フグ村の代替わり(後編)
ここから数話、時系列が前後しています。注意してください。
ワシらに強いられたフグ村のアラウズさんは、その後の会議で、次期村長の立場を前面に出して、帰村の話をした。ほとんど演説だ。熱の籠った声で、聖戦への全面協力を約し、不詳の父が迷惑を掛けたことを謝罪した。
若いなりに潔い演説は好感を持って受け止められたようだ。誰も、クロウズさんを処罰せよとか言い出さなかった。ホッとする。
その演説が終わった時、猪村のセンカワ村長が、発言を求めた。
「アラウズ殿の覚悟いたみ入りました。だが、わたくしめが見たところ、少し不安を感じられているようだ。父親を強制隠居させた事を、村人に理解して貰えるか不安なのではないでしょうか」
「センカワ殿、それは言い過ぎですよ。誰もが、村長を継ぐ時は緊張し不安を感じるものです。アラウズ殿もその例に漏れないだけ。大役を背負う事に緊張するのは普通の事です。
ただ、確かに。村長を交代するキッカケのこの聖戦会議については、誰かがフグ村人に説明に行った方が良いかも知れません。今回の交代は、フグ村人にとって突然の話、何か凶事が起きたのではと不安になる者もいるでしょう」
打ち合わせ済みだったかのように、テンヤ村長が言葉を返した。
「それはそうかも知れんが、説明するにしてもそれなりに顔が知れ渡っている実力者で無いとだめだ。しかし、自分の村でやらねばならぬ仕事を置いて、フグ村まで行くのは、誰にとっても大変な負担だ。
フグ村は遠く、一寸行ってくるという訳にはいかぬ」
そういえば、村長の交代にワシが出張るのは有益かも知れん。ワシが各村の村長の就任に影響力を行使できる機会は少しでも増やした方が良い。そして、今回は、ワシが行く理由が作りやすい。
「何ならワシが行っても良い。ワシなら、フグ村まで一飛びだ。他の誰が行っても10日は掛かるだろう。それに比べて、ワシなら一日で済む」
「タツヤ様、大変恐縮です。そう仰って頂けると大変助かります。アラウズ殿もそれで宜しいですね」
元々、その腹積もりだったのだろう、テンヤ村長が間髪を入れず合いの手を入れた。
「わ、わたしは……、タツヤ様にお越しいただけること恐悦至極です。帰村して歓迎の準備を整えますので、是非ともフグ村まで足を運んでください」
「ふむ、代替わりの儀に加えタツヤ様の歓迎と、短期間に2回も宴を開くのは、フグ村の負担が大きいでしょう。それなら、いっその事、代替わりの儀に合わせてタツヤ様に行っていただければ良いのでは。
今から、急いでフグ村に戻って代替わりの儀の準備をする。恐らく10日は掛かるでしょう。その頃には、この聖戦会議も終わっているから丁度良いのでは。タツヤ様からフグ村のカワセミさんに言霊を送って頂ければ、行き違いになる事もありません。
良いアイデアのような気がしますが、タツヤ様如何でしょうか」
「今は、聖戦に集中するため、少しでも節約が必要だ。ワシもそれが良いアイデアだと思う。それに、村人が、代替わりの儀を機会に新村長の下、一致団結してくれれば皆が助かる。ワシが行くのは、一石二鳥の良いアイデアだと思う。
だが、もし、フグ村の代替わりの儀の決まりで、他村の客が居てはならないというなら、ワシが行くのは迷惑かも知れない。
アラウズ殿、その点どうだろうか? ワシが代替わりの儀に参加するのは、何かフグ村の掟に触れたりすることになるのだろうか」
「ま、まさか、客人を謝絶するなどと……そのような事……寧ろ他村からの客人は多ければ多い方が良いくらいです。ご配慮頂き恐悦至極です」
「では、それで決まりだな」
話しながら、周りを見渡したが、怪訝な顔をしている者がかなりいる。そう、此処に居る者たちは、決して愚かではない。ワシらの提案の裏の目論見に気付いた者もそれなりに居るだろう。だが、疑念を持たれても、前例を積み重ねるのには意味がある。クニを作るには、村々が独自に持っている権能を、クニに集中させていく必要があるのだから。
フグ村の衆が帰村して以降、聖戦対策会議は順調に進行し、7月12日に合意事項を整理して閉会した。
その後、7村連合と猪村を廻り、7月17日にフグ村に移動した。フグ村は、トンビ村から東北東に約49㎞じゃ。今のワシなら1時間で到達する。
フグ村では、アラウズさんに加え、治癒術が使えるカワセミさんの出迎えを受けた。カワセミさんは、アラウズさんの姉で──確か8歳違い──イモハミ婆さんの弟子でもある。ただし、小さい頃、実のお爺さんにも呼吸法の手解きを受けたことがある。フグ村は、魔術士の家系があった村だ。
この人については、修行時期が被るテン村のスナコさんから要注意と助言をもらっている。
『あの子は、自分の村に拘りが強くて大変。修行中も、熊村への嫉妬が隠しきれていなかった。どうしても、どうしてもフグ村が大事、いやフグ村のみが大事。そうなんだと思う。
フグ村は、村長の性格で頑なな村だけど、あの子はそれに相当に毒されているわ』
旅人用の小屋に案内され、ワシ、アラウズさん、カワセミさんの三人で座った。そして、挨拶もそこそこに、カワセミさんが話を切り出して来た。
「タツヤさん。お久しぶりです。それと、今日は弟の晴れの日の祝賀に来ていただきありがとうございます。
しかし、しかしです。若し、アラウズが頼りないとか思っておられるのなら余計なお世話です。フグ村はフグ村の意思で物事を進めていく。幾ら、圧倒的な力を持つといっても、私やアラウズが幾ら力弱く見えても……フグ村にはフグ村の誇りも思いも事情もあります」
カワセミさんの発言の意図が、良く判らない。いきなり、敵対的になられても困る。突然の事にワシが反応出来ない間に、アラウズさんが言葉を返した。
「姉上、落ち着いて下され。最終的に隠居を決めたのは親父だ。親父もそれが村にとって最善だと呑み込んでいる。姉上も親父から説明をして貰っただろ。タツヤ様がフグ村を軽んじているなどと、誤解だ」
「誤解? 父を追いやっておいて……父を爪弾きにしておいて、誤解もなにもないわ!
他村との協力の為に、父の首を差し出させるなんて? 連合とは一体、何様のつもり?
そんな相手との協力、フグ村人一致団結して断固としてお断りよ。私が村長だったら、今すぐ絶縁の使者を送り付けてやるのに」
「姉者! 失礼にも程がある‼︎ 無茶苦茶だ! 出てってくれ!」
カワセミさんの言葉を、アラウズさんが大声で制した。そして、しばらく、カワセミさんとアラウズさんが口論をしたが、最終的にはカワセミさんが出て行った。
その後、アラウズさんがワシに向けて深々と頭を下げて、謝罪の言葉を述べた。
「タツヤ様、父に引き続いて姉が無礼を働き、お詫びのしようもない。
だけど、信じて下さい。村の総意は、北部大連合との協力拡大。公平な協力関係で村を発展させる事です」
ワシは、アラウズ殿の謝罪を受け入れ、予定通りに代替わりの儀に向かった。そして、ワシも来賓代表として演説を──聖戦と北部大連合の展望──したが、村の顔役の何人かは、ワシの演説に否定的な反応をしていた。
フグ村については、これからも要警戒じゃな。
次は、帆船計画です。時系列的には、この話の途中にあった出来事です。




