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兎村の状況

 今日6月18日は、兎村に泊まる予定だ。そして、あんな騒ぎがあったにも係わらず歓迎の宴が開かれる。いや、あんな騒ぎがあったからか。

 兎村人にとっては、何としてでも機嫌を取っておきたい所だろう。ただ、昼飯から宴まで時間がある。ワシは、その間に戦場となるヤマハラ半島の偵察をすることにした。


 ヤマハラ半島は、南北が長い楕円形の半島だ。前世に無理に対応させれば島原半島にあたる。そして、兎村があるのは半島の北西側の付け根だ。

 このヤマハラ半島の無人地帯の妖魔の戦力はかなりのものだ。半島内の繁殖地は18あり、全ての繁殖地は弓斧槍といった武器をもっている。さらに、魔術持ちを含め厄介な奴が居る繁殖地が大半だ。何と、名前付きすら3匹もいる。奪回のためには、難しい殲滅戦を繰り返す必要がある。


 そして、地形も厄介だ。縦深が深い。兎村から一番遠い繁殖地まで40㎞程度ある。遠すぎて、兎村基点では作戦が完了しない。

 殲滅戦は、深い森の中を前進し闘い、そして、その日の内に戻ってくる必要がある。日の出と同時に出陣する事が前提でも、10㎞以上離れた場所を攻撃するのは危険だ。そう考えると、兎村から離れた位置に前線基地を複数作る必要がある。


 簡単な事では無い。前線基地の建設には莫大な物資と人手が必要だ。無計画にやって良い事では無い。事前に、作戦の進行も考えながら、大まかな位置を決めておく必要がある。

 だが、事前に決めると言っても、地勢を知る者は殆ど居ない。だから、前線基地の位置決め自体、上空から偵察できるワシがやるしかない。


 ヤマハラ半島の中央は、山地だ。噴火口らしき地形もある。火山なのだろう。前世の雲仙岳は、活火山で何度も災害を起こしていたが、此処ではどうなのだろう。少なくとも噴煙は上げていない。なら、無視しても良いか。


 それより、火口付近にある繁殖地が厄介だ。攻めるには、足場の悪い坂道を駆け登る必要がある。

 そして、そこに居るのが最も成長した名前付きだ。この聖戦の最終決戦は、酷く苦しいものになるかもしれない。


 ゴリ村の大戦の反省から、妖魔王が生まれたら、此方から攻め込む積りだ。そのための前線基地の位置を決めると、順次、他の基地の位置が絞られる。距離を考えながら、適地を探したが……兎村近傍を含め6つ前線基地を作る必要がある。此処までの負担……理解が得られるだろうか……


 日没少し前に兎村に戻って来た時、宴の準備はすっかり整っていた。村長らは、既に兎村から護送されていた。一刻も早く、影響力をゼロにする為だそうだ。

 そして、ワシが広場に着いて直ぐに宴が始まった。


 ワシの好みを考慮したのだろう。最初から、代わる代わる女達の舞が披露されている。だが、中には、やたらと尻や胸を強調した、妖艶というか……お下劣な踊りもある。ハテ? ここにはヒノカワ様は居ないのだが? 去年より更にエロいのは何故なんだろう?


「裏切り者の妻や妾だった女が、機嫌を取ろうと必死になっているのです。

 連れ去ったのは、本人と後継者の二人だけ。

 だが、息子や娘は他にも居る。つまり、連座対象たりえるのは他にも居る。だから、機嫌を取りたいのです」


 ワシの疑問を読み取ったのだろう。センカワさんが説明してくれた。そして、冗談ぽい声音で凶悪な言葉を続けた。


「不快なら止めさせますよ。思い上がった女が一人か二人、村内でリンチにあっても知った事では無い」


 村人全員の殺傷与奪を握られている状況で、更に機嫌を損ねたと感じたら……村人の自制心が崩壊するかも知れん。誓約があるワシは、そんな事は出来ぬ。


「ワシは気にしません。出来れば、センカワさんも穏便にお願いします。村人なりに全力で歓待しているのです」


「ははは、勿論。酷い事が起きないよう、わたくしめは我慢する積りです。ただ、タツヤ様に我慢を強いるのは本末転倒だから、聞いただけです。

 まあ、『其れ程までに信じれないか』と少し物悲しくはなりますがね。

 連座で子供が重い罰を受けないか不安で『この身を犠牲にしてでも』と思い詰める母心は、同情します。だから、タツヤ様が偵察に行っている間に、ヒノカワ様の慈悲を明確に示したつもりです。

 思い詰めなくても済むように、『父無し子としての立場を貫くなら不問にする』と、村人には繰り返し伝えました。

 それは、信じて欲しい所です」


「既に、そんな対応を……ワシは全く──必要性にすら──気付きませんでした」


「すいません。つまらぬ繰り言でした。それに、実は別の理由かも知れません。

 男を失って、次の男を得ようと頑張っているだけかも知れない。村外の男を悩殺する貴重な機会とでも思っているのかも知れません。タツヤ様やわたくしめではなく、護衛達に色目を使っているようにも見える」


「……それは思い至りませんでした。でも、だとするとビックリです。連れ合いが、罪に落ちたその当日に、男を漁るなどと。何故? そこまで、男が必要なのでしょうか?」


「そう言えば、兎村の事情徴収結果を説明していませんでしたね。兎村にはあの裏切者に係わる特殊な事情があるのです」


「特殊な事情?」


「はい。あの裏切者の影響で、兎村では女性の力が非常に弱くて、男に(すが)るように誘導されているのです。殆ど、村の共有財産扱いです。しかも、余りはあの裏切者達の総取りです。酷い話です」


「え! 共有財産? それはどんな」


「ああ、奴隷とかではありません。ただ、女には何も決定権が無い。公に意見を言う機会も無い。何か言おうとしたら、直ぐに暴力を振るわれる。何かしようとすれば、裏で男の歓心を得るしかない。そういう立場です。結婚すら男の一方的な指名。

 さらに、年頃を過ぎて結婚出来ない場合は、あの裏切者らの妾になる事を強要される。生活の面倒は、殆どみないくせに、子種だけ植え付けられる。女の立場だと、踏んだり蹴ったりの状態だったようです」


 前世に比べると、男尊女卑が非常に強いが、これまで見て来た村で、そこまで酷い村は無かった。ここでは、食料生産への女性の寄与も多く、潜在的に女性の発言権もあるはずなのに、なんて村だ。


「そうなった事情は、ある程度推測できます。兎村は、比較的孤立気味の村です。だから、村長は我儘し放題になる。その我儘に村人が毒されたのでしょう。

 そう、兎村は比較的孤立しています。他の村も何とかして兎村に生き延びて欲しかった。何とか、滅びないように人口を維持して欲しかった。そうしないと、次は自分の村の番になる。でも、最前線の危険な村に、自分の娘や息子を嫁入り、婿入りなどさせたくない。

 そうなると、残る手は、兎村からの嫁入りに良い顔をしない事だけになる。ここ暫く、兎村は他の村との縁談が殆どなかったはずです。

 孤立する条件が揃うと、村の運営は酷く歪むことがある。これは教訓です。

 こんな事……放置する訳にはいかない。奪回する無人地帯を維持するには、多くの移民を送り込まねばなりません。その為には、こんな悪習は一掃せねばならない。頭が痛い話です」


 次は、東奔西走です。


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