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娘、引っ越す




 ミノタウロスの初のメス、アステリア。頭が牛、からだがヒトのモンスターである。ミノタウロス族特有スキル、“ラビリント”を保有する嫁き遅れの25歳。つい先ほど、見に覚えのない噂のせいで、長年慣れ親しんだ住居を、追われるように場所を変えたばかりである。


「誰が残虐非道よ」


 残虐非道を尽くしたミノタウロスが再び人間界に降りてきた――それが尾ひれも尻尾もついてニンゲンの間で流れる噂だ。


「父さんと間違われてるし」


 噂に出てくるミノタウロスは、明らかにアステリアの父だ。かつてニンゲンの冒険者相手に一匹で立ち回り、周囲を血色一色に染めあげた過去を持つ。明らかに噂のミノタウロスはアステリアの父で間違いない。


「あたしはまだニンゲンを襲ったことがないし、これからも襲うつもりはないのに」


 アステリアは、平穏にただ引きこもっていたいだけだ。一匹にしてほしいだけだ。放っておいてほしいだけだ。


「ま、ここまではこないでしょ」


 アステリアは、咄嗟に思い付いたにしては上出来の引っ越し先だと思った。

 ミーノース島より南に下った先にある“死の島”。島内部にはヒトが住まず、あちらこちらに魔物が跋扈する人外魔境。魔物は知性あるモンスター族とは一線を画する、本能だけで活動する危険生物である。よくニンゲンのコロッセオとやらで“対モンスター”といわれて見世物にされているのはモンスターではなく魔物だったりする。


「さぁ、ゆっくりお昼寝でもするかなぁ」


 アステリアは島内部にある火山の麓の森の中、流れ落ちる滝の裏側に広がる洞窟に迷宮ダンジョンを作成した。火山の火口部より辿り着ける“死の世界”への入り口であるダンジョンからかなり離れた立地である。

 一応モンスターにも縄張りがあり、アステリアは母方の親戚である死の島の主に、きちんと許可を得てダンジョンを作成した。

 しかし、死の世界への入り口に関しては別だ。あれはモンスターの中でも神に近い別格のモンスターが住む。死の島の主ですら不法住居に関して黙っているのだから、アステリアもそれに倣うまでである。


「Zzz………」


 新居たる迷宮ダンジョン内部の最奥部に設えた自室にて、ダンジョンのマスターであるアステリアは眠りについた。

 心配した母方の叔母である島の主が、いつの間にやら手配した魔物たちがダンジョン内部を闊歩しているとは気付かずに、アステリアは眠りについていた。

 盛りを迎えたその日からずっと引きこもり続けていたアステリアは知らなかった。

 眠りについている間、牛である頭はヒトガタになり、眠る姿はぱっと見ただけではニンゲンにしか見えないことを。 それはもちろん、盛りを迎える前日まで一緒に寝食をともにしていた父母も知らないことであった――何しろ、盛りを迎え成人したその日から変化は起きていたのだから。




 眠り続けるアステリアは知らない。

 眠る姿は、真っ赤な豊かな深紅の髪が滝のように流れ落ちる美女の姿だと。アステリアが好んで身に纏う古風なドレスと相まって、まさしく眠れる森の美女であると。

 そして、距離を離して逃げ切ったと思っていたニンゲンの討伐隊がまだ追っていることなど――眠るアステリアが知るよしもないことだった。

 気付いたのはただひとり。いや、ただ一匹。


「なんていうことでしょう!!」


 見た目はヒトガタのモンスター、背に羽を生やした妖精族。アステリアの叔母である。彼女は、まんまるの水晶球に写し出されたアステリアの眠る姿と、ダンジョンを目指して出発したニンゲンの討伐隊を見つけたのだった。






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