若衆たちは蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「ありがとうございます、兄貴。…それじゃあ、やろうか。香夜と道草はやるとして、百合と伊東の兄貴はどうします?」
「俺は近くで観戦している。お前らがやりすぎないようにな。何かあったら止めに入る。」
伊東はそう言って少し離れて腕を組んだ。
「わ、私は香夜ちゃんと一緒に頑張ります!!」
百合は震えながらも戦闘の意思を示した。
「了解っす、そんじゃ一応ルールだけ決めとこうか。」
「ルール?」
「ああ、これはあくまでも手合わせ。客人であるアンタらに怪我させる訳にはいかないからな。」
明らかな上から目線の発言をする後藤に香夜は腹を立てながらも冷静に聞き返す。
「分かったわ、なら攻撃は互いに寸止めって事で。」
「待て待て、そんなんじゃお前らに勝ち目がないだろう?そっちは殺す気でやりな、ルールってのはお前らの為のものだ。」
「はぁ?アンタ何言ってんの?」
「流石に我々を舐めすぎでは?死んでも知りませんよ?」
2人は後藤に殺気を向けるが、後藤は涼しい顔をしている。
「そうだな、もしかしたら死ぬかもな。だが、死の恐怖無しに人間は成長出来ない。それはアンタらも分かってるんじゃないか?」
「それはそうね。」
「俺はギャンブルが大好きだ。戦闘も言わばギャンブル、賭け金は高い方が盛り上がる。命を賭けた戦いに勝った時の脳汁に勝る物は無い!だから、殺す気で来い。これで死んだなら俺は所詮その程度の人間だっただけの話。」
「なるほど、それがアナタの強さの秘訣って訳ね。理解は出来るけど、共感はしないわね。後悔するんじゃないわよ。」
「勿論だ、だがコチラにもルールを付けさせてもらう。お前らが負けを認めるか、急所に100回攻撃を当てたら俺の勝ちだ。コッチが手加減するからってゾンビのように向かってこられたら困るからな。」
「分かったわ、2人ともそれでいいわね?」
「勿論ですぞ、我々3人でこの男に勝ちましょう!」
「私も足を引っ張らないように頑張ります!」
「よし、それじゃあ早速」
ドンッ!!
後藤が話している最中にいきなり銃声が鳴った。それは不意打ちで香夜が撃ったモノだった。
ガキイィイン!!
しかしその弾丸は何か金属と当たったような音を奏でて近くの地面に着弾した。
「いいね、タイミングも狙いも完璧だった。」
後藤の目の前には少し凹んだ鉄球が浮いていた。
「そのぷかぷか浮いてる鉄球がアナタの能力ね。銃弾も防げるなんて凄く便利なのね。」
「俺の能力は鉄球を生み出して操る能力。超シンプルだろ?でもシンプルイズベスト、単純な能力こそ最も強力なのさ。」
後藤がそう言うと同時に浮いていた鉄球が香夜の方へ向かって来た。しかしその鉄球の速度は100キロを超えていた。
「っ!」
香夜は頭を捻ってそれを回避した。
(ふぅ…危ない。でも、この速度なら避けられないほどじゃないわ。何とか隙を作って攻撃を…)
ドカッ!!
「カハッ!!」
香夜はいきなり背後からの衝撃を受けた。背中を正確に捉えたその攻撃で香夜は前のめりに膝をついた。
「避けたからって油断しちゃダメだね、今のも後頭部に当ててれば即失神だったね。これで一回。」
「…イテテ…なるほど、飛ばすだけじゃなくて自由自在に動かせるのね。でもね!」
膝を付いた香夜はそう言って笑いながら道草の方を見た。
「準備出来ましたぞ!!はぁ!」
その瞬間、道草の地面から方陣が広がっていく。そして、4人を含めた施設の半分近くを舞台で覆った。
「ふぅ…さみぃ…風邪引いたらどうすんだ。先ずはお前からやっちまうか!」
後藤はそう言って左手を開くと、そこから鉄球が大量に出現する。出現した鉄球は後藤の周囲をグルグルと回り続ける。
「先手必勝ですぞ!!百合殿、合わせてくださいよ!」
「はいぃ!!」
道草が右手を後藤の方へ向けると、大量の鋭い氷塊が後藤へ向かう。
「無駄無駄。」
後藤は微動だにする事なく、周りの鉄球が正確に氷塊を撃ち落としていく。それどころか、その倍以上の鉄球が道草の方へ向かっていく。
「何ですと!!はぁ!」
道草が左手を前に出すと地面から分厚い氷の壁が現れる。
「グゥウ!!」
道草の氷の壁に後藤の鉄球が突き刺さる。しかしその一球一球が分厚い氷に少しずつ穴を開け、壁を破壊していく。道草は氷の密度と量を上げるために必死に出力を上げる。
「これしき!!…グッ!」
道草が能力に集中した瞬間、道草の腹に鉄球が直撃した。
「ここの地面はそんなに固くない。小さめの玉なら地面から出せる。」
後藤は既に地面を貫通させて道草の足元から鉄球を出現させていたのだ。鳩尾を正確に攻撃された道草は、片膝をつく。
「はぁはぁ…何という威力…全身を薄い氷の膜で覆っていなければやられていた…」
道草の腹から粉々に砕けた氷が落ちる。
「便利な能力だなぁ…まぁ俺ほどじゃ無いけどな!」
「いやぁああ!!」
その瞬間、後藤の背後に百合がいた。驚異的なスピードで死角を取った百合は全力のパンチを放つ。
ゴォオオン!!
「…イッタァあ!!」
「あ、すまんお嬢。」
後藤の背後に突如現れた巨大な鉄球によって百合の攻撃は塞がれ、逆に百合の拳がダメージを受けた。
「…うぅ…痛い…」
しかし後藤は百合の殴った鉄球の凹み方に驚愕していた。鉄球は百合の拳を中心に半径の半分ほどのクレーターを作っており、所々にヒビも入っていた。
「俺の鉄球がここまで凹んで…バランス型でこの威力なのはお嬢で2人目だ。やはりお嬢は」
「隙あり」
気配を消して距離を詰めていた香夜は死角から後藤に斬りかかる。
ギィイン!
しかしまたしても周りを回る鉄球に刀を弾かれる。
「隙はない。俺の周りの鉄球は自動で俺への攻撃を防ぐ。」
「ふんっ!そうだと思ったわよ!」
次の瞬間、香夜は懐から手榴弾を落とす。それは既にピンが抜かれており、2人の足元に転がった。
爆発まであと6秒。
「おい!マジか!!」
「大マジですよ!流石に手榴弾の爆風と破片は防げないはず!!何とかしなきゃ死にますよ!!」
香夜はそう言って左手の銃を乱射する。
「イカれた女だ!!自爆する気か!!させねぇよ!」
後藤は銃弾を全て弾きながら、右足で手榴弾を遠くへ蹴り飛ばそうとした。
あと5秒。
「やぁあ!!」
しかし次の瞬間、百合が再び前に出て攻撃を仕掛ける。
「チッ!!忙しいな!」
後藤は振り返って再び背後に巨大な鉄球を出現させる。その一瞬で後藤の気が逸れた事によって香夜は地面に置いてある手榴弾を思い切り踏みつけた。それによって手榴弾は3人の足元から動かなくなった。
あと4秒。
「クソが!付き合ってられるか!!」
百合の攻撃を防いだ後藤は手榴弾の爆発範囲から逃れる事を決断する。右手をサイドに向けて大きめの鉄球を出現させ、それに掴まって逃げようとする。
あと3秒。
「待て!逃げるな!」
香夜はそう叫びながら銃を撃ちまくるが、後藤は止まらない。
「残念だったな!勝手に自爆しとけ!…な、何ぃ!?」
驚愕する後藤の前には巨大な氷の壁が出現した。それにより急ブレーキで止まった後藤は道草の方を見る。
あと2秒。
「ふぅ…逃しませんよ。」
「マジか!…何!?」
そう驚いた後藤の目の前には手榴弾が飛んできていた。
「私、サッカーは得意なのよね!!」
香夜は咄嗟に手榴弾を蹴り込み、自身も同時に走って来ていた。後藤の目の前には氷の壁と爆発間近の手榴弾、後ろからは香夜が刀を振り下ろしている。
あと1秒。
「この位置じゃお前もタダじゃすまねえぞ!」
「そんなの承知の上よ!死になさい!!」
それを見た後藤は、ほんの一瞬考えた後、ニヤっと笑った。
「…ふっ!」
あと0秒。
ガキイィイン!!
「この賭けは俺の勝ちだな。」
「ゴフッ!!」
手榴弾の爆発の時間、香夜の刀は再び鉄球に止められる。さらに両腕が上に上がり、無防備となった香夜の鳩尾に後藤の拳が完璧にヒットしていた。
「女神よぉ!!」
「香夜ちゃん!!」
「……ぁ……」
あまりにも完璧に入った後藤のパンチに、香夜は意識が飛んだ。そのまま地面に倒れそうになり、後藤が肩で支える。
「全てを賭けた全力の一撃、その分隙は大きい。骨や内臓は傷つけないようにしたから、後遺症にはならねないはずだ。…それにしても、最高の賭けだった。コイツがホンモノだったら、俺もヤバかったかもな。」
後藤はそう言って香夜を優しく地面に寝かせてから、近くに転がっていた手榴弾を手に取った。
「最後の最後、俺がコイツを防ぐために力を使ったらお前の攻撃は防げなかった。まぁ、最悪の場合はどうにかしたけどな。」
香夜の落とした手榴弾は精巧に作られた偽物だった。香夜もこんなところで万が一にも自爆などする気は毛頭ない。後藤はそれに気付いていなかったが、最後の最後で偽物である事に賭けたのだ。
「この嬢ちゃん…いや、香夜とか言ったか。コイツだけじゃねぇ、2人とも相当に良い連携だった。ギャンブル好きな俺じゃなきゃ確実に最後の一刀は入ってただろうな。」
「よくも女神をぉ!!」
香夜をやられて怒り心頭の道草は地面に手を当てて倒れた香夜の周りを頑丈な氷で覆う。そして更に攻撃を仕掛ける。それは非常に広範囲で、後藤の周囲から大量の氷塊と氷の壁が迫る。
「いいねぇ!コッチも出力を上げるぜ!」
後藤が両手を広げると、周りの鉄球が高速で回転を始め、氷塊を撃ち落としていく。氷の壁に対しては3メートルほどの巨大な鉄球を生み出してぶつける事で破壊した。大小さまざまな鉄球の数は100を超え、最も小さい卓球玉サイズのモノのスピードは時速200キロを超えていた。
「す…すごい…」
百合は2人の大規模な撃ち合いを離れて眺める事しか出来なかった。
そうして暫く撃ち合いが続くと、やがて天秤が傾く。
「はぁはぁ…」
「おい、もう終わりか?コッチはまだまだ行けるぜ!」
大量の氷を生み出した事で波動が限界を迎えた道草は膝をついて倒れる。周りの氷が動きを止めたが、後藤の鉄球はまだ動き続けている。
「ハァハァ!…グハッ!」
道草は呼吸が荒くなり遂には倒れてしまった。
「自属性ってヤツは範囲攻撃が強力だが、燃費が悪い。それに比べて俺は鉄球を回収すれば波動はある程度回収できる。あと5時間はやれる…ってもう聞いてないか。」
能力を酷使した道草もそのまま気絶してしまった。
「さて、お嬢が最後ですか。どうしますか?俺とタイマン張りますか?」
「わ…わたしは…」
百合の両足は震え、少し後ずさりする。
「こ…こうさん…しま……」
百合は降参しようとしたが、あの時の決意を思い出した。
(待って…私は何で降参しようとしてるの。あの時に香夜ちゃんに約束したじゃない。一生懸命頑張るって!なら私は!!)
「降参ですね?それじゃあ2人を回収して…」
「いえ、やっぱり降参はしません!!私がタイマン張ります!!」
百合は震える両足を奮い立たせて、決意の表情を見せる。
「おお…マジですか…いつものお嬢なら泣き出してるところなのに…」
(私1人でやれるのかなぁ…怖い…この人が本気じゃ無いと分かっていても…それでも涙と震えが止まらない…でもここで逃げたら香夜ちゃんの友達にはなれない!!私はカッコいい極道になるんだ!!)
百合は涙を拭い足の震えを止めて、自分の顔を思い切り叩いてから、気合を入れて両手を構えた。
「いい顔ですね、お嬢。ではコチラも全力で行きますよ!!」
「やぁああ!!」
全力で挑んだ百合だったが、その後すぐに、香夜と道草と同様に後藤にやられてしまった。
「お疲れ様だな、後藤。」
遠くで観戦していた伊東が近づいて来た。
「伊東の兄貴、ありがとうございます。」
「やはりお前の力は流石としか言えん。【最強の極道】の名は伊達では無いな。これからも頼むぞ。」
「へい、もちろんです。それよりも、この3人は任せていいですか?」
「ああ、カシラにも俺から報告しておく。お前は約束通り今日は帰っていいぞ。」
「うっひょー!!やったぁ!!それじゃあ、俺はここで!」
そう言って後藤は走って帰って行ってしまった。
「全く、アイツは…だが3人には良い経験になっただろう。おい、誰か!3人を運ぶのを手伝ってくれ!」
伊東は近くの舎弟と共に3人を運び出した。
ーー数日後の柏木組のシマ内ーー
「ああ、それでいい。あの件は岸に任せてある。神保とも協力して対処に当たれ。では。」
立松は電話を切った。そして辺りを見渡しながらため息をつく。
「ふぅ…もう約束の時刻から30分は経っているぞ…『佐々木』組長に何かあったのか?」
立松はとある場所で呼び出しを受けて待っていた。その相手こそが、『五木』の心臓とも呼ばれる『佐々木組』の組長である。
(先日、連絡を受けた時には驚いた…代表者ではなく私を名指しで呼び出したのだからな。それも私1人で来いとは…『佐々木組』が私個人に何のようだ?罠の可能性もあるが、流石に『佐々木組長』の呼び出しを断る事は出来ん。)
立松がそんな事を考えていると、部屋の近くに気配がした。立松は格好を軽く確認し、姿勢を正して相手を待った。
足音が近づき、部屋の前で止まる。そしてそのまま部屋の扉を開けられる。立松は立ち上がって反射的に挨拶をする。
「お久しぶりです……っ!?」
しかし、その途中で相手が佐々木組長では無い事に気付いた。
「お前は!?」
立松はその相手に驚愕する。
「よう、久しぶりだな。カオリー。」
「イズカン!?」
次回から暫く(白)が続きます。
後藤鉄斗
器属性 鉄球
大小さまざまな鉄球を生み出し、自由に操作する。
操作の種類には2種類あり、[オート]と[リモート]がある。
[オート]は【○○を攻撃する】と言った単純な命令を与える事で、それのみを実行できる。普段は【敵の攻撃を迎撃せよ】という命令を受けている。本人のガス欠(波動切れ)を考慮すると、最大の出せる数は333球。
[リモート]は後藤本人の意思によって操作される。一度に操作できるのは7球だが、一つにつき300kg近い荷重にも耐えられる。




