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アマカゼの嫉妬

 国を成立させる基礎は武力だ。でも、この社会には軍隊が存在しない。だから、武力を確保しようが無い。せいぜい、戦士達と親睦を深めるぐらいしか出来る事が無い。その日は、戦士達と武技や戦功について、熱く意見を交わした。


 翌9月19日に異論が少ないだろう村々、テン村、シカ村、狐村、熊村を回る事にした。四村を廻って夕方にトンビ村に着いたところ、カラス村のホシカミ婆さん──四つの村に強い影響力を持つ連合東部の大実力者──から、伝令が来ていた。


 何でも、付近の村の代表を23日目途で、ツバメ村に集めておくとの事だった。


 少し空きが出るから、連合の財政問題についての根回しを進めよう。実は、テン村のテンヤ村長が心配していて色々言われたんだ。『連合の新年の儀には正式な議題にしないと不味い』結構、深刻に考えていた。


 だが、貝貨の問題だと、経験が深いマコさんの意見を聞かないとどうしようも無い。タコ村に行く事にして、カニハミさんに言霊を飛ばした。


 しかし、電話すら無いのは酷く不便だ。周りから見ると、ワシは唐突に押し掛ける困った客なんだよなぁ。


「明日の午前中は、カラス村とツバメ村に行って、簡単に用向きを説明しておく。午後から、泊まりの予定でタコ村に行く予定だから、帰ってくるのは明後日の夕方になる」


 アマカゼと夕飯を取りながら、ワシは予定を説明した。


「それなら、私もタコ村に行くわ。筋肉痛ももう大丈夫だし、タツヤと一緒に海を見るのも素敵だわ」


 特に、断る理由はないな。


「護衛が、ワシともう一人は必要だな。誰に頼もうか。サトニナ兄は空いているだろうか」


「えーと、若しかしたら、タツヤが帰ってきてから駆け抜ける予定なの? もう少しゆっくりとした行程が嬉しいな。朝に出発して、昼にタツヤとタコ村で合流するとか。護衛なら、他に当てもあるの。

 タコ村のカイナさんが学校に来ているのは知っているよね。実は、タツヤがタコ村を訪問するのに合わせて、タコ村に戻るように言われているそうなの。そのために、護衛が2名来ているわ。

 一寸、癪に障るから図々しく便乗するつもりなの。

 チャンスがあれば私を出し抜いてタツヤを狙おうとする。酷いと思わない?」


 いや、それは邪推だろ。


「確か、カイナさんは、タコ村長夫人になる事に執念を燃やしていなかったか? マコさんの長女で、次代の貝貨の責任者になる予定だろ? マコさんが、現村長の夫人や娘で無いせいで公式の責任者に成れないのを悔しがっていた。

 ワシを狙う理由が無い。

 ワシとマコさんの議論を聞いて、勉強させたいんじゃないかな?」


「???母親と娘で連合して、タツヤを悩殺するつもりなの?」


「どんな邪推だ‼ 貝貨に関する話題の中には、奥が深すぎて、余人が付いてこれないような話がある。だから、次代の責任者としてカイナさんに経験を積ませる必要がある。それだけだろう」


「因みに、その話、私が同席したらダメ?」


 ダメと言ったら、不信感が増すだろうな。


「カイナさんが同席しても良い話なら、構わないよ。ただし、聞いた事は、ワシやマコさん以外の人が居る場所では、決して口走っちゃダメだよ。村長を含め家族にもだ。

 この手の話は、誤解されやすい話が多い。そして、片言だけ伝わって誤解が広がると、トンでもない混乱が起きる。だから、配慮が必要なんだ」


 アマカゼは、マコさんの貝貨の祟りの説話──貝貨の『信用喪失』の怖さ──の途中で居眠りした前歴があるからな。同席しても、理解が追い付かないだろう。


「若しかして、マコさんの話で居眠りしたのを怒っているの……」


「イヤイヤ、怒ったりしていないよ。カニハミさんも寝ていたし、あれが普通だよ」


「私と一緒に居るのはイヤなの?」


「そんな事言っていないよ。同席しても良いけど、口を固くする必要がある。そう言っているだけだよ。アマカゼなら可能でしょ」


 珍しい事に、それからもアマカゼが暫くねちっこく追及を続けた。痛くない腹を探っても、本当に何にもないんだが……カイナさんが14歳でアマカゼが11歳か、意識してしまうような年齢差なのかな?


 食後、サトニナ兄に頼みに行ったら二つ返事でアマカゼの護衛を引き受けてくれた。




 翌朝、予定通り東方に飛行し、ホシカミ婆さんやツバメ村長と短く意見交換をした。


「ワガママな村もあるから、ガス抜きする機会を作っただけで、ウチらに異存などある訳は無い。

 大恩あるヒノカワ様の猪村に行ける様になる。『早く、お礼の使者を送れるよう、此方の村々からも戦士を送るべき』その程度には援護射撃もするから安心しな」


 ホシカミ婆さんは、凄く協力的だな。要件が早く終わったので、折り返してアマカゼに合流する事にした。道沿いに探知しながら飛べば直ぐ見つかる。


「アマカゼ待たせたな」


「タツヤ。全然待っていないわよ」


「それと、探知されて気持ち悪いとかは無かったか? 便利なんだが、副作用があって心配なんだ」


「大規模な追い駆けっこみたいで、ワクワクしたわ。追い付かれる前にタコ村へと、急いだわ。でも、追い付かれた。確かに、見付かった時は吃驚したけど、追い駆けっこだもの当たり前だわ」


 そう言ってくれると嬉しいが……


「アマカゼ様は、酷く驚いて、強張っていたぞ」


「そうそう、『キャー』と可愛い声を挙げていた」


 サトニナ兄とカイナさんが突っ込みを入れる。それはそうだろうな。


「驚いたのは事実よ。でも、やはり私を探してほしいわ。若し、戦闘中の護衛だったら大変だし。第一、それは婚約者としてのお役目だと思うの」


 アマカゼが謎な主張をする。別にそこまでお役目を拡大しなくても良いんだが……

 そして、側にいたカイナさんも呆れ顔で突っ込みを入れた。

「何度も言ったけど、別に私は、タツヤさんを狙ったりしないから。私にはタコ村に婚約者が居る。よそ見して逃す気は無いの。

 それに、タツヤさんは、これほど足が速い。そのタツヤさんに健気について行こうとするアマカゼさんには、皆々感心しているの。誰も、アマカゼさんの恋路を邪魔して、馬の脚に蹴られたくは無いの。

 アマカゼさんを良く知っている人ほど、そうだから、安心してよ」


 若しかしたら、ワシの前以外では、結構嫉妬深い所を見せているんだろうか?


 アマカゼが嫉妬するのは、高い地位を奪われる事に対してか、男を奪われる事に対してか、その両方か


 次は、クニの財政破綻理由です。

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