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その時―3



「甘いわ!」


 はらはらはらり、と紅い絹糸のような髪が何本か宙に舞う。


「何が、隙ありって?」


 アステリアはにやりと、東の魔導師ミナが見れば“お代官様の笑みさなぁ”というような、そんなしてやったりな表情を浮かべていた。

 アステリアは瞬時に体をずらし、切っ先から逃れていたのだ。そしてアステリアの右手は、己に向けられた大剣の切っ先をがっし! と掴んでいる。


「なっ……!」


 ガタガタと、大剣が鳴る。剣闘士が大剣を動かそうにも動かせないのだ――アステリアの見た目に反する怪力で。

 これは討伐隊が知ることのないことだが……アステリアこの怪力は、もともとのミノタウロスとしての怪力に加えて、アッパッパーによる怪力増強の効果もあるのだ。

 ちなみに切っ先を掴んで血も流れていないのは、ただたんにアステリアの皮膚が見た目以上遥かに丈夫で頑丈なだけである。何しろモンスター族の中でも、ミノタウロスは頑丈な種族に入る。

 また、人に近い見た目のアステリアが大剣の切っ先を握りしめる、その様子に剣闘士は油断してしまったのもある。

 人間に切っ先を向けてしまった、しかも怪我をさせてしまったと錯覚したのだ。

 アステリアはそれを利用し、結果それは剣闘士の隙に繋がる。


「隙あり!」


 アステリアは大剣を持った姿勢のまま、くいっと大剣を持つ手を後方へと引く。その力の強さはとても剣闘士の比ではなかった。

 そして一気に二人の距離が近づく。顔と顔が急接近し、接吻ができる距離だ。


「っ?!」


 あまりにも速すぎるその展開に、剣闘士は遅れて後退しようとし――次の瞬間、顔を赤面させさらに油断してしまった。

 アステリアの美しすぎるその顔に見惚れてしまったのだ。もう既に見惚れる時点で負けが決まったようなものだ。


「消えて」


 アステリアの吐息を耳に残し、剣闘士は退場した――アステリアが少し触れただけで、ムーヴァーで転移させたのだ。


「ほう、ほう。武器に触れただけでは消せないのですか。また消えるときは痛みが伴わないようで」


 顎に手をおき、納得したかのように頷く狩人。

 迷宮ダンジョン最奥部、ホールにいるのはダンジョンマスターのアステリア、酔っ払いのゲオルダンデウス、そして玄人の狩人。

 モンスター対ニンゲン、第二ラウンド開始目前であった。


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