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アマカゼに慰められて

 夕方、ワシが激痛を堪えて、白ヘビ村に飛行すると言ったら、アマカゼが抱き付いて必死に止めた。

 アマカゼの柔らかい膨らみが心地よくて、そのままでいたくなる。


「タツヤは、頑張っているんだから、無理をする必要ないわ。まだ、顔色は酷い。お願いだから、今日は休んで」


「だが、作戦再開は明日の予定だ。ワシの我儘で延期になれば、多くの者に迷惑を掛けてしまう」


「今、タツヤは闘える状態じゃないわ。私を振り払うだけの力も無い」


 違う! 無意識に役得な状況を楽しんでいるだけだ。……いや、確かに魔闘術のオーラは弱いようだ。


「判った。だが、作戦の延期を連絡する必要がある。オオカゼさんを呼んでくれ」


 直ぐに来たオオカゼさんから、意外な事を聞いた。実は、既に作戦の延期が決定されている。明日は、天気が良ければ、全体での演習に当てる予定だそうだ。

 事件の影響で、戦士の移動にも混乱がある。そして、ワシが2、3日休んでも誰からも文句は出ないそうだ。


「長老が皆に説明していた。『命で償わせた場合、直接対応した者は暫く休息させる必要がある。相手がどんなロクデナシであっても、一方的に命を奪う事は、大きな心の負担になる。タツヤとて同じはずだ。暫く、一人にして労わる必要がある。』

 経験者の言葉は重い。それに、皆、執行時のタツヤの顔色の変化を見ている。タツヤが何日か休んだとしても、文句をいう者はいない。

 アマカゼと小屋に籠っていても、誰も邪魔したりしない」


 言われてみればそうか、ワシの様子が変な事は見え見えだったはずだな。


「それなら、今日は甘えて休ませて貰う。まだ、酷く痛いが、手を握っていれば、眠れるかも知れない」


「そうだな。今夜は、アマカゼと二人でこの小屋で過ごせ。アマカゼは、タツヤを出来るだけ慰めてあげるんだぞ」


「はい。勿論。婚約者としてのお役目です。こんなタツヤを置いて何処かに行くのは、私も胸が痛い」


 そして、アマカゼがワシの頭を胸に抱えて、何度も何度も撫でてくれた。気持ちよくなって、いつの間にか寝る事が出来た。


        ◇


 翌朝、痛みはかなり収まった。どうやら別の事を考えると痛みが薄れるようだ。ゆっくり朝飯を食べて、柔軟体操で体を(ほぐ)してから、小屋を出た。


 両村長や被害者の家族など、幾人かに挨拶した。皆、口々に大丈夫なのか聞いてくる。


「無様を晒して申し訳ない。ワシは、自分の強さを過信していた。正直に言うと、まだ落ち込んではいる。

 だが、多分闘った方が回復は早いだろう。皆々の幸せの為に貢献出来ていると感じるのが、一番薬になる。

 最初の作戦で大惨事になった時の経験から、そう思う」


 昼飯後に山椒村を出て、日がまだ十分ある内に西南西約9㎞の白ヘビ村に着いた。

 白ヘビ村は、トンビ村から南東約28㎞で比較的七村連合に近い。

 そして、白ヘビ村も女狐村も無人地帯の北西側だ。実は、この辺りに無人地帯の凸部がある。──女狐村が滅びずに踏みとどまっているとも言える。

 そのため、白ヘビ村と女狐村の最短経路は危険すぎて通行出来ない。そこを打通し中間に前線基地──大戦の予定戦場──を確保する作戦だ。


 長生きする妖魔が多いと、道具を開発し、繁殖地がどんどん強化されていく。

 基本、無人地帯の奥に行けば行くほど厄介になるものだ。そんな厄介な繁殖地の中から名前付きが生まれ、妖魔王に進化してしまう。


 今回の白ヘビ村から女狐村への作戦対象に、名前付きボスがいる繁殖地がある。この無人地帯にいる名前付きボス二匹の内一匹を倒す予定だ。この方針について話し合った時に、当然の事ながら『なら、二匹とも倒してしまえば、大戦を回避できるのでは?』という意見が出た。


 まあ、ワシはそれでも良いのだが……皆が出した結論は、『大戦を他の地方に押し付けるのは忍びない。トンデモない悪評が付くかも知れない』だった。その代わり、徹底的に周辺を狩った上で大戦を迎える方針となった。可能なら、丸裸にしてしまいたい。


 余談だった。話を戻そう。白ヘビ村から女狐村の作戦対象の繁殖地は4つだ。

 標的A.弓持小鬼と魔術持ち小鬼が居る繁殖地

 標的B.弓持大鬼が居る繁殖地

 標的C.ボス大鬼と魔術持ち小鬼が居る繁殖地

 標的D.名前付きボス大鬼が居る繁殖地


 何処にも、斧や槍持ちが居るが書いていない。さらに、名前付きが居る繁殖地には、ワシの知らない種類の妖魔も居るようだ。


 これに対して、北部大連合は、広域での偵察部隊を含め、戦士だけで350名の大動員をした。直接攻撃部隊だけでも250名いる。確実に数で踏み潰す気だ。この人数を収容する為、白ヘビ村の戦士以外の者は基本疎開させている。


 さらに、参加する全員に高揚を掛けるため、作戦は基本3日に一回だ。

 なお、一種の野戦病院として、熊村のシカハミさん、山猫村のヤマザクラさん、ヘビ村のユレニジさんが、部隊後方に待機する。

 無論、多数の護衛を配した上でだ。最近、シカハミさんが警報を取得したので、警報の魔術も張る。さらに、ワシが魔術で蛸壺陣地も作る。

 女狐村には、今年治癒術を身に着けたばかりのマヨイさんがいる。また、狐村のサクラさんが白ヘビ村のカバーに入る。


 戦死者を最小化する為の、考えうるだけの手は打てたはずだ。ワシの魔力も格段に大きくなっているから、殲滅戦後ワシも治癒に当たれる。


 そして、11月7日に標的A、11月10日に標的Bの殲滅に成功した。だが、重傷者を30名以上出してしまった。戦力を回復させる為に、5日空けて次の作戦は11月15日の予定とした。


 その間に、ワシは熊村での貝貨関係者の会議に出る事にした。


「最初の作戦で大惨事になった時の経験」は、前作25話の『予想外の苦戦』から27話の『自信回復』に当たります。


次は、貝貨の貸付です。また、新章に入ります。

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