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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
22/24

〈歩〉21

 第二十二部は魔王の天敵〈歩〉21として書かせていただきました。

 今回は城下町にて城に向かう所です。

 ――北の荒城、ラムーの元城。

「カフアマーナ様ぁぁぁ!!」

 その声に少し首を上げるカフアマーナ。

「どうしたぁヌックゥ?」

「はい! 城下町を収めていたカグツチをも倒されてしまったらしいです。これでもうあの町を支配するのはしばらく無理か、と」

 その報告を受けてカフアマーナは考えている様だ。形相が鬼のようで部下のヌックもその表情に怯えてしまっている。

「ヌックゥ、町の方へぇ支配下にある魔獣を送り込みなぁぁ。恐らくぅ、奴らは次にここへ向かってくるんだろう。報告ではぁエメラへの支配も解けてしまったらしいしなぁ」

 もったりした命令にはっと潔くするヌック。そしてそのままカフアマーナのいる部屋から出て近辺にいる魔獣に城下町の方へ向かわせた。

「いざとなれば、おいらが……」

 ヌックは城下町の方を見ながらこれから起こるであろう戦闘を決意したのだった。


 **** **** ****


「一瞬で倒しちゃいましたね。魔力も解けたみたいですし」

 魔力で操られていたのか中に何かが入っていたのか、はたまた別人だったのか真相は分からないがクニシゲの魔破拳でカグツチは城外へ飛ばされてしまった。およそ四十メートルの高さから落下すれば命はあっても動くこともできなくなっているだろう。

 クニシゲははぁはぁと息を荒げて、苦しそうな顔をしていた。

 昔馴染みの友人は久しぶりに会ったら外道になっていた。

 その友人をいくら性格が変わっていたからといって殴り飛ばしてしまった。

 ショックなのは明らかだった。

「クニじい……行こう」

 そう言ってミサはクニシゲの肩を抱く。クニシゲの身体からは力が抜けてしまっている。そんなクニシゲをミサが誘導するのだった。ガクトやエメラにかけることのできる言葉など見つからなかった。

 少しどんよりした雰囲気の一行が城から出た時、男性が一人駆け寄ってきた。それはさっき城に入る前に礼を言って何処かへ行ってしまった男性だった。

「すみません! さっきこの国の国頭カグツチを吹き飛ばしたのはあなた方ですか!?」

 カグツチが飛んでいったのを見ていた様だ。

 何処まで行ってしまったんだろう。

「先程は名乗ることもなく申し訳ありませんでした! 助けていただいたのに……。私はラムーと申します。皆様にご相談があるのです」

「相談っていうのは……?」

「はい、私は一つ城を持っているんです。その城がここから北へ行った所にありまして、一か月半程前、その城が奪われてしまいました。張本人の名はカフアマーナ。紫色の肌を持った大男です」

 このラムーという男はカフアマーナの名前を出してきた。ガクトたちの旅の目的と一致している。おそらくこの願い出を断る理由などない。

「そのカフアマーナを退治してほしい、と?」

「そうです! 私は家に一刻も早く帰りたいのですが、あんなに恐ろしいものに立ち向かっていく勇気などありません。一緒に行き伸びた騎士二人もビビっちゃって辞めさせてほしいなどと言う始末……。そんな時騎士たちに襲われている私を助けてくれたとてもお強い方々が目の前に現れた。誰も手が出せなかった国頭を倒そうと城にのり込み、何かが飛んでいったと思ったらあなた方が城から出てきた。これはもう、あなたたちに頼むしかない!! そう思ったんですよ。引き受けてもらえませんかねぇ? もちろんお金ならいくらでも払えますので」

 ラムーは城を持っているくらいだからお金もさぞかし持っているだろう。

 しかし、ガクトたちにとっては金のことなど二の次だった。

 旅の最終目的は魔王を倒すこと。七大魔人であるカフアマーナも倒さなければいけない相手だ。

 この申し出を受ける以外の選択肢は無かった。

「いいですよ。元からそのつもりでしたし、旅も長く続くから軍資金としてお金を貰えればこちらとしてもうれしいです」

 ガクトが快諾するとラムーは本当に喜んでいる様子だった。この町に来て金持ちの暮らしができない期間が苦痛なのだろう、とガクトは思った。

 ラムーをその場に残して未だに力の入らないクニシゲを抱え、一行は城下町の外へ出た。出るまでに騎士たちが迫ってくることもあったが、ガクトたちの敵ではなかった。さっき倒したところの騎士たちは寝たままだった。

 ガクトは足に聖力を集める。エメラも足に魔力を纏う。ミサはバンくんを出して力の入らないクニシゲをそのまま乗せる。

「今までミサ一人しか乗ったことが無かったのにバンくん大丈夫?」

 ミサしか乗ったことのなかったバンくんにクニシゲが乗る。定員を一人だと決めつけていた。

「大丈夫よ。三人までなら一緒に乗れるのよ。結構練習してるしね」

 そんなに乗れるなら今度乗せてもらおう、とガクトは思う。

 こうして一行は北の荒城へ向かった。

 

 その道中で目の前から迫ってくる大群に気付かないことなどできなかった。その大群は陸を走って来るのかと思うと空を飛んでいるものもいて、数にして五百はいそうな程の大群だ。

 カフアマーナの部下だと皆が瞬時に気付いた。

「あの魔獣の群れどうするー?」とミサが上空から話しかけてくる。

 ガクトは聖力を集中した。そして正面衝突という直前、その溜めこんだ聖力を放出して目の前の魔獣の大群に浴びせるのだった。聖力を浴びた魔獣は次々と倒れていき、次の瞬間に立っていられる魔獣は一体もいなかった。

「その力、やっぱりすごいわね。私も一回やられちゃったし、教えてほしいぐらい」

 そんな話をしている間に北の荒城へは辿り着いてしまった。魔獣の大群の後にはどんな敵も現れなかった。クニシゲは少し元気を取り戻した様だった。

 

 今のカフアマーナの住処すみか、前のラムーの持ち城はとても綺麗な外観をしていた。城下町の城と違って外観を気にした見た目。私的な趣味を存分に表した城はラムーの心そのものなのだろう。

 一行は城が建っている敷地に入る。庭の造りもしっかりしていて手入れがしっかりされていれば感動できるものなのだろうな、と感じさせる。

 しかし、その庭で目を奪ったのは景観だけではなかった。一体の魔獣が城の扉の前に立っている。

「お前らぁ、よくぞここまで来たものだ!」

 それは二本足で立つ、犬の魔獣だった。

「俺の名はヌック。カフアマーナ様の一番弟子をしているものだ!!」

 そんな言い方は普通しない、と思ったガクトの思考を遮って、話し出したのはエメラだった。

「あいつは強いわよ。カフアマーナは体術が達人的にすごいんだけど、あのヌックはそれをほとんどコピーできるっていう特技があるの」

 その空間に沈黙の音が流れる。

「私に任せて」

 そう言ったのはエメラだった。

「操られていた身体が未だにしっくりこないのよね。まだ操られているとかじゃあなくて、鈍ってるっていうの? そんなんだからこいつで私を取り戻させてほしいの」

 その申し出に文句は無かった。

「じゃあ、私たちは先行ってるわ」

「エメラも後で絶対来いよ!」

 そう言い残してその場にエメラだけを残して城の中に入ろうとする。

「通すと思うかい」

 その声と同時に蹴りがガクトの顔面めがけて飛んできた。

 しかし、ガクトとヌックの間に割って入ったのはエメラだった。いつも通りに身体に合っていない長剣で攻撃を防いでいる。

「早く行きなさい!!」

 その声を聞いて、ガクトたちは再び城の方へ顔を戻して城の中へ入った。

 

 中にはカフアマーナの部下らしき魔獣は一体もいなかった。恐らくここへ来る道中に全ての魔獣を投入してしまってこの城にはカフアマーナ本人とヌックしかいないのだ、とガクトは思った。中の造りは外観から想像もできない程単純で、階段が正面から最上部まで一本だった。

 ガクトたちはそのままその階段を駆け上る。するとそこには、装飾もそこそこな大きな両開きの扉が現れた。

 この向こうに【軍勢】の力を持った紫筋肉だるま、七大魔人カフアマーナがいる――。

 読んでいただきましてありがとうございました

 今回はクニシゲがカグツチを城外に吹き飛ばしてしまいました。そして一行はラムーの頼みでもありましたが、元からのとりあえずの目的でもあったカフアマーナの元へ向かいました。


 次回は最後の戦闘シーン(のつもり)です。

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