↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/126

治水事業(後編)

 ダム式のため池の建造、前世では統一王朝が成立してから行われたような事業だ。先に説明した狭山池は、飛鳥時代頃に建造されたと考えられている。

 ワシは今、そんな難事業を進めている。技術移植の役目を果たしていると誇って良いだろう。


 作戦を中断したのが、昨日だ。参加していた戦士は、まだ帰還していない。だから、男手は少なめのはずだが、村長が30人もの人手を集めてくれた。

 今日──3月30日──の朝、皆に作業の内容を説明し、3㎞ばかり離れた現場に向かった。そして、昼前には現場に関係者が揃った。


「これまでも、そしてこれからも大変な作業が幾つもあるけど、それだけ意味のある事業だ。上手くいけば、クニ時代の繁栄を取り戻す大きな一歩になる。

 皆、良いかな。それでは、始めるよ」


「皆の衆よいか、上手くいけばトンビ村は連合内でも最も豊かな村になる。心を一つにして明日を掴むぞ。エイエイオー」


「「「エイエイオー」」」


 ワシと村長の掛け声に続いて、関係者の雄叫びが響いた。ワシは、土操作と土壁でまずは底辺と側面を20㎝の厚さで作った。

 底樋は、縦横1m近い大きさにする。ギリギリ人は通れるだろうが、危険すぎて気楽に中から点検できるようなものではない。そして、底樋の上に堤防を作る。つまり、5mもの土砂が上に乗る。もし、強度不足で壊れたら、修理するには一度堤防を掘り崩す必要がある。

 何十年もの間、点検もせず猛烈な重量に耐える構造にする必要がある。それは、どの程度の厚みにすべきか……ワシの前世は考古学者で土木エンジニアじゃない。全く分からない。判らないので、先ずは防壁と同じ厚さにしてみた。

 そして、次は一番問題な上辺だ。空中に土壁を作る事は出来ない。何か土砂を支えるモノが無いと、上辺の土壁は作れない。一番、簡単な方法は、全て土で埋めてしまう事だ。それなら、今のワシの魔力なら、まあ何とでもなる。でも、そんなことしたら、どうやって底樋の中に詰まった土砂を取り除くのだ?


 後で、土壁で補強するとしても、最初は何らか別の手段で上辺を作っておく必要がある。その為の30人だ。Uの字型に出来ている土壁の上に、板を敷き詰める。その為に、多数の人手が必要だ。

 敷き詰めるために、土壁で補強した木板を大量に用意した。ついでに木の棒も大量に準備して貰った。


「それでは、皆の衆、行くぞ! エイエイオー」

「「「エイエイオー」」」


 ワシの作業が終わった事を確認して、村長の掛け声と共に村人が動き出した。その間、ワシは休憩だ。


「お疲れ様。お弁当は此方に用意してあります。他の人の作業が終わるまで、休息を取って下さい」


「有難う。魔力回復の為にゆっくりさせて貰うよ」


 同行していたアマカゼに声を掛けられて、控えの場所に移動した。そこでは、何人かの女性が食事の準備を進めている。


「これから1年は放置って聞いたけど、どうしても理由が判らないの。土手を作るのも大変だから、早めに始めた方が良いんじゃないの」


「それは、そうなんだが、一度造ったら、何十年も使い続ける設備だ。慎重に対応したい。

 土手で埋める前に、幾つか性能を確認したいんだ」


「性能? 土壁は相当頑丈でシカ村にある防壁なんかは、現に何十年も持っているんじゃなくて?」


「水路として使った場合に、どうなるかは確認出来ていない。長く水に付けてふやけたり、水流で削られたりしないか確認する必要がある。それと、一本で良いか、1年掛けて調べる必要がある。川の水は、基本全て底樋に流すことになる。大雨の日は仕方が無いが、それ以外でも溢れるようなら、二本なり三本用意すべきという結論になる」


 実は、このプロジェクトは2年計画だ。最初の一年は底樋の性能確認に費やす。もし、土壁が材質として不適切なら、完全に計画の見直しが必要だ。その場合は、セメントの開発を先に進める事になるだろう。


 そのテストの事も考えて、底樋は現在の川底より低い位置に設置する。テスト中の一年は、現在の川道をオーバーフローとしてそのまま利用する。底樋の容量を越えたら、現在の川道に水を流すという事だ。

 底樋を川道より低くする為に1.5m程度の深さの大穴を作ってある。底樋が出来たら、現在の川道と大穴を繋げて、川の流れを変更する。長い年月を考えるとその大穴が土砂で埋まる可能性もあるが、1年程度は持って……くれたら良いな。

 その間に、土壁が水を通さないか試験もする。木を土壁で覆った試験片を一年水に付ける。一年して、割って中の木を確認し、水分を含んでいないか確認する。


 そうこう考えている間に、上辺の板の設置が終わった。ワシのターンだ。


「それでは、土操作と土壁を行使するよ。危険だから近寄らないでね」


「大丈夫だ。タツヤ、始めてくれ」


 上辺も20㎝以上の厚さで構築だ。そして、ドーム状に少し丸めて構築する。多分だが、そうした方が力が分散して壊れにくいだろう。ワシは、土木エンジニアで無いからハッキリした事は判らんが。土管が丸いのはそういう理由だと聞いた覚えがある。


「終了した。ワシの作業は此処までだけど、これから川道の変更に、試験片の設置と皆には色々大変な作業をお願いする事になる。大変は大変だけど、成功すれば、今と比べものにならないほど田を広げられる。

 ケガには注意して、頑張って欲しい。エイエイオー」


「「「エイエイオー」」」


 ワシの今日の作業は終わった。だが、他の者には、まだ多くの作業が残っている。トンビ村に帰りつけるのは日没ギリギリだろう。


 今日この日を、ワシは忘れない。この、目の前で汗水流して働く30人の村人の姿、これは治水に向けた大きな第一歩を踏み出せた証だ。その姿を見ながら、不覚にも涙が流れてしまった。


「何故、泣いているの? 何か悪い所があるの」


「いや、感動しているだけだ。アマカゼも知る、あの計画への大きな一歩、それを進める事が出来た事に、感動している。これで、田をどんどん広げて、沢山の子供を育てられるようになる。ワシらの孫やひ孫の時代には、人が沢山増えているだろう。その人々が、幸せそうに汗水流している姿が見えるようだ。

 それは、今の……妖魔に脅かされる世界より、どれほどに良い世界なのだろうか」


 次は、新章「大戦から聖戦へ」になり、最初は前後編でハヤドリの応急処置です。新章では、何故かハヤドリの話が多くなります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。