第七話「抜けきれない習慣」
※改稿済み(2017/3/27)
「ルーシェ様、お風呂の準備はできてますが、入っても大丈夫そうですか?」
お風呂場でメイド服姿のメアリーが、俺の身長に合わせてしゃがみ込む。
可愛いメイド服なのだが、何よりも豊満な胸の谷間が俺の目を襲った。
艶やかで柔らかそうだ。俺は生唾をごくりと飲んだ。
チラチラと見ては視線を泳がせる俺。
そんな俺のおでこにメアリーが手を当てる。
「も、も、もう大丈夫だよ。熱はないみたいだよ」
「そうみたいですね。ルーシェ様、これならお湯に浸かっても平気かもしれないですね」
「あ、そうだ! あの水って、お薬だったのかな?」
「ええ、あのお水は聖女様がお清めになったありがたいお水なのです。とても貴重なものらしくて、病魔の原因となる穢れを浄化してくれる聖水なのですよ」
そこまで言ってメアリーは、にっこりと微笑んでくれた。
なるほどな。はやり強力な回復薬で間違いなかった。風呂上がりの一杯に欲しかったが、そんな訳にもいかないな。残念。
でも、ひょっとして今から石鹸枠が始まるのか? エロゲーの世界を三次元で満喫できるのか?
鼻時が出そうだ……と、期待していたものの……マリーが、
「ルーくん、着替えはここね。マリーとメアリーは、これから食事の後片付けだからお風呂からあがったら部屋に戻っててね」
なんだ……一人で入るのか……俺を風呂に入れるのはお仕事じゃなかったのか? またしても残念だ。いや無念だ。
メアリーとマリーがこの場を立ち去った。
まあ、いいか、さて湯船に浸かるとするか。
湯船から湯気にのって檜の香が漂ってきた。随分と大きい浴槽で、大人三人ぐらいなら悠々と浸かれそうな感じだ。浴槽を照らすランプの光が幻想的でもあった。
この世界に電気や水道などのインフラ設備はなさそうだから、風呂ってかなり贅沢なものかもしれないな。
桶があったので、身体をすすぎ、ちゃぽんと湯船に入る。
丁度いい湯加減だ。
――――そういや明日は召喚勇者の称号授与式って言ってたな。
マリーの話によると俺は、その召喚された勇者に殺されるらしいのだが……。
召喚勇者ってネット小説でお決まりのアレな展開だよな?
冴えない少年が、何の前触れもなく異世界に召喚され、しょぼいチートと思いきや、実は凄いチート保持者で、圧倒的なステータスだったりするアレだ。
ふふふ、そうか……そういやまだ試していなかったな……。
「ステータスオープン!」
……あれ? 何も起きないぞ? イケメン王子でチート持ちって設定ではないのかな?
ここは剣と魔法がある世界だろ? ステータスがオープンできなくても、ネットスーパー的なノリや、スキルを奪ったり貼ったりできる能力があったりするんじゃないの?
あー、そうか……ある訳ないよな。俺は俺であって、異世界転生した訳じゃなさそうだしな。風呂に入って身体を見ればよくわかる。これは紛れもなく元の身体だ。ただ、訳の分からない状況に陥っているだけなのだ。
もしかしたら過去の記憶そのものが、偽物だったりして? たとえば星の記憶保持者で、俺は遠い過去の世界から旅して来たとかね。マリーは未来から来ている訳だし……。
まあ全部、勝手な妄想なのだが。
とはいえ、召喚されてくる勇者か……どんな世界からどんな奴らが召喚されてくるのだろう。二週間前に召喚されて来たって言ってたなぁ……俺が寝込んだのも同じ時期らしいし、何か関係があるのかな?
それに――――勇者が召喚される世界だし、魔王とかもいるのかもな。
後でマリーに聞けば分かりそうだな。
全てはそこからだ。
さっぱりとした俺は、パジャマに着替え、二階にある部屋まで戻った。
部屋に戻ると燭台に刺してある蝋燭が短くなっていた。
ベッドに腰掛け、ぼーっと部屋を見渡す。
「暇だ……」
ひとりごち、さらに呟いた。
「やっぱ、パソコンがないと暇だな……」
ラノベもないし、マンガもない。携帯ゲーム機も勿論ない……。
ネット中毒気味だったせいか、パソコンがないと手持ち無沙汰だ。
電気もない世界だし、そこはもう諦めるしかないだろう。
「未来の俺がポテチを作った気持ちも分からなくないな……ああ、でも寿司が食べたい……」
知識はあるんだ。いつか……作ろう。
そう思いながら退屈凌ぎに窓から外の景色を眺める。
月明かりが家々の屋根を幻想的に照らしていた。窓を開けると冷たい風が入り込んで来たので、即座に閉める。
「コンコン」
ドアをノックする音が聞こえた。誰だろう?
ドアを開けるとメアリーが立っていた。
「ルーシェ様。明日の早朝、起こしに参りますね」
「うん、わかった。ありがとう」
パジャマの止めてなかったボタンを、メアリーが止めてくれた。
「はい、できましたよ。ベットに向いましょうか」
俺はベットに寝かされ優しく布団をかけられた。
「ルーシェ様、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
メアリーは微笑むと部屋から出ていった。外は暗いが今何時ぐらいなのだろうか?
ぶっちゃけた話、全然眠くないのだ。
むしろ今から俺の時間の始まりって感覚がある。ここにパソコンやゲーム機などがあれば、小鳥がちゅんちゅん鳴きだす時間まで遊んでいるに違いない。
そう困ったことに今までの習慣が抜けきってないのだ。
徹夜でゲームしたい。むずむずする。布団をめくりがばっと起き上がった。
「コンコン」
あれ? また誰か来たみたいだ。
勝手にドアが開いた。
「ルーシェや、お身体の具合はどうですか?」
母親のエミリーだった。
「あ、母君。元気ですので、心配しないで大丈夫ですよ」
「そうですか、ルーシェがそう言ってくれて母は安心しました。明日は早いので、夜更かししないで寝るのですよ?」
「あ、はい、おやすみなさい」
エミリーは風呂上がりだったようだ。ほんのりと濡れた髪で、頬が火照っていた。
よくよく考えたら俺はエミリーよりも精神年齢は高いのかもしれないな。
エミリーはドアをゆっくり閉め去っていった。
もう寝るか。やることがないしな……そのうち眠くなるだろう。
――――随分と時間が経った気がするが全然睡魔が襲ってこない。
「コンコン」
あれ? また誰か来たのかな?
ドアが開いたので、俺は身を起こし、ドアの先にいる人物を注視した。
はて? ――――「誰なの?」こんな夜更けに?
そこに見知らぬ少女が立っているのだった。




