第六話「日常」
※改稿済み(2017/3/26)
メアリーと下の階に降りた俺は今、家族と食卓を囲っている。
ここまで来る途中、沢山の部屋があった。絢爛豪華なお邸で、金持ちの家なのは理解できた。この家はどんな歴史ある家系なのだろうか。
「ルーシェリアよ。体調はどうだ? 部屋へ食事を運んでもよかったのだぞ?」
親父が緩い笑みを浮かべつつ、豪快に骨付き肉を頬張る。
ジューシーな肉の香が俺の食欲を誘った。なんの肉なのだろうか。
円卓を囲むように、それぞれが席に着いている。その中には初めて見る男もいるのだが、親父と凄く仲が良いようだ。騎士の風貌で、歳も親父よりは若そうである。
その騎士の男が親父の隣に座っており、その隣に母親のエミリー、次に司祭のシメオン、そしてマリー、俺、メアリーという順番で、座っているのだ。
騎士の男が俺に話しかけてきた。
「坊ちゃん。すっかりご気分麗しく、このウルベルトも安心いたしましたよ」
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」
「ご丁寧な挨拶、恐悦至極に存じます」
爽やかな男だ。気さくなお兄さんって感じがする。
騎士の男は親父の部下で、名をウルベルトというらしく、かなり腕の立つ騎士らしい。
また、それとなく親父達の会話を聞いていると、俺の立場が明白となってきた。
驚くことに、俺はどこかの国の王族で王子のようなのだ。
てことは親父が王様ってオチなのだろうか? とてもそうは見えないが……。
そう思いつつ、家族の会話に耳を傾け情報収集に徹するのだが、ほとんどが食べ物の話題で、この国がミッドガル王国という名であることぐらいしか分からなかった。
それでも俺が王子という立場ってことが分かっただけでも、今は十分……というより、ニヤニヤが止まらないのだ。
学校でイジメに遭い、29歳まで引き籠っていた俺が、どんな因果なのかイケメン王子なのだから。
にんまりと満足していると、エミリーが俺に話しかけてきた。
「ルーシェ、お味の方はどうですか? 今日は母も腕を振るったのですよ」
「うん、とても美味しいですよ母君」
すると親父が、
「そうだろう。この肉はドラゴンの肉だ。お前の快気祝いに馬を走らせ買って来たのだ。沢山あるから遠慮せずに食べるがよい」
ドラゴンの肉だって?
「あ、はい。父君、ありがとうございます」
熱々ほくほくジューシで旨いが、この世界にドラゴンが存在していることに俺は内心驚いた。やはりこの世界は剣と魔法が主流のファンタジアな世界のようなのだ。
「んしょっ、ルーくん、これ食べてみて? マリーが作ったんだよ」
マリーがバスケットに入ってるお菓子を俺に勧めて来た。
じゃがいもを薄くスライスし、油で揚げ、塩で味付けしたものらしい。
そして、マリーが小声で俺に伝える。
「それね、未来のパパがマリーに作り方を教えてくれたんだ。サクサクしてとても美味しいよ。ポトチって言うんだよ」
「ポトチ?」
「うんっ!」
多分、ポトチではなくポテチと伝えたんじゃないかな? と、思いつつ食べてみると、やっぱりポテチだ、うん。もぐもぐしてると、マリーが聞いてきた。
「パパ、美味しい?」
「うん、美味しいよ?」
「ふ~ん?」
あれ? マリーが少し残念そうな表情をしているぞ?
「未来のパパは感動して涙流しながら食べてたのになぁ……」
ああ……そういうことか。俺を喜ばせようと思ってマリーが頑張ったんだな。
俺の感覚だと、三日前に食べたばかりって感じなのだが。ここは全部食べちゃうか。
「マリー、ありがとう。とても美味しいよ。このサクサク感がたまらないね」
「でしょー、パパ。マリー頑張ったもん!」
よかった。マリーがにっこりと、満面の笑みを見せてくれた。
「ルーシェリアよ」
「あ、はい。なんですか父君?」
「それ、旨そうだな? こっちにも回してくれないか?」
親父の名はアイザックというらしい。マリーがこっそり教えてくれた。
「ほほう、イモを油で揚げるとこんなに旨いとは驚きだな」
皆がバスケットに手を伸ばし、あっという間に空になってしまった。
「まぁ、とても上品な味ね。美味しかったわよマリーちゃん」
母親のエミリーの感覚だと、上品なお味のようだ。
上品なお味ねぇ……スナック菓子みたいなもんだけどな。
メアリーは作り方が気になったようで、マリーに作り方のコツを教えて貰ってるようだ。
マリーも嬉しそうにメアリーに教えている。微笑ましい光景だと思った。姉妹ように見えなくもない。
「で、ルーシェリア。具合はどうだ?」
また親父のアイザックだ。
「はい、特に問題ないですよ」
「ならば、よい。明日は我が国にとって重要な式典があるでな。お前も参加するのだ」
式典? お祭りのことだろうか。
「あなた……ルーシェは病みあがりですし安静にしておいた方が……」
エミリーは俺のことが凄く心配なのだろう。
「そんなに心配されますな。エミリー殿」
「司祭様……」
「清めし水をあれだけ飲んだのじゃ。もう大丈夫じゃ」
やはり回復薬で、ただの水では無かったようだ。二週間も寝たきりだと身体が硬くなり、しばらくはリハビリが必要になりそうなもんだけど、あの水のおかげで俺は元気のようだ。
「そうだぞ。我が子ルーシェリアは軟弱者ではない。こうして元気にしておる。ルーシェリアも参加するがよい」
親父のアイザックの話によると、二週間前に勇者候補生たちが異世界より複数人召喚されたらしいのだ。ひょっとして、彼らがマリーが言っていた勇者なのだろうか。
「パパ……」
マリーが不安げに瞳を揺らし囁いた。
「そうなんだな?」
「うん……」
俺は優しくマリーの頭を撫でた。
宴もお開きとなり、シメオン司祭とウルベルトの二人は親父に礼を述べ帰って行った。
メアリーは食事の片付けに入りつつ、お風呂を沸かす為に薪をくべにに行ったようだ。
「ルーシェリアよ、明日は早い出仕になる。風呂を浴び、今夜はぐっすりと眠るがよいぞ!」
「はい、父君!」
マリーの話によると、親父のアイザックは俺が元気なったことで、明るくなったという。
俺が寝込んでいる間、親父は外出も控え気味だったらしい。親父の趣味は馬と魔物狩りのようで、暇を見つけては部下のウルベルトと狩りに出掛けるそうなのだ。
マリーが俺の袖を甘えるように掴んだ。
奇妙な話なのだが、俺は未来で殺されたマリーの父親なのだ。
無論、父親の自覚がある訳ではないが、それでもマリーの気持ちは何となく分かる。俺も両親を交通事故で失くしているからな。マリーにとっては奇跡の光景なのかもしれない。
「ルーくん、お風呂に行こう!」
「うん、そうだね。行こうか」
マリーはとても嬉しそうだ。
こうして俺達は、お風呂場へと向かうのであった。




