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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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享:平等



 風が止んだのちに、享はアンヌを見る。

「何もあんな説明をしなくても」

「だってそうでしょう?」

 雑木林のあいだを歩き出しながら、アンヌはくすくすと笑い続けている。

「あれさえあれば、異界の主は世界や神を殺さなくても目的は達成できるわ。……彼の場合、二人分必要になってくるけれど」

 時折、彼女が何を考えているのか、分からなくなる。昔、笑いあった彼女と、何かがずれて違和感を感じるのだ。

「なら、彼にあげればいいだろう?」

「そのようなことをすれば、私は何億、何兆の人間にあれを渡さなければいけないのかしら?」


 彼女が未だに生き永らえている理由に、この平等さがある。アンヌは敵であろうと味方であろうと、人間の蘇生を目的とする者にあの石を渡したりはしない。

 かつて一度だけ、彼女は味方の為にあの石を使い、手痛い代償を払った。

 自分、楓享夜の為に。

 それから、彼女は石を「人間を蘇らせる為」に渡すことは無い。


「……彼の場合、該当しないようだネ?」

「ええ、リョク君は『死ぬかもしれない』だから。まだ死んでいない、そして命を狙われるかもしれない。だからいいのよ。それに彼の場合、石はただの御守りにしか働かないのだから」

 屁理屈を吐いたアンヌは足を止め、じっと前を見据えた。享も足を止めるが、いつものように前方に何かがあるようには見えない。

 変わらない、雑木林の道が広がっているだけだ。

 そのとき。



 ざっ、



「……………………!!」

 木の葉が裏返るように。

 二人が立った場所から先に、紅葉の道が広がっていた。この世界はまだ夏なのに。

 アンヌは臆せず碧から緋へと踏み出す。享冷や汗を拭いつつ彼女のあとをついていく。

 やがて、変わらない木造建築の日本屋敷に辿り着いた。

「あら。早い」

 縁側に座る女性は、驚くこともなく、二人を見て微笑む。

 訪ねると連絡した訳でもない。

 アンヌは目尻を下げて、頭を下げた。

「お久し振りです、師匠(せんせい)

「堅いところは相変わらずなのね」

 女性は二人分、盆に乗った湯呑みを差し出す。

「お座りなさい、二人とも」

 躊躇いなく、二人は腰を下ろした。


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