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ハヤドリの応急処置(前編)

 大戦は、6月頭の予定だ。つまり、その時期に名前付き二匹の内一匹を倒して、大戦──妖魔王の誕生──に向けた最後のドミノを倒す。無論、それまでに他全ての繁殖地を殲滅する予定だ。

 ただ、名前付きを倒してから妖魔王誕生までの日数が読めない。その為、それ以前に全戦力の配置と女子供の避難を完了させる。


 正式には、4月末の連合総会──最終作戦会議──で決定するが、ワシの心は定まっている。


 今回の戦で、大戦自体をフルコントロール出来る事を証明する。戦士の皆々に、死力を尽くす必要はあるものの、ワシらは既に『狩る立場』なのだと意識させる。


 未来は、努力と献身次第なのだと、ワシに従えばそれが可能なのだと。


『村長よりワシの方に従った方が正しい』と、そう一足跳びに意識改革出来れば良いが、あまり無理はすまい。慌てる必要も無いのだし。


 少し、気持ちが先走り過ぎたか。無人地帯周りの作戦は休止するが、他の作戦は4月中も進行させる。リュウエンさんは、ハモ村連合とオカカワ村連合との打通を進める予定だ。


 一方、ワシは、トンビ村から南西約60㎞のヤマノカミ村を起点に7つの繁殖地を潰して3つの村──猪村連合の村も1つ含む──を打通し、新規加盟2村と猪村への連絡強化をする。開始は、今年──ハテソラ暦元年──4月15日の予定だ。


 それまでも色々走り回った。七村連合の最高幹部会議も行った。山猫村で高機(たかばた)の試作品も確認した。ムササビ村の皆の様子も確認した。勿論、アマカゼとのデートも──習慣化したキスを含めて──忘れない。


 この中で、一番時間を掛けたのは、魔術の才能保持者の探索だ。北部大連合内だけだが19村廻った。その結果、4村で4人(男女2名ずつ)の才能保持者を見つける事が出来た。


 そうやって村々を廻っている間に、気付いた事がある。どの村も、旅人用の小屋を増やしている。村々の間の取引が順調に拡大しているようだ。


 全て順調で逆に怖くなるが、それだけの努力をしてきたはずだ。正当な成果だと自信を持つべきだろう。ワシが根拠のない不安に駆られて良い影響がある訳は無い。


 4月14日の昼過ぎ、ワシは作戦起点のヤマノカミ村に到着した。到着して直ぐに状況を確認したが、猪村からの援軍を含め参加者は殆ど揃っている。予定通り、作戦を始められそうだ。


 軍議では、猪村隊の扱いについて議論になった。『ハモ村隊の様に、一隊として扱う必要が無いか?』 と、ワシに質問が来た。ライゾウさんが連れてきたハモ村隊の扱いを見て、ワシの意向を確認したくなったようだ。


「あの時は、突然来られて、連携の取り様が無かった。そして、ライゾウさんと気が合う護衛も必要だった。今回の場合は、得意毎に分かれて参加して貰いたい。ヒノカワ様もそういう方針だったはずだ」


 猪村の戦士も元々そのつもりだったので、話はそれだけで終わった。しかし、軍議が終わった時、治癒術士見習いを率いるシカハミさんが、相談したいとワシを捉まえた。何だろう?


「猪村からの参加者を連合の各部隊にばらして参加させる。そうすると、ハヤドリちゃんの扱いが問題になる。あの子は、何時も部隊に随行しているそう。他の娘達との比較で困ってしまう」


「そうだな~他の娘が困惑する可能性があるな。

 う~ん。でも、ハヤドリが良いのなら、部隊に随行させよう。

 修行者を部隊に随行させると、二つの可能性がある。僅かなりとはいえ、力を吸い取って、魔術が進捗する可能性がある。一方、魔術以外の技量に目が移って、魔術の修行が疎かになる可能性もある。

 後者の懸念があるから、部隊に随行させるのは開眼した者だけとしている。だが、この前ハヤドリを見て気付いた。ハヤドリは前者だ、魔術の進捗が図れる。だから、ハヤドリだけ特別扱いでも良いと思う。

 褒賞とかは、雌鷹隊と同様で良いだろう。まあ、だが、決める前に本人の意見を聞く必要はあるな」


 そうして、ワシとシカハミさんで、治癒小屋に向かった。ハヤドリは、小屋の前で妹のアイサイさんと何か話をしていた。だが、ワシらに気付いて、ハヤドリは急に畏まった。


「タツヤ様、シカハミ様、お久しぶりです。今、妹のアイサイから熊村での生活を聞いていました。良くして頂いて有難うございます。

 また、タツヤ様、アイサイがまた失礼な事をしてしまったようで申し訳ありません。姉の私からもキツク叱っておきましたので、どうかお許しください」


「うん? 別に、失礼な事はされていないが……アイサイさん、まだ気にしているのか……一々大事に捉えずに、気楽にして貰えれば良いよ。きっと、知らない人ばかりの場所で、気が張っているんだろう。

 それはそうと、ハヤドリ、少し話があるのだが? 良いかな?」


「はい。二人きりでも、皆の前でも、何時でも、タツヤ様の御用は最優先です」


 この前もそうだったけど、大仰だなぁ。


「それでは、シカハミさんも一緒にそこで。短い話だから」


 ハヤドリは、アイサイさんを置いて、素直について来てくれた。


「大した話では無いんだ。この作戦でのハヤドリの配置の希望を聞きたい。アイサイさんらと一緒に、ヤマノカミ村で待機するか? シカハミさんと一緒に戦場まで来るか? 」


「さっき、アイサイとも少し話をしていました。北部大連合では、修行者は戦闘に随行させないと、修行に障りがあるかも知れないと。でも、でも、できるなら、随行させて下さい。治癒術が使えなくても、やれることは沢山あります。猪村の戦士達にも徐々に信頼して貰えるようになりました。

 何より、タツヤ様にご恩を返したい」


 何故? ワシの名前が出てくるだ? ……無料で4人分も再生をしたことが、それほど重いのかな? まあ、希望がハッキリしているなら対応は楽だ。


「シカハミさん。本人の希望はハッキリしています。随行させましょう。修行者達には、猪村の意向を尊重した特別扱いと説明します。また、呪術士ではなく雌鷹隊に準じた待遇とします。

 それでよいでしょうか」


「構わないよ。皆には私から伝えておく。雌鷹隊も、負傷者の手当ての手伝いをするから、それほど変では無いだろう」


「シカハミ様、お心遣いありがとうございます。お目を掛けて頂いた分は、必ず働きます。そして、魔術を身に付ける事も決して諦めません。この修行を提案して頂いた、タツヤ様に恥を掻かせるような事は決していたしません」


 何故? そこで、ワシの名前が出るのだろう? まあでも、魔術無しの対応と魔術有の対応の両方できる者が居た方が良いのは事実だ。ハヤドリには長期的に、そういう役目を負って貰えば、有難いかな。


次は、後編です。

少し、思い込みが強くて、逆にだからハヤドリは頑張ります。

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