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裁判というのかこれ?(後編)

 準備は直ぐに終わり、茶番な裁判が開始された。だが、茶番だろうが何だろうが、それが無い社会に裁判を導入することは意味のある行為だと思っている。

 今、茶番なのは裁判に慣れた者が存在しないためだ。経験を積めば、問題解決手段として、裁判は重要性を増すだろう。


 裁判官は、ワシと2名の長老達、検察官役はオオカゼさんと1名の長老、弁護人はスナメリ村長だ。


 裁判はオオカゼさんによる、罪の証明から始まった。

 ・まずは、探索の戦士が、カズナさんを見つけてからタカトビが捕縛されるまでの経緯

 ・タカトビへの尋問結果

 ・タカトビがカズナさんに言い寄っていた事の目撃証言

 ・騒ぎが始まる直前に、タカトビが慌てて村から飛び出した事の目撃証言

 ・現場に残された。タカトビの私物

 ・タカトビの引っかき傷とそれが祝勝会時点では無かったことの証人

 ・ミカさんによるカズナさんの遺体の確認結果

 ・そして、捕縛された時に、タカトビが吐いた暴言の証人


 もう、お腹一杯だ。


 それから、もう一人の検察官役の長老による求刑だ。


「かような悪逆な者に対する処罰は、どの村も共通している。追放刑だ。だが、追放刑は、状況により複数の意味合いがある。そのため、遠い村間の罪人にそのまま適用するのは無理がある。

 よって、追放刑の重い方の意味合い。命をもって償わせる事が適当である」


 この言葉を聞いて、猿轡(さるぐつわ)をされているタカトビの体がビクッと動いた。奴も、ようやくどれほどの事をしたのか理解したのだろうか。


 それから、タカトビの罪状認否だ。前世と順番を変え、求刑の後にした。タカトビに、罪の意識が無く意味を成さないからだ。

 被害者の家族の事を考えると、タカトビには、やらせたくは無い。だが、……先例になる事を考えると……省略は、出来ない。


 ワシから罪を認めるか否か質問して、タカトビの猿轡が外された。


「馬鹿げている! 女を一人犯して殺した位で、この扱いは何だ! 戦功を上げている戦士に対して無礼すぎる!」


「黙らせろ」


 残念ながら、タカトビは、自分がどういう状況か理解していなかったようだ。


「タカトビは罪を犯したことを明確に認めた。そうすると、論点はどのような罰が適切かのみだ。求刑に不服があれば弁護人は意見を述べよ」


 流石にゲンナリした顔でスナメリ村長が、意見を述べ始めた。とはいっても、タカトビの弁護より、スナメリ村に悪評が付かない事を意識しているのは見え見えだ。端的に言って、『スナメリ村が責任を持ってタカトビに償わせる』としか言っていない。


 スナメリ村長の意見を聞いて、タカトビの顔は怒りに満ち満ちていった。村長にすら見放された事を理解したのだろう。


 スナメリ村長の陳述が終わり、ワシは審理の為の休会を宣言した。と言っても、ワシが作っておいた判決文の再チェックだけだ。皆が疲れている。何か飲み食いする時間を確保する意味の方が強い。


 そして再開。ワシは空腹のままだ。胃に物を残しておく訳にはいかない。


「この悪逆の犯罪に対して、被告人タカトビの命をもって償わせる。村の外れで絞首刑とする」


 タカトビば、まだ自分の状況を理解していなかったようだ。驚きのあまり、目を大きく見開いている。


「皆の前でタカトビ自身が認めた通り、タカトビの犯行は明らかだ。

 仮に、自白が無くとも、動機、殺害手段、アリバイの全ての面でタカトビの犯行と認められる。

 更には、遺留物やタカトビに残った傷跡といった物証もある。

 タカトビの犯行だ。疑いの余地は無い。


 犯情も最悪だ。何ら落ち度が無いカズナさんの将来を奪った犯行は、憎んで余りある。ワシと長老達の意見は、これまでの村々の慣習に従い命を持って償わせる事で完全な一致を見た。


 だが、命を奪うのは、取り返しがつかぬ事だ。慎重に考える必要がある。

 そのため、念のためタカトビに有利な点が無いか徹底的に検討する事にした。だが、反省の色も無い。犯行について汲むべき一片の事情も無い。減刑する如何なる理由も見いだせなかった。


 よって、前述の通り決定した。絞首刑は引き続き、準備が整い次第行う事とする。


 以上」


 前世の基準では、稚拙な判決文だろう。まあ、それは今後この社会が経験を積んで改善してけば良い問題だ。


 痛みも其れ程無い。胃を空にしておいたが、杞憂だったようだ。

 転生した時に、『欠片でも人に残虐だった場合』は、誓約違反として『耐え難い苦痛を感る』と脅されたが、大丈夫みたいだ。理由がある者に死刑を宣告する事は、残虐行為に当たらないのだろう。


「山椒村およびスナメリ村として何か言う事はないか?」


「山椒村としては、何ら不服は無い。出来れば、二度とこのようなロクデナシが出ないよう、十分な見せしめになって欲しいと願っている」


「スナメリ村も、何ら不服は無い。遺族への補償は、タカトビの代わりに、スナメリ村が誠意を込めて責任を持って行う。我々も、このような事件が二度と起きない事を願っている」


「タカトビ。最後に、何か反省の弁や祈りの言葉があれば聞こう」


 一体、何を言うだろうか、心配だ。タカトビの猿轡が外された。


「これは、茶番だろ? 俺を殺してしまえば、戦士の数が減って戦に不利になる。そんな事を戦鬼タツヤ様がする訳ないだろ?」


「黙らせろ」


 はー、予想してはいたが、信じれんほど態度が悪い被告だな。


「判決は、既に言い渡した。これは、蛇足だが。タカトビの全ての戦功は無にするし、武器等も全て破棄して、戦士としての履歴を完全に無にする。

 こんなロクデナシを戦士としたこと自体が誤りだと、連合もスナメリ村も完全に同意している。


 それと、どうやらワシも相当誤解されているようだ。誤解されたままだと、見せしめの意味合いが薄れる。刑の執行はワシ自身が行おう。

 二度と、こんな事件が起きないようにするためだ。山椒村長、構わないだろうか?」


「今のタカトビの発言を聞いて、私も同じことを思った。ただ、助手は山椒村から出す。タカトビを最も恨んでいるのは山椒村の者なのだから」


次は、死刑執行です。

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