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フグ村の代替わり(前編)

 会議が始まって数日経った7月6日の夜、会議を乱すフグ村のクロウズ村長の対策の為に、話し合いが持たれた。


「北東の村々にとっては切実な問題、主張する気持ちは判ります。ただ、こう村々の連携を妨げるような態度を取られるのは困りものです」


「そうだ。しかも、北東側の無人地帯の対応が再来年になっても、何も困らないはず。何故? ああ、我儘な事ばかり言い募るのだろう。タツヤ様もヒノカワ様も次に妖魔王が産まれるのは兎村だと断言されているのに、信じる気がないのだろうか?」


「ワシやヒノカワ様が持つ大魔術を持たぬ限り、何処で妖魔王が産まれるか不安な事は判るのだが……そこは信じて欲しい。周辺の討伐を進めた場所で、妖魔王は産まれる。それは、確定事項だ。ワシ等は、既に戦場を選べる立場になった。だから、聖戦なのだと」


 実際には、間引きも併用して確実にするつもりだが、それは言わなくて良いだろう。


「タツヤ様が不機嫌な顔をされているのは判るはず。イヤイヤ、タツヤ様が努めて冷静に話されている事は理解しています。

 ただ、あの様な態度は、タツヤ様への不信表明に当たると気付いて貰わねば困ります。第一、兎村と北東で同時に作戦を進めれば、どちらで妖魔王が生まれるか分からなくなる。

 島の守護者を継ぐタツヤ様の大計画──聖戦──を狂わせる反抗的態度です。厳しい対応が必要かも知れません」


 テンヤさんだ。会議の前に一言だけ『積極的には賛成しないで下さいね』と言われたが……


「この会議も北部大連合も村々の集まりだ。何処かの村の態度が悪いからといって、どうこうする権限などない。第一、ワシとは異なる意見を言ったという理由で、何かペナルティーがあるとなったら、皆々意見を言えなくなる。

 会議が上手く進むように、物言いには気を付けて貰いたいとは思うが……誰か、仲の良い者を探して、雰囲気が悪くなっていると忠告する事以外、やれることは無いのではないだろうか?」


「忠告は、既に多くの者が行っています。それこそ、他の北東の村の村長や、息子にすら忠告されています。それでも、蒸し返しを止めない。そのような行いを放置する事は、村々の勝手気ままを生みます。その結果、村々の連携が崩壊し、妖魔に怯えない島──誰もが望む大願──を手に入れられなくなるかも知れない」


 テンヤさんが言葉を継いだ。そして、間髪を入れずツバメ村長のハヤグロさんが、同調した。ハヤグロさんは北東の村々にも一定の影響力がある。


「テンヤ殿の言うとおりじゃ。根回しの段階から、私から何度も忠告している。物言いに気を付けた方が良い。その方が、村にとって最も良い結果が得られると。

 タツヤ様の意向が判らなかった会議前ならいざ知らず、始まってからもあの態度は困りものだ。殆どの村は、最初の議論で却下された後は、無理を言うのを止めている。

 そういう村は良いだろう。どんな話でも、議題とする事自体をとやかく言うべきじゃない。しかし、同じ話を何度も繰り返すのは、時間の無駄だ。それ以上に、他の村々に音を上げさせて、ゴネ得を認めさせようとする戦術にしか見えん。

 己の我欲の為なら、村々に不和を拡げて良い。そんな意図にしか見えん。近隣の村長や息子からも、忠告されているにも拘わらず、そんな態度を続けるクロウズの奴に村長の資格があるのか……村長として多くの村々との交渉の場に出る器量があるのか、甚だ疑問だ」


 このテンヤさんとハヤグロさんの発言を支持する声が次々上がって、ワシも抑えようが無い状態になった。もう、この流れに乗るしか無い。ヤケクソだ。


「皆の気持ちは良く判った。ワシの態度が曖昧過ぎた。明日の会議で、また蒸し返しをしたらワシの方から厳しく言おう。『村々の協力関係を阻害するような態度は止めて欲しい』と、それでもまだ続けるようなら、その時には、また相談に乗ってくれないか」


「いえ、公の場で、苦言の刺されるのは、フグ村のダメージが大きいでしょう」


 テンヤさんが、意外な事を言い出した。では、どうせよと?


「皆の──全ての村の──想いは同じです。仮に、会議の場で、それを示したら……100以上の村に目の敵にされる事になる。村人がどれ程に肩身の狭い想いをするか。

 こんな場合は、ダメージを減らすために、密かに行う事が重要です。今から、少数で警告しに行きましょう。タツヤ様が一緒なら、重大性が伝わるでしょう。

 それでも、ダメなら明日の会議でお願いします」


 確かに、余りにも強くプライドを傷つけるのは、逆効果の場合があるな。


 そして、ワシとテンヤさんハヤグロさんの3人でフグ村長が居る小屋に移動した。フグ村からは、この会議に村長とその息子、戦士長の3名が来ている。その3名を連れ出して、6人だけで話をすることにした。


 ワシが『会議の進め方で話がある』と頭出しして、その後をテンヤさんが引き継いだ。

 テンヤさんは、まず、会議で決まった事の確認とフグ村に望む対応を話していった。細かい部分だと、ポロポロと認識の違いもあり、この前振り自体、それなりの意味がある。


 そして、おもむろにテンヤさんが本題を切り出した。


「こんなに遅く話に来たのは、北東の作戦の議題についてだ。あれをこれ以上、蒸し返すのは止めて欲しい。判っていると思うが、不満を感じる村は多い。

 そして、タツヤ様も困っている」


 テンヤさんの前振りに従って、ワシも言葉を継いだ。


「大戦を怖れる気持ちは判る。しかし、何度も何度も同じ話を蒸し返されるのは、困る。これから、聖戦を繰り返して妖魔に怯えない世を勝ち取るためには、村々の連携が何より重要だ。

 その点を考えて控えてはくれないだろうか?」


「承伏し兼ねます」


 驚いた事にクロウズ村長は、反論を述べ始めた。


「お言葉を返すようですが、あの無人地帯にフグ村人がどれ程に苦しめられているか、理解して頂けていない。

 わたしらが、連合に参加したのは、あの無人地帯をなんとかしたいからだ。今年、南の無人地帯を優先したのは仕方が無い。わしら北東の村々の準備が間に合わなかったのは事実だ。

 だが、この一年でフグ村の戦力は充実した。来年なら、()りきれる。どれ程に待ちわびたことか。

 それを、いきなり横から掻っ攫われた。納得出来るはずは無い。


 それなのに、今度は数の圧力で口を(つぐ)めなとど。フグ村を馬鹿にし過ぎでは無いか!」


 すれ違いの幅が大き過ぎる。だが、諦める訳には行かない。ワシ、テンヤさんハヤグロさんの3人で言葉を尽くして説得した。


 そして、その日は、クロウズさんの息子に『もう遅いので』と指摘されて、帰る事にした。


次は、フグ村の代替わりの続きです。

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