千里眼と叔母
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死の島といえば――島内のどこかに冥土への入り口が存在するといわれる、魔物が溢れた無人島とのことをさす。
その島はあまりにも強い魔物が棲息していることから、一度足を踏み入れた者は戻らないといわれた危険地帯でもある。
しかし、それはあくまでもニンゲンから見ただけの話。ニンゲン主観の場合である。
その実態は、ただただ魔物がたくさん棲息しているだけの、あるモンスターが所有する個人の持ち物、つまり所有主が存在する島なのである。
持ち主であるモンスターは、神に近い存在であるモンスター族の神族。光放つ千里の目の娘”と称される、エウアーラ・ユリディークである。
彼女は、普段からこの島を雇いの管理者に任せている。
島の持ち主であるエウアーラ・ユリディークは、普段から一ヶ所に止まらない生活を送っている。
そのため、自分の住居(=所有する死の島)に不法侵入や不法滞在する輩の防止、という意味合いと、自分がいない間のお留守番という意味合いを兼ねて、タリーアを雇っていた。
……のだが。
「ほーう、我のいない間にいろいろと面白楽し大爆笑な事が起きているねえ、タリーア?」
空を遊覧しながら、大空を泳ぐ魚型モンスターの群れを相手に釣りに興じていれば、遠い子孫が釣れてしまったり、その子孫は思考回路があまりにも筋肉だったり、興もなんだか半端に醒めたから自宅(島内の底部)に帰れば、なんだか近所で不法侵入やら破壊行為やらがなされていたり。
「ターリア、君の姪の新居の件は受け入れたけど、ねぇ」
漆黒よりなお濃い暗闇の中に、静かに流れる川の水面があった。この暗い世界こそエウアーラ・ユリディークの家、居住空間であった。エウアーラ・ユリディークは、主に暗闇に棲む習性がある種族なのである。
エウアーラ・ユリディークは、水面に向かってクスクス笑っていた。
一方、水晶を介して報告をしているターリアは青ざめていた。
ターリアの姪であるアステリアの引っ越し先に、この島を選び誘致したのはターリアだ。そこまではいい、問題ではない。
ただし、アステリアを追ってニンゲンどもがやってきた。これは由々しき問題である。
モンスター族は、ニンゲンとは距離をとって生活している。なぜならば、ニンゲンの七割近くがモンスター=魔物と誤解しているからだ。ニンゲンは思い込みが強いから、ヘタに接触してトラブルになりかねないことを、モンスター族側は学んだのだ。
だから、不法侵入はまた新たなトラブルの種になる。ならば、トラブルになる前に不穏な種など刈ればいい。
しかし、簡単には刈れなかった。
「まさか、ゲオルダンデウスのお馬鹿が招いたとはねぇ」
勘違いは恐ろしい。
今でこそ親バカで、性格も腹も丸くなったが、昔ニンゲンの冒険者を相手にゲオルダンデウスは無双した札付きのモンスター。
ニンゲンは噂の真相を確かめもせず、勝手に「昔暴れたミノタウロスが再び暴れた」と、アステリアを討伐する間に合わせの部隊を作り上げた。
しかもその部隊に、アステリアと因縁深い元魔女王が含まれていた。
「まあ、とにかくねー。我、見通してないことが起きているようだからー」
エウアーラ・ユリディークは、千里眼を持つ。たいていのことは言い当ててしまうレベルの千里眼を、だ。ある程度先の未来も、遠く離れた場所でさえ手をとるようにわかってしまうから。
そんなエウアーラ・ユリディークは、退屈屋だ。起こること全てがわかってしまうから、暇で暇でしかたがなく、いつも刺激を求めていた。
ミノタウロスの祖であるアステリオスと夫婦になったのも刺激を求めてだし、アステリアの呪いの緩和や解除につながる仕掛けをアステリアに施しているのも刺激を求めてだし、うっかりやさんなターリアを雇いいれているのも以下略。
そんなエウアーラ・ユリディークだから、また刺激を求めて行動を起こした。
「我、ぴーちゃんを千里眼してみたら、ちょっとみえにくかったんだよねぇ」
エウアーラ・ユリディークは、たまにみえないときがある。それがエウアーラ・ユリディークにとっては楽しみでしかたがない。だって、みえないから。わからないものは、何が起こるかわからないからこそ面白い。
「だから、ぴーちゃんにニンゲン三人にちょっかい出してもらおうと思うんだよねぇ」
ちなみに島内で、魔物・モンスターひっくるめて一番強いのは主(雇われ)ではなく、オーナーが遣わした主(雇われ)の護衛のぴーちゃんである。アステリアは一応客なので除外である。引っ越してきたといえど、エウアーラ・ユリディークから見たら、島にやって来る者は皆客モンスターである。
「さあ、ぴーちゃん出番、力の見せどころだと思うんだよねぇ」
――ここに、死の島の主、神族エウアーラ・ユリディークが誇る最強(最凶)モンスターと討伐隊三名が戦うことが決定した……ニンゲン三名は、もちろん知らない。




