妖精の隠れ里
翌6月24日の朝から、ヒノカワ様と合流して名前付きの間引きを開始した。
間引く対象の名前付きは3匹だ。マワリ川村とヨイヒト村の間にある無人地帯に居る奴、湧き水村の南の無人地帯に居る奴、アサヒ村の南西の無人地帯に居る奴だ。慎重を期すために、至近の村で2時間程休憩してから、殺る予定だ。ヒノカワ様に『旅の途中だ。暫く休憩したい』と言われて、嫌を言うような村は、この島には無い。
攻撃手段は、シカ村の大戦前に練習した方法だ。一気に500m離れた狙撃地点まで接近し超遠距離攻撃で狙撃する。巨大な魔力の接近に驚いて、粗末な寝床から飛び出して来たところを狙撃する方式だ。この戦法は、基本一人で攻撃する。アタッカーはワシだ。『タツヤ君が殺した方が良い。魔術の足しにするなら、老い先短い僕よりタツヤ君の方だ』ヒノカワ様がそう言って役割分担が決まった。ヒノカワ様の方は、非常時の救援として、狙撃地点の上空に待機して頂く事になっている。
なお、寝床から出てこないような名前付きが居た場合は、今回は無理をしない。ワシとヒノカワ様の二人で後日、一定の日数を掛けて繁殖地ごと滅ぼす。
抹殺は順調に進んだ。湧き水村での聖戦の説明を挟んで、二日で二匹滅ぼした。
その時、ヒノカワ様が言いにくそうに言葉を紡ぎだした。
「タツヤ君ほど、妖魔への戦意が高いと、少し心配になるが、島の守護者を引き継ぐなら紹介したい者達がいる。この島には、人でも妖魔でも無い者が少数ながら存在するんだ」
「妖精ですか? クニ時代のフブキ文書に書いて有りましたが、今でもそのような者が生き延びているのですか?」
「なんだw タツヤ君は知っていたのか。なら話は早い。えーと、タツヤ君は妖精をどんな存在だと認識している?」
「いえ、それほどは……昔の話として、妖魔と違い共存可能な相手だと書いてあったのを知っているだけです。後は、固有で強力な能力を持っているとしか知りません」
「共存可能と知っているだけでも十分さ。見た目では、妖魔と見分けつかないような者も居るから、落ち着いて対応してくれると嬉しい。
それと、固有で強力な能力というのも事実だ。彼らは強い。一対一で、彼らに勝てる人間は殆ど居ない。あの里全体と闘ったら、僕だって勝てないと思う」
「それは……心して慎重に対応します。兎に角、紹介して下さい」
「まあ、あの里の者は、敵対的ではないから、安心して」
そして、ヒノカワ様に案内されて湧き水村から南約34㎞、トンビ村からなら南約190㎞の妖精の里についた。
そこは、非常に発見し辛い里だった。ヒノカワ様の誘導で、樹冠の下に降下してようやく里がある事が判った。松の森の中に竪穴式住居の集落があるなんて、気付くか!
しかも、キチンと水堀や2重の逆茂木もある。樹冠の中に見張り小屋らしきものもある。村自体を隠すために、あえて森の中に作ったとしか考えられない。
いや、違うな。よく見ると、松の木が小屋を隠すように曲がって伸びている。森の中に村を作ったというより、村を隠すために長年かけて森を整備したのだろう。
村に入るまでに少しでも情報を整理したい。まず、神々を擬する奴等から入手した地方知識──村の配置──の確認だ。
ここは、そのものずばり隠れ里という名前の村だ。そして、人口は100人程度とある。
もう一方の、ワシの地域情報把握では、妖魔の繁殖地には見えない。また、魔術士が居る村にも見えない。ワシの地域情報把握では補足出来ない何者かという事だろう。
ヒノカワ様が直前に言霊を飛ばしておいた事もあり、村の門についた時には、3人ほどが出迎えに出てきていた。だた、他に人影が見えない。
出迎えに来た3人は、長身で細身の男2名と短身のズングリした体形の男1名だった。人間だと紹介されれば……変わった御仁だとは思うだろうが、疑問は持たないだろう。
だが、3人のうち2人はそれなりの魔力を持っている。舐めてかかってよい相手ではない。
長身で魔力が無い一人も、何故か見覚えがある。あれは……そうだ! 拠点が連合外の商人を、何人か自由商人として認知したが、他人の空似で無ければ、その1人、旅風さんだ。
だとすると、北部大連合やワシについて、ある程度は知っているという事か。万一、敵だとすると現時点で情報戦に負けている事になる。
「初めまして、タツヤ様、私がこの里の代表の泉守です。こちらが、次席の角斬、そして、ご存知かも知れませんが旅商人をしている旅風です」
出迎えに来た者は、友好的──に見えるよう計算し尽くした──態度で挨拶を述べた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。北部大連合の副議長を務めているトンビ村のタツヤです。ヒノカワ様の紹介で来ました。実は、年甲斐も無く興奮しています。フブキ様が残した物に記されていた方々が本当に居られたんだ。
この島についてワシは未だ未だ知らない事が沢山有るんだなぁ」
「はは、御冗談を。お若い方が、『年甲斐も無く』などと。年齢を気にせず話したいとの優しい心遣いなのですね。
ヒノカワ様に、お聞きしているかと思いますが、わたしらは見た目以上に歳を取っています。私など既に108歳、こんな爺婆の里なので若い方に歳を気にせず話して貰えると嬉しいばかりです」
「おい、泉守。調子に乗るな。あり得んほど年寄なのは、お前や俺といったごく少数だ。爺婆の里などと、他の者に失礼だ」
ついつい、口を滑らせてしまったが、上手く捌いてくれた。少しほっとする。
「失礼。失礼。少し大袈裟に言い過ぎました。本当は、そんなに年寄の里ではないですよ。半分は30歳以下です。そういう意味では、他の村とあまり変わらない。
さて、年齢談義を何時までしても仕方ない。タツヤさん。わたしらは旅風他、幾つかのルートでタツヤさんと北部大連合殿の事について情報を集めています。でも、タツヤさんはわたしらの事を見るのも始めて。殆ど何も知らないと思います。
それでは、タツヤさんの方が落ち着かないでしょう。これから、里の中を案内しますので、存分に見学して下さい。どのような関係を築くにしても、お互いの理解が大前提ですから」
次は、妖精と妖魔の差です。




