第七十六話「冒険者ギルド」
魔法都市エンディミオンより帰還し、数日。
城塞都市ミラドールの街中をのんびりと散歩している。
一人で、だ。
何故に?
館にいるのが煩わしいのだ。
次から次と祝辞を述べに門閥貴族達が、ご令嬢を連れ我が家の門をまたぐ。
俺のご機嫌窺いは勿論、若い娘を次々に紹介される。
その度に、ハリエットはご機嫌斜めになる。
メアリーやドロシーに至っても、ジト目で俺を見るありさまだ。
俺も男だ。
中には飛びきり可愛い子だっている。
俺の意志とは無関係に、思わず身体が反応し、鼻の下を伸ばしてしまう。
そう俺は有名人なのだ。
王子で、この甘いマスク。
その上、世界最強クラスの超魔術師。
誰もが俺に憧れる。
誰もが俺に羨望の眼差しを向ける。
だから今日は、目立たないようにボロのローブを纏い、顔も少し暖炉の炭で汚した。
有名人は大変なのだ。
ちょっと違うけど……芸能人と似たようなもんだ。
これなら、王子とバレない。
うん、バレるはずがない。
一度、庶民の中に溶け込んでみたかった。
お忍びの視察だ。
冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドに向ってるのだ。
冒険者ギルドは男のロマンだ。
熱いモノが全身に滾る。
「あのう、冒険者ギルドってどっちですか?」
「あの角の先にあるよ」
行商人ぽい人に聞いた。
あの先か。
うふふ、王子だと気づかれない。
ただ貧乏そうなガキが、道を尋ねてきた。
彼はそう思ったに違いない。
俺の変装は完璧だ。
木造二階建て、見上げるとデカイ看板。
開きっぱなしの扉。
冒険者だと一目でわかる者達が出入りしている。
うん、ここが冒険者ギルドだ。
なんだか、わくわくしてきたぞ!
中へと入ってみる。
テーブルが幾つもある。
豪快に笑う者。
浮かぬかをしている者。
負傷し傷の手当てをしてる者。
装備自慢してる者。
パーティで作戦ぽいものを練ってる者。
様々だ。
奥に受付のカウンターがある。
そこには愛想振りまく綺麗なお姉さんがいる。
彼女がこの冒険者ギルドのマスターなんだろう。
依頼のビラを受け取ったり、報奨金を手渡したりしてる。
まずは掲示板を確認したい。
コルクガシの樹皮で作ったボードに、依頼書がピンで止められている。
冒険者ギルドにはランクがあり、A・B・C・D・E・Fとランクが6段階ある。
また、それとは別格のS級というのもがある。
ある程度の事前情報はメアリーから入手済みだ。
ほう、ランクごとに依頼書は分けられて貼られているのか。
Fランクの依頼書から順に見ていく。
まるで、ハローワークの新着掲示板だなぁ。
無職のヒキニートだった俺でも、一度ぐらいは嫌々足を運んだ事はある。
Fランクは、労働的な依頼が多い。
農産物の収穫や店のお手伝いのようなもの。
犬の散歩依頼や、逃げ出したペットの捜索依頼まである。
Eランクは、薬草になる草花の収集や、用心棒の募集などが目立つ。
Dランクは、獣の肉や毛皮などの素材集めが多い。
Cランクは、魔物退治依頼がグッと増える。
Bランクは、冒険者ギルドが管理してるダンジョンの捜索などもあった。
そしてAランクには、逃亡した召喚勇者、3名の捜索なんてのもあった。
依頼主は法王庁のアルマン司祭だった。
依頼書とは別枠で、冒険者が仲間を募る掲示板もあれば、『傭兵団に加入しませんか? 朝昼晩三食付き』ってのもあった。
とりあえず俺の目標はCランクにしておく。
ダンジョンに潜れればOKだ。
C級冒険者になれば、一つ上のBランクの依頼も受けられるシステムだからな。
ダンジョンの最下層にある魔力結晶の入手が最終目的だ。
「お姉さん、冒険者登録にきました」
笑顔で明るく話しかける。
だが、お姉さんは少々困ったように眉を潜めた。
みすぼらしく、貧乏そうなガキが今の俺。
それでも、登録料さえ払えばギルド登録はしてもらえる。
「まず、こっちの書類に記入して貰っていいかな? 文字が書けないなら代理で書いてあげるわよ?」
「文字は書けます、大丈夫です」
名前と身元の連絡先、後は特技などを軽く書くだけのようだ。
しかし、どうしよう。
記入したら一発で、バレてしまう。
バレた瞬間、この場が激変する。
俺のファンがサインを求めてくる。
それだけなら、まだいい。
俺のご機嫌を取ろうとする輩に絡まれるのが、一番面倒なのだ。
お姉さんの視線が痛い。
筆が止まってる俺を不審そうに眺めている。
そして、クスッとお姉さんが微笑んだ。
「心配しないでいいわよ、内緒なんでしょ? ルーシェリア王子」
……げ、バレてた。
でも、俺の変装を察してくれたようだ。
「仕事柄、王城には足を運ぶのよね。何度もお見かけしてるわよ」
「あはは、最初からバレてたのね……」
「はい、これがギルドプレートよ」
受けっとったギルドプレートを見た。
これはS級冒険者のギルドプレートじゃないのか?
間違えたんじゃないの?
「ミスじゃないわよ? 超魔術師の称号はS級以上なのよ。はい、こっちがパーティ用のリングよ。そのリングを嵌めてる者同士がリングを重ねると、同じパーティメンバーとして見做され、カウントされるわよ」
パーティかぁ。
そうだよな、冒険って言ったらパーティだ。
リングは皆の分も貰っとくか。
パーティリーダがS級なら他のメンバーは仮にF級でも未登録でも、一緒に依頼がこなせるらしい。
ただし、それは冒険者ギルドの管理の外で、何かあった場合の責任はパーティのリーダーが、その責務を負うようだ。
「これで、ギルド登録は完了よ」
「はい、ありがとうございます」
魔術師ギルドもそうだが、ギルドには国境がない。
登録すれば、どこの国でも依頼が受けれるのだ。
「お姉さんっ!」
「なぁに?」
「魔力結晶を入手するのに、お勧めのダンジョンってありますか?」
「う~ん、そうねぇ……この国の王子様に提案するのもヘンな話だけど、ファリアスにある迷宮がこの辺りだと一番のお勧めかなぁ」
お隣のファリアス帝国に、世界最大級の地下迷宮があるようだった。
地下100層に及ぶ大迷宮と囁かれてるそうで、最下層まで辿り着いた者は未だかつて、いないらしい。
見聞を広めるにもいいと思った。
それに、それだけの大迷宮なら、きっと良質の魔力結晶があるはずだ。
魔力結晶を入手して、俺は過去や未来を旅する。
時の旅人になるんだ。なーんてなっ!
超魔術の称号が、思わぬところで役に立った。
称号なんて、どうでもいいと当初は考えていた。
だが、よくよく考えればソーニャもユーグリットで宮廷魔術師になる為に、魔法学園に通ってたんだもんなぁ。
やっぱ、資格ってあった方が、この時代でも有利に働くんだなぁ……。
今頃になって顔が緩み、にやーっとしてきた。
マリリンのヤツ、元気にやってるかな?
イジメられたりしてないかな?
あの性格なら大丈夫そうだけど……。
それに、ラルフとミルフィーがいる。
二人にもしっかりお願いしてきた。
今頃、学園生活を満喫してるに違いない。




