黒の会合
────祝福の国エデンと魔皇国ディセルダントの国境付近、ノーツグールの森。
濃度の濃い魔力に満ち、鬱蒼としたその森に近づく人間はほとんどいない。自ら立ち入るとすれば、魔獣くらいだ。
その地下施設にて、4人の影が寄せ集まっていた。
「まだ魔王の転生者は見つからんのかッッ!!」
隆々とした筋肉を分厚い鎧で覆った男が、唾を撒き散らして怒鳴った。ひー、ふー、と荒い息遣いがなかなか収まらなかった。
彼に責め立てられたフードを被った少女は、泣きそうな顔をして、胸の中の水晶玉を抱きしめた。
「落ち着きなさいオッコリポイ。ナキシムが怖がっているでしょう」
「黙れノンデーリ。大体貴様はまともに協力する気があるのか!?自分の仕事もこなせないのによく言う」
弧を描くように塗られたルージュの唇を吊り上げて、長身の女はギロリと蛇のような目でオッコリポイと呼んだ男を睨みつけた。
「あらぁ〜ご存知ない?ワタクシの仕事は、魔王の転生者を見つけてからですのよ?あの魔王が生前に遺した唯一の愛剣"壊王剣"を見つけ出すのは、アナタたちのお・し・ご・と。精々ワタクシのために頑張って頂戴な?」
「嫌味な女だな相変わらず!」
唾棄するようにオッコリポイが声を荒げた。
その怒声にナキシムと呼ばれた少女がまた肩を縮こませるが、今度はノンデーリも何も言わなかった。自分の耳に汚い豚声を入れたくなかっただけで、もともとノンデーリはナキシムを庇ったわけではない。
所詮、利害が一致しただけであり、当然彼らに仲間意識など微塵もなかった。
「あらゆる種族を滅ぼし、世界を掌握するほどのとてつもない魔力を秘めた魔王の愛剣……しかし、その肝心の剣は魔王が死んだと同時に行方知れず───」
カンカン、と地下の土を踏みしめる足音とともに、闇の中から若い男が姿を現した。
右頬に傷のある精悍な顔つきの青年だった。
「クエント」
「その行方を知るのは恐らく魔王本人だけだ。だからオレたちは魔王の転生者を見つけ出し、ソイツに"壊王剣"の在り処を吐き出させる必要がある───」
「なのになぁ」
とクエントと呼ばれた青年は、怒っているのか笑っているのか歪な表情を浮かべた。
「おいオッコリポイ。魔王の転生者は見つかりそうか?」
「それらしい人物を見つけて尋問にかけてるがまだ…」
オッコリポイの額に汗が滲む。彼は自分の弱い者には強気に出るが、強い者にはとことん弱かった。
「まあ、お前なんかあてにするだけ無駄か。大丈夫だ最初から期待していない」
「……ッッ!!!」
馬鹿にしたようなクエントの声に、オッコリポイの顔が朱に染まった。しかし、手は出ることはなかった。クエントが本能的に自分より強い者だと頭で理解していた。
「ナキシム、お前はどうだ?」
「……魔法水晶・ウェナマリアのお導き……ナキシムは1人、心当たりあります……」
「ほう?」
オッコリポイとはまったく異なる期待の目を、僅かにクエントは魔法水晶を抱えた小さな少女に向けた。
「それは誰だ」
「…ギルド=ジアディスト……魔王ギルド=ディルファと同じ名前を冠する人間……魔法水晶・ウェナマリアは…彼こそが魔王と同じ魔力形質を持った魔王の転生者だと……示してます……」
「ギルド=ジアディストですって?」
口を挟んだのは、ノンデーリだ。
「ジアディスト公爵家のお坊ちゃんでしょ、この国随一の貴族の名門じゃない!ソイツが魔王の転生者?そんなとこに転生だなんて、前世のお家といい、魔王は転生しても相変わらずね!つくづく生まれながらに銀のスプーンを咥えた男だこと」
「ちょっと黙れノンデーリ。今はオレが話している」
「みみっちいオトコ」
クエントは睨んだが、ノンデーリは軽く流した。
「……だが、魔王は死する瞬間、転生の魔法を使ったはず。それはこの国の歴史書にも記されている。となれば普通の人間の転生とは違い、魔王は前世とまったく同じ外見をして転生してくるはずだ!」
クエントは一冊の本を取り出して、ナキシムに見せつけるようにテーブルの上に叩きつけた。
そこに描かれていたのは、約1000年に死んだ魔王の肖像画。
全体としてのっぺりとした白顔で、額が広く目と眉が細い。東洋のほうに近い顔立ちだ。若年とは思えないほど、髪も薄い。
ジアディスト家ほどの高位貴族ともなれば、クエントの頭の中にも、当然彼らのパーソナルデータがインプットされている。
ギルド=ジアディストの顔も知っていた。
フサフサの黒髪に彫りの深い顔立ち。すっきりとしたフェイスラインと綺麗な二重。女性が色めき立つ男前と形容する他ない。
どう考えても、肖像画と違う。
「ギルド=ジアディストを見てみろ!全然この肖像画と違うじゃないか!こののっぺりしたハゲとあのイケメンが同じに見えるのかお前は!病院行ってこい!」
「でも……私の魔法水晶・ウェナマリアはそう言ってるもん……」
「はぁ、ちょっとでも期待したオレが馬鹿だったな。だいたい、その魔法水晶の予言はいつも全然当たらんじゃないか。この前も雨の予報程度外すし……お陰で散々だった」
「違うもん!ウェナマリアは…」
クエントとナキシムがそう言い争っていると、「ふわぁぁぁ」と欠伸をしながら、ノンデーリがどうでも良さそうに言った。
「ていうかその肖像画は合ってるんです?1000年前のなんてあてにならないんじゃなくってよ」
「「…………たしかに」」
クエントは頭を掻いた。そもそも前提が間違っていたとなれば、魔王の転生者探しは振り出しに戻ってしまう。
よって、彼が出した結論はこうだ。
「───ギルド=ジアディストを調べてみるとするか」




