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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
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21/24

〈歩〉⑳

 第二十一部は魔王の天敵〈歩〉⑳として書かせていただきました。

 今回は城下町での様子です。


 中の光景は到底信じられるようなものではなかった。

 中心にある城は綺麗に組み上げられたコンクリートの壁をところどころ削られてしまっていて、今にも崩落してしまいそうだ。町中に通っている川の水は家屋が壊れてしまってできた瓦礫で水路が封鎖され、溢れている側と全く水が無い側に別れている。人々が住んでいたであろう家屋は壁や屋根などが無くなっていて、雨風も人々の目線も防げない状態になっているものがいくつもあった。壊滅しているものもあった。それとは逆に全然攻撃を受けていないものもあった。

 そういったものの中で一番ガクトたちの目を引いたのは人だった。ガクトたちが目にすることのできたのは四人で、三人が騎士で一人が普通の男性だった。三人の騎士が一人の男性を追いかけているところ。男性は「助けてくれ」という言葉を息も切れ切れに叫んでいた。騎士たちは逃げる獲物を楽しそうに追いかけている。誰が一番最初に捕まえられるのか競争もしている様だ。その間の距離はどんどん縮まって、とうとう男性は捕まってしまった。

 一人の騎士が剣を振りかぶる。そして振り落とす。

 その時、その一人の騎士と男性の間に黒い何かが割り込んだ。体に合っていない長剣で攻撃を防いでいる。黒のシルエットに長剣、エメラだ。

 いつの間にか隣にいた筈のエメラはいなくなっていた。

「なんなんだ……お前は!?」

 その問いに睨むことで答えるエメラ。

「くそやぁろぉぉぉーーーー!!」

 そう言う騎士は剣をもう一度振り上げた。

 しかしやはりエメラの剣術の方が上で、その瞬間自分の身体を騎士の身体と正面で隣合う様にして足をかけ、騎士を仰向けに倒れさせた。騎士の喉元には長剣に絡まれた自分の剣とその上にはエメラの長剣がのっかっていた。

「あんた騎士なんでしょう!? なんでこんなことやってるわけ!!?」

 怒鳴るエメラ。

 その騎士の表情は焦りから気味の悪い笑みに変わった。

「クックック、そんなの……楽しいからに決まってんだろうがぁぁ!!」とその騎士は力で押そうとしたのだろうがビクともしない。そしてまた焦る。

「くっそぉぉ、お前らぁぁ!! こいつを殺ってくれぇぇ!!」

 自分ではどうにもできない相手を仲間の騎士に殺せと命令する。

 しかし、エメラが騎士と男性の間に割って入っているのを見た瞬間にガクトとミサは現場に向かって、既に二人の騎士を取り押さえているのだった。ガクトはその鎧の上から魔破拳を繰り出し、騎士は失神してしまった。もう一人はミサのバンくんに抑えられ、その恐ろしさにか不憫さにかは分からないが、ひぃぃぃ、となってしまっている。

 その光景を見たエメラに押さえられていた騎士は諦めた。

 ガクトたちは三人の騎士を一緒くたにして縛り上げ、ガクトが男性の肩を担いでやった。

「ありがとう……ございます。助かりました……」

「いいんじゃあよぉ。それよりもわしらはあの城まで行きたいんじゃ。案内してくれんかのう?」

 いいんじゃ、という部分にガクトたち三人はあんたは何もやってないだろ! と言いそうになる。

「そうですね、分かりました。でも今は……身体から力が抜けちゃってて、肩を借りながらでも良かったら……」

「そんなもんはいくらでも貸してやるわい。それなら早速行こうかのう」

 貸しているのはガクトの肩だ。

 そうして城に向かって歩き出した勇者一行と男性、そして縛られた騎士が三人。その途中で一人の騎士が語り出した。

「最初は……ただの抗議だったんだ。国頭であるカグツチさんが異常な税の引き上げを指示して、それに耐えられなかった民衆が声を上げたといった風な。でも……カグツチさんがその抗議の声に全く取り合わなかったことを不満に思った民衆が結束して城に攻めてきたんだ。それを騎士たちに……排除させた…………。そこからなんだよ。こんな風になっちゃったのは。やられたらやり返すの繰り返し。カグツチさんには不思議な力もあって逆らうこともできなかったんです……。まぁ俺はこの国の住民じゃあないんだけど…………」

「不思議な力って?」

 皆の疑問を訊くガクト。

「騎士や民衆の行動を知ることができるんです。どこで何をしていたのか、観ることもせずに……」

「カグツチさんにはそんな力があったんですか?」

 クニシゲに訊いてみる。

 二人は昔馴染みだ。

「いんや、そんな力は無かった筈じゃあ。おそらくカフアマーナの影響じゃろう……部下なのか、【軍勢】の力なのか……くそ! わしがついておれば…………」

 クニシゲは自分の中で処理しきれない感情が表に出てくる。皆にその怒りが伝わってくる。

 カグツチの能力について皆に知れた時、城まであと五百メートルという所まで来ていた。同時に遠くの方から、騎士が捕まっているぞ! というガクトたちを見つけた声が聞こえてきた。皆でそちらの方を見る。

 十数人の騎士たちが走って向かって来ていた。

「はぁあ、私がやっておくわね」

 疲れ気味にそう言って、その騎士たちが向かって来ている方にスーっと向かうエメラ。あと少しで接触する、その瞬間、エメラの俊足が発動し騎士たちの前から姿を消した。

 何処に行った? と戸惑う騎士たち。

 しかしエメラはその場に高速で走り回っているだけであって(言うのは簡単だが)、次々に騎士たちは倒れていった。最後倒れた騎士たちの真ん中で身体に合わない長剣を持って仁王立ちしているのはエメラだった。

 そんなエメラが皆の前に戻ってくる。

「殺してないでしょうねぇ?」とミサ。

「殺してるわけないでしょう。私の剣技は本来美しさのためにあるの! 殺すためにあるんじゃあないわ。強いけどね」

 そう言って笑っているエメラはそんな強さを想像もできない様な幼さを全身から滲み出している。

 その騒ぎを聞きつけた騎士たちが次々とガクトたちを発見して追ってくるのだった。

 ガクトたちは城の方向へ走り出す。縛った騎士たちは放り出して男性だけは連れて行く。

 四分ほどで城の前に着いた。

 その頃には騎士たちに追いつかれていて、百人程の騎士がガクトたちを取り囲んでいた。

「ガクトや、練習の成果を見せてみい」

 その言葉を受けてガクトは準備をする。聖力を身体の内側に溜める。この時、皆を助けたい、という思いで心を満たす。

 そしてそれを全身から放出した。白いもやもやが全身から広がっていく。それは一瞬で騎士たち全員を包み込んでしまい、その場にバタバタと倒れていく。

「上手く……いった…………。上手くいきましたよ、クニシゲさん!!」

 クニシゲは微笑んでいる。弟子の成長を喜んでいる様だ。

「では中に入ろうか」

 入る前男性は礼を言って町の中に消えていった。そのまま勇者一行は城の中に入った。


 城の中には人気が無かった。入ってすぐの広間にも、その横にある給仕室や応接室、二階の各部屋、何処にも人の陰は無かった。

 一行は階段を折り返し折り返し昇って行き、一番最上階に来た時、その正面には宝石や金などで装飾された大きな扉が現れたのだった。その扉だけが人気のない城の中では異質なものだった。

 意を決してその扉に手をかけ、開く。

 中には窓の外を見ている白長髪の老人が立っていた。

 そして、

「やっと来たのか、待ちくたびれたわ」

 それはまさしくカグツチなのだろうと全員が思った。

「カグツチ、久しぶりじゃのう……。お互い歳をとって……この……この国の有様は何なんじゃ!!?」

 クニシゲの感情は高ぶる。

「ハッハッハ、良いだろう? この景色! 知ってるか、クニシゲ。高い所からだとこの世界のてっぺんに立っているような気分になるんだ。人が蟻みたいに見えてな。いいぞぉぉぉ!!」

 そう言ってカグツチが振り返った瞬間、その空間は魔力に支配された。壁も床も天井も真っ黒な空間になってお互いの姿を視認できているのが不思議なくらいだった。

「どうしてじゃ……。どうしてそんな風に…………」

 カグツチは笑っている。

「どうしてって、そんなの……」

 カグツチは一回俯いて言葉を考えている様な雰囲気だ。

「気紛れに決まってんじゃあねーかぁぁぁぁ!!!!!!」

 その時、クニシゲの顔は紅潮しキッとカグツチを見たかと思うと、一瞬でカグツチの目の前まで移動し、魔破拳で殴りつけた。

 今までで一番威力のある攻撃に見えた。殴られたカグツチは横に吹き飛ばされ、城の壁を破って外に放り出されてしまった。その結果、魔力に包まれた空間も解除された様だった。

 読んでいただきましてありがとうございました。

 今回はカグツチをクニシゲが殴り飛ばした所まででした。


 次回は魔王の天敵〈歩〉の最後の方の展開になっていきます。

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