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妖精と妖魔の差

 旅人小屋に案内されたワシらに泉守さんが説明を始めた。冷たい水や果物もある。気を使っているのが良く判る。時間は、6月25日の昼下がりだ。


「ここにいる者は、殆どが別の村から移動してきた者です。此処では、余り子供が産まれない。そして、産まれる子も、妖精としてではなく、人として産まれる場合が多い」


「そうなのですか。でも、産まれた子供が人か妖精かなどと、どうして判るのですか? 失礼ながら、皆さんは人と見分けがつかない。成人しても見分け難いなら、子供だと尚更見分けられないのでは?」


「ああ、そうですね。実は、私には、この島に産まれた妖精を感知する魔術があるのです。だから、今は産まれて直ぐ、判別が付きます。

 でも、私がその魔術を身に付ける前は、歳の取り方でしか、判らない場合が有りました。この旅風などは、その例です。

 ほんの数年前までは、彼自身が人と固く信じていた。私が、何度言っても、『しつこく、馬鹿げた法螺を吹く変な奴』扱いされたものです。

 ただ、産まれてすぐに判る場合も有ります。人には無い特徴を持って産まれる子もいます。後で、紹介しますね」


「若しかしたら、ワシを気遣って姿が人に近い者だけで出迎えてくれたのですか?」


「はい。第一印象だけでも良くしたかった。出来れば……イヤ、何としても、タツヤ様とは良い関係を結びたいので。

 ただ、騙したり、隠したりする意図は、有りません。色々、ご説明してからの方が良いと考えただけです」


「ご配慮痛み入る。ワシも、下手な誤解や偏見を持たぬよう注意するつもりです」


 それから、隠れ里に住む妖精について、説明を受け、妖精の皆さんに挨拶していった。この里には100人程の妖精が住む。魔術が使える者も何十人も居る。その妖精の外見的特徴は3つに大別できる。


 まず、人に紛れられる程に似ている者だ。泉守さんのように長身で細身、角斬さんのように単身でズングリ、成人しても子供の様な姿の者。

 前世のファンタジー小説に出て来る、エルフ、ドワーフ、草原の妖精を思い浮かべるが、別に耳は尖ったりしていない。

『彼ら──少なくとも女性は──は、全裸になっても外見だけでは人と見分けつかない』ヒノカワ様も、そう指摘した。……ドスケべだから、実際に肌を合わせて確認したのだろう。


 次に、人の身体に他の動物の特徴が混じっている者だ。エラと水掻きを持ち水中移動が得意な者、翼を持ちある程度は飛べる者、そういう極端な者もいる。

 獣の顔を持つ者もいる。人より遥かに鋭敏な感覚器官を持つことが特徴だ。凄いケースは、鷹の目と暗視、犬の嗅覚、猫の耳とヒゲを持つ者がいた。尻尾は、人により有無が別れる。

 獣の脚を持つ者もいる。獣毛や蹄の有無は、色々だが、地上を信じられないような高速で移動できるのは共通だ。

 色々なタイプが居るが、このグループをまとめると、『人を基本としながら、他の動物の良い所を一部取り入れた者』だ。


 最後のグループは、外見では妖魔と見分けつかない。というか、魔術持ち小鬼そのものだ。

 妖魔は、暑い毛皮と牙や鉤爪、角といった特徴を持つ。顔も色が緑だったり皺くちゃだったり、犬や豚に似ていたりと、人から見るとかなり醜悪な外見を持つ。

 見た目では全く妖魔と見分けが付かない妖精がいる。

 泉守さんが、事前に説明してくれていたが、対面して思わず身構えてしまった。


「外見では見分けられませんが、彼らは妖精です。それは、ハッキリしています」


 ワシが身構えたのを見て、慌てて泉守さんがそう話した。庇おうとする気持ちは判るが……


「でも、姿形でないなら、どうやって見分けられるのですか?」


「私の魔術では、明確に見分けられます」


「? 魔術? で? ……失礼。それなら、不躾だが、ワシも鑑定の魔術で調べさせて貰って良いか?」


「構いませんが……タツヤ様の魔術で見分けられるのかどうか解りません。どんな結果であろうと、話だけは聞いてください」


 鑑定してみると、確かに妖精と見える。そして、持っている魔術は、魔術持ち妖魔よりは多めだ。


「確かに、ワシの魔術でも妖精と見える。姿形は同じなのに、何が違うのでしょうか……」


「私は、これまでの100年この島で様々な妖精や妖魔を観てきました。その経験から言うと、『妖魔で在りたくない』その心の底からの願いが、差を生んでいるのです。

 実は、彼らは妖魔として、妖魔の巣で生まれるのが普通です。そして、成長し魔術を身に付け、さらにある時点で妖精に変わります。私の魔術では、唐突に大人の妖精が出現したように見える。その場合、まずこの里に誘います。その後、各人に経緯を聞きます。私は、真実を見極めるために何回も何回も話を聞いてきました。

 その結果、彼らは、願いにより妖魔から妖精に変化する事が判りました。

 妖魔を仲間と考える事など出来ない。知恵ある人を襲おうとするのが苦痛だ。そういう想いが結晶し、妖魔から妖精に成り代わる。そういう事なのです」


「……結局の所、生き物の種別としては妖魔と同じという事ですか、何とも判り辛いお話です」


「生き物の種別ですか? いや、それは妖精も人も妖魔も、基本全て同じでしょう。人から、人や妖精が生まれる。妖精からは、人や妖精が生まれる。そして、妖魔からは妖魔も人も妖精も生まれています。

 もっとも、妖魔から生まれた人や妖精が生き延びる事は稀ですがね。

 ここから、『種としては全て同じ』と考える他ない。」


 な、なんだと! 余りの話に、ワシが絶句していると、泉守さんが言葉を継いでいった。


「妖精や妖魔は、人が魔力で変化したものです。妖魔は、邪気により湧出(ポップして出現します。後で説明しますが、妖魔の巣で産まれる妖魔も、実は妖魔の腹を借りて湧出しているだけなのです。

 一方、妖精の誕生には願いが強く関係しています。こんな子供が欲しい。こんな事が出来れば嬉しい。そういう願いが大本です。細かい仕組みは判りませんが、願いにより魔力が集まり、妖精が生まれます。それは、妖精の里で産まれる場合、人の村で産まれる場合、妖魔の巣で産まれる場合、全てに共通です。

 妖魔の巣では、より強い子供を得るための大規模な祈願が行われています。魔術小鬼を含む毛色の変わった妖魔は、その妖魔の願いにより生まれるのでしょう」


「何故? 妖精の誕生に願いが関わると? 一体どんな根拠が?」


「魔術小鬼と見分けられない彼らを見て判りました。彼らからは、人か妖精が生まれるからです。他にも、両親と異なる子供が生まれるケースがあります。それらのケースを総合して考えると、両親の願いに一致した子供が生まれている事が判ります。

 後で、説明すると言いましたが、妖魔の腹を借りて妖魔が湧出するといったのも、彼らを観察した結果です。彼らから子供が生まれる頻度が違い過ぎる。妖精の里では、数十年に一度です。一方、妖魔の巣では、巣の頭数が減れば数ヶ月以内に新たな妖魔が生まれます。

 そう、妖精や妖魔は、自力で自分の子供を得る能力が乏しい。そのため、何らかの魔力──邪気の場合もある──を使って子を授かるのだと考えると、全てが合理的に繋がります」


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