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討伐者たちの道行き―後編




「ちょっとおー!」


 魔女の幼い舌足らずな声が洞窟内に響く。声の響きからして、たいそうご不満のようだ。


「なぁーんにもー、いないじゃないのよーぉ!」


 そうなのである。

 ここは例のダンジョン内部。魔女が“魔、見ーっけ☆”とかいうふざけた名の魔術を発揮(左目をウインクし、右手を腰にあて、左手を左目の横でピースサイン)し、この場所を発見した。

 その場所までは魔女が使い魔“にゃーちゃん”を召喚して、皆で乗り込み空をひとっ飛びである。ちなみににゃーちゃんを召喚するときは、手を大空に向けて振りながら投げキッスをし、「あたしの可愛い可愛いにゃーちゃん☆、ここへき・て!」だった。何なんだろうこの魔女は、とテスは思う。これで本当に年長者(推定)なのか。嘘だ。

 しかし、呼ばれて一分もたたずに呼ばれてきたにゃーちゃんは、とてもじゃないがそんな可愛らしい呼び名通りの見た目ではなかった。


「どっ……ドラゴン!」


 二階建ての民家くらいの大きさの真っ黒なドラゴンであった。艶々な純黒ドラゴンであった。

 このドラゴン、下腹部がでっぷりとしており、首をピンクのレースのリボンで飾り、信じられないことにリボンには鈴が取り付けられているではないか。


「さーぁー、にゃーちゃん連れてってー」


 魔女の甘えた声に、ドラゴンは喉をごろごろ(地響きのような音である)鳴らし、


「ぎゃあ」

「ごふっ」

「おやおや」

「げふっ」


 神官、盗賊、狩人、テスの順で左手、右手で掴んだのである。

 ちなみに神官、盗賊が左手の餌食に、盗賊、テスが右手の餌食になった。鋭い鉤爪が何本も光る大きな手で、虫でも握りつぶすようにぎゅーっとされたのだからたまったものではなかった。


「はーぶあー、ないすとりっぷー☆」


 だれがよい旅をだ、と項垂れながらテスは思う。

 結局、魔女が「しゅっぱーつしんこー、にゃーちゃーん☆」といってドラゴンを羽ばたかせ、空の道中となった。

 船上でも死にかけたテスと盗賊の二人が胃の中を撒き散らし、神官が気絶をし、狩人は楽しそうにあははと笑っていた間、魔女はといえば―――


「やっぱー、お空の散歩といえばあー、箒よねー」


 かなり長く大きな箒に横座りでお空の散歩を楽しんでいた。

 ちなみに魔女の箒はピンク色であり、所々カラフルな花々で飾られていたりした。







 そんな道中も終わり、辿り着いたのは洞穴。


「ここで……やんすか……」


 げっそりと頬のこけた顔で盗賊が呟いた。彼とテスはふらふらとしており、猫背で両腕を前にだらんと垂らしたその様子はまるで―――


「あんたたち、幽鬼っていうかァ、ゾンビみたいヨォ」


 そう、まさしく生ける屍の如しである。


「まぁまぁ」

 寄ってもいないのに、しっしっと手で追い払う仕種をする神官をなだめ、二人の背をさする狩人はさしずめ引率の教諭か。


「ふんっ、あんたたちだらしないわネ!」


 神官はなぜか照れながら、神官服の懐からきっちりと折り畳まれた懐紙を取り出した。


「だから、これを服用なさい!」


 神官は二人を見ず、明後日の方向を見ながらずい! と懐紙を持つ手を差し出した。


「?」

「?」

「あぁ、お優しいんですね。お薬ですか」


 何もわからない二人と違い、ひとり理解した狩人が二人の代わりに懐紙を受け取った。

 狩人に優しいんですねといわれた神官は、ぼふん! と頭から盛大に湯気を噴出させ、見る側が照れるくらい真っ赤になった。ツン○レなのだろうか、ツンデ○なのかもしれない。もしくは誉められていないかもしれない。


「な、なななっ、何にもあんたたちが心配なわけじゃないないんだからネ!」


と照れる素直じゃない、長身スレンダーの女と見まごう美人の神官(男25歳、独身)。このあと、「ツ○デレたー★」と発言した魔女と口喧嘩をおっぱじめ、狩人なだめられるまで白熱した口喧嘩は続いたのだった。




 二人がもらった懐紙の中には、真っ黒な丸薬が入っていて、見た目にびびりながらおそるおそる口に含むと、甘酸っぱい柑橘系の味がする飴玉だった。

しかし、舐め終わった途端に体力が一気に回復する優れものであった。良薬見た目のみ苦し、である(違う?)。





 とにかく、話をもとに戻そう。


「ただの洞穴ー?!」


 テスと盗賊の体調が整うのを待ってから、一行は洞窟――というか洞穴の中に侵入した。ところが、である。


「行き止まりよネェ」


 まだ顔がほんのりと赤い神官が岩肌を見上げていう。神官はまだつんで、いや照れていた。

 洞穴の内部は、宿の一室くらいの広さしかなかったのである。どこをどう見ても、ミノタウロスがいるダンジョンとは呼べる場所ではなかった。


「ここは俺っちの出番!」


と盗賊が朗らかに名乗りをあげた。実はパーティー内で一番若い盗賊18歳(狩人談)、うきうきしながら行き止まりの壁のある場所を触った。


 ―――ゴゴゴゴ……


「ほぉら! 俺っちてばナイス!」


 盗賊が触った場所を中心に、壁が低い地響きをたてて粉塵を撒き散らしながらスライドしていったのである。


「ごほっごほっ」

「ごほっ! あーんーたーネー!」


 近くにいた魔女と神官はもろに粉塵を吸い込んでしまい、盗賊が二人からお仕置きをくらいあっちの世界に目覚めかけたのは別の話。






「ホコリまみれー!」

「もォやだァ、おニューの神官服がァ」

 着衣の埃をはたく女性(?)陣はさておき、ようやく内部をさらけ出した迷宮ダンジョン。


「何にもないっすねー?」


 勘がパーティー内では一番冴え、かつトラップなどの侵入者向けの罠に精通した盗賊が、道行きの頭を勝手出たのだが。


「おかしいですね」

「そうなんすよー」


 時折首を傾げながらあれ、あれあれぇと疑問を呈する盗賊に、肯定の意を返す狩人。狩人は盗賊に次いでトラップに詳しかった。なぜなら、トラップをかわす盗賊とは違い、狩人はトラップを設置する側だからである。

 そんな専門家たちが、こぞって首を傾げながら出した結論はというと。


「ねえさんがたー、トラップなんて、ここにはハナから設置されてねぇですぜー?」


 盗賊は首を傾げながら後ろの二人を振り返った。


「だれがねえさんよー、わたしはまだ若いのぉー!」

「アタシは男よ!」

「あぁっ、……!」


 魔女が箒、神官が鞭を取り出して盗賊にお仕置きを繰り出した。魔女の箒の柄がぐいーんと伸び、神官の鞭は一目で手練れとわかる使い方であった。……しかし魔女はいったい幾つなのか、謎が増えた。

 二人の攻撃を避けずにまともにくらった盗賊は、どこか天国にでも行ってしまったかのような恍惚とした顔で吹っ飛んでいった。


「…………」

「おやまぁ」


 テスはドン引き後退り、狩人はどこからか救急箱を取り出して、盗賊を追いかけた。(マジで、人選ミスってない?)

 テスは別の意味で背筋に汗をかいた。何なんだろう、このメンバーの人選。まともなのは狩人だけなのだろうか。魔女はレースとピンクに満ちたローブで実に魔女らしくないし、神官は何だか神官らしくないし、盗賊はおかしな世界への片道切符をお買い上げしてしまったようだし。


(………………)


 テスが己の先行きがとてつもなく不安に感じたそのときだった。


「な、何だっっ?!」


 いち早く気付いたのは神官だった。珍しく女言葉以外を発した神官が、とっさに側にいた魔女をかばうように抱きしめ、地に伏せた。「ちょっ」


 魔女が顔を赤くしながらもがくが、真面目な表情を浮かべた神官がそれを気にせずに叫ぶ。普段なら気にしていただろう場面だ。


「てめえら! はやく伏せろ! 魔女、オレ様たちひとりひとりに防護結界を築け、はやく!」


 オレ様キャラだったのかと魔女は思ったのか思っていないのか、ぽけらっと呆気にとられている。


「あ、え、――っ」

「情けねぇな、おい!――“神よ、御身がつくりたまいし人の子らを守りたまえ! 神聖防護不破壁!!”」


 魔女の魔術を待ちきれなかった神官が髪を振り乱して叫んだ。裏声ではない見事なテノールが周囲に響き渡る。顔もだが、声も良いらしかった。


「間に合ったか?!」


 周囲に金色の暖かな光が包んだのと、神官の安堵した叫びは同時だった。


「「「「!!!!」」」」


 残りの四人が、光に包まれた終わったのと周囲の壁が音もなく「ずれ始め」たのも同時だった。

 岩壁、土がむき出しの地面、蝙蝠がぶら下がる天井が、焦点があわなくなったかのように彼らには「ぶれ」て見え始めた。そのぶれは次第に大きくなり、皆思わず目を閉じた。テスと盗賊等はまた「酔う!」と覚悟したくらいだ。

 目を閉じた彼らはしばらく激しい揺れに襲われ、揺れが治まり目をおそるおそる開けてみれば、そこはダンジョンの入り口の洞穴だった。 洞穴にはもう既にダンジョンへの入り口がなく、盗賊にも見つけることが出来なかった。魔女のふざけた魔探索術により、ダンジョンはダンジョンごと転移したことが判明した。

 その場所は、既にミーノース島にはなく――


「え、えぇ……?!」

「魔女、どこだっ?!」


 男らしくなった神官に肩を揺さぶられた魔女は、顔を赤くさせながら神官から目を逸らして語ることによれば――


「ここから南方に下った、南方大陸に近い、死の島に……!」


 一同、驚愕した。

 死の島といえば――冥土への入り口が存在する、魔物が溢れた無人島であり、一度足を踏み入れた人間は戻らないといわれた危険地帯なのだから。

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