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死刑執行は残虐なのか?

 絞首刑は、裁判に引き続き行われた。そして、手順通り速やかに終了した。タカトビもそれほど長く苦しんだ様子は無い。

 だが、槍を構えた瞬間から、ワシは凄まじい激痛に苦しめられた。誓約の影響なのだろう。判決を言い渡すことも、執行する事も同じはずなのだが、今更、何故?


 イカン。躊躇っているように見られる。激痛を噛み殺しながら、槍で椅子を払い絞首刑を執行した。


 呼吸できないほどの激痛、冷汗が吹き出ているし、血の気が引いている事が自分でも判る。だが、無様を晒すのは弊害が大きすぎる。


 タカトビが絶命した事を確認し、ワシは見物人の方に振り返った。


「誰であろうと、命で償うしか無い罪を犯した者は、この通り処断する。これは、妖魔を皆皆々殺しにする事にも繋がる。

 戦を有利にするにも重要な事だ。守るべき者がいるから、戦士は戦う。守るべき村人を害されて、戦士が戦う気になる訳は無い。


 このタカトビの無残な姿を見て怯えるものが居るかも知れない。だが、安心して欲しい。罪なきものを罰するような過ちはしない。先程、見たように、今回は徹底的に慎重に審議した。此れからも、全て同様に慎重な対応を約束する。


 ワシからは以上だ」


 激痛を誤魔化すため、半ば絶叫する形で、準備していたセリフを吐いた。そして、出来るだけ姿勢を正し威儀を示しながら、泊まっている小屋に向かった。最後の方など、激痛による貧血で目が見えない程だった。


 小屋に入るなり、崩れ落ちたが、激痛で気絶する事も寝る事も出来ない。だからと言って、絶叫する訳にもいかない。こんな弱点を気取られる訳には行かない。


 入口を潜って誰かが入って来た。息を飲む音が聞こえる。口止めせねば。


「騒ぐな」


 目を開ける事も出来ぬまま、ワシはそう鋭く言った。


「タツヤ。どうなっているの?」


 アマカゼか。判決文を複数作って、村々に正確に伝える為に、書記の娘達を率いて来ていたな。

 良かった、アマカゼで。何とか、口止めに協力して貰おう。


「騒がないで。そして誰も近寄らせないで。この姿を見られる訳にはいかない」


「どうしたのか聞いているの。ケガなら、誰か呼びに行かないと」


「無意味だ。これはある意味神罰だ。どうにもならない。ワシの大きな弱点だから誰にも気づかれる訳にはいかない。だから、協力してくれ」


「何故、タツヤが神罰なんか受けるの? 何も悪い事していないのに」


 そうだな。ワシは悪い事はしていない。


「人を殺したからだ。人を殺せば激痛を感じるように、神々に誓約を掛けられているんだ」


「そんな……あれは絶対に正しい事だわ。あんな野獣を生かしておけば、更に酷い事が起きる」


 そうだな。あ奴は、野獣と同じだ。生かしておいたら、逆に人の害になる。

 アマカゼの言葉で少しだけ気持ちが軽くなった。気のせいか痛みも少し弱くなったようだ。だが、まだ目を開ける事は出来ない。ましてや立ち上がる事など望めない。


「悪いが、兎に角人払いしてくれ。ワシは疲れてゆっくり休みたい。誰にも会いたくないとか。はぁはぁ、どんな我儘に見られても良い。こんな弱点を知られるよりは、遥かにマシだ」


「判ったわ。でも、警備を集めるのに私では」


「オオカゼさんに頼んでくれ。オオカゼさんなら、この姿を見ても口を噤んでくれるだろう」


 暫くして、アマカゼがオオカゼさんと共に小屋に戻って来た。二人でワシを小屋の奥に寝かせて、ついでに衝立を置いてくれた。

 オオカゼさんは、警備の戦士に『誰も近寄らせるな』と命じて出て行ったが、アマカゼは近くに控えて居てくれる。手を握っていてくれる。少しは、心が安らぐ。


 一時間もしただろうか、まだ激痛はするが、貧血は少し収まったようだ。目を少し開けられるようになった。


「タツヤ大丈夫? 何か欲しい物はある? 水なら此処にあるわよ」


 ずっと傍(そば)にいてくれたアマカゼが声を掛けてくれた。優しさが心に沁みるようだ。


「ありがとう。水を貰うよ。それと、実は昼飯も食べていない。何か柔らかい物があると嬉しいが、難しいかな?」


「粥なら用意しているわ。直ぐに温めるから待っていて」


 本当に有難い。アマカゼは本当に良い娘だ。


 ゆっくりと水と粥を食べて、体は少し楽になった。激痛は収まっていないが、ゆっくり話す事ぐらいは出来そうだ。


「心配してくれて本当にありがとう。説明しておきたい事もあるから、オオカゼさんを呼んでくないかな」


 暫くして、オオカゼさんが小屋に入って来た。ワシの大きな弱点、此処まで致命的であれば、誰か身近な者にカバーして貰わねばどうにもならない。


「一体どうしたんだ? 黙って対応して欲しいと言われて対応したが、差支え無い範囲で説明してくれ。単に気分が悪くなったという話で無いだろ」


「今からの話は厳秘だ。致命的な弱点だから、秘密を守る必要がある」


「勿論だ」「わたしを信じて」


「ワシは神々から、多くの力と使命を与えられた。そして、ワシが使命に違反しないように、誓約も課せられている。はぁはぁ」


 長いセリフは、まだ辛いか。


「辛いようなら、後日でも良い。とても見ていられない」


「要点だけでも。はぁはぁ。誓約の発動条件の一つは、人への残虐だ。はぁはぁ。想像しただけで痛みが走る事もある。はぁはぁ。

 兎に角、ワシは、人同士の戦いには弱い。誓約の影響で戦力にならない。はぁはぁ。

 あんなロクデナシでも、神罰があるなら、襲われて反撃しただけでも駄目かも知れない。はぁはぁ」


「今は考えるな。タツヤを襲う者など誰もいない。対策も、私が考えておく。兎に角、今は休め」


 どうにもならない。今は、オオカゼさんとアマカゼに甘える他ない。全く、不甲斐ない事だ。


次は、アマカゼに慰められてです。

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