アマカゼの料理
日没少し前にトンビ村に戻ったが、アマカゼがあからさまにホッとした顔をした。何か、良からぬ事が起きたのだろうか?
「せっかく、白塩を使って料理したのに無駄になるかとヤキモキしたわ。白塩は、まだ十分出回っていないので無駄になるとショック大なのよ」
鉄造りを頑張って遅くなったのに……料理が云々って些事をクドクドと…………イカン!イカン!
それでは、研究一筋だった前世と変わらん。転生時に『ワシを選ぶ女性がいたら、必ず無限の愛情を捧げよう』と誓ったはずじゃないか!
「アマカゼがご飯を作ってくれる時は、灰塩じゃないから、既に切り替わっているのかと思っていた。ワザワザ、少ない白塩を調達してくれていたのか。
ありがとう。そして、今まで苦労に気づいて無くてごめん」
「いえ……少し言い過ぎたわ。調達自体はそれほど難しくないの。クラゲ村の人が、タツヤへの献上品と言って持って来てくれるから。
それに、切り替わり始めているのも確かだわ。既に、海沿い三村は、灰塩を作って無い。だから、在庫を使い果たしたら、白塩を使う他ない。
どちらかと言うと、料理の苦労を判って欲しかったの。灰塩とはかなり風味が違うから……恥ずかしい話だけど……何度も、泣きながら失敗作を食べたわ」
「本当に悪かった。美味しいご飯をばかりだったから、失敗があった事に気づいてなかった。
新しい調味料、失敗があるのは当たり前だ。でも、ワシはアマカゼのご飯で失敗にあった事が無い。実は、アマカゼには料理の才能があるんじゃない?」
「……」
「あははは。
タツヤさん。アマカゼを甘やかさないで下さい。文句を言わずに食べて下さるから、タツヤさんの前で叱ったりはしません。でも、アマカゼの腕はまだまだです。
婚約者の座を奪い取ろうと狙う娘は多いので、もっと精進しないと、結婚まで辿り着けはしない。逆に、そう発破を掛けて下さらないと困ります」
同席していたアマカゼの母親が酷い事を言った。ワシの立場で言える訳は無いだろ。
◇ ◆ ◇
翌、9月18日の朝、今後はリュウエンさんと会うために、大イカ村に飛び立った。トンビ村からだと西に約52㎞もある。シカ村と海岸沿いの基地を経由する必要があるが、昼までには着けるだろう。
途中のシカ村で、村長に会って、近状を確認した。三ヶ月前の大戦で奪回した無人地帯は、殆どが山地だ。だから、冬の間の巡邏は大変で、その間に、妖魔が復活したら……
「私らも、それは懸念している。今、一生懸命巡邏のルートを整備してはいるが、冬に険しい場所で巡邏するのは自殺行為だ。だから、冬になるギリギリまで頑張って、春一番で大攻勢を掛けるしかない。その時、魔術士なしでも殲滅できるよう、皆頑張って鍛えている。
基地の整備も進めるつもりだ。本当は、女子供も暮らせる村にまで発展させたいが、冬には間に合わない。村にするのは、来年以降の課題だと考えている」
現実を考えても、その程度しか出来ないな。ワシは、大攻勢前に魔術で妖魔の分布を把握して紹介する事だけを告げて、大イカ村への旅を続けた。
大イカ村で確認したところ、大イカ村からサメ村、サメ村からカツオ村へと作戦が進行したそうだ。
いずれも、海沿いの村でこれまでも交流はあった。だか、海には好戦的な魚類型魔獣が多数棲息している。女性を舟に乗せるのは禁忌だ。比較的安全な陸路が打通されて、女性は大いに喜んでいる。
今は、カツオ村から大イカ村へ戻る打通作戦を開始したところだそうだ。
なお、村々の位置関係は次の通りで、概ね三角形だ。
・大イカ村から北西約11kmにカツオ村
・大イカ村から西南西約13kmにサメ村
・サメ村からカツオ村は、北北東約12km
カツオ村に着いて、リュウエンさんと合流した。
「突然、お邪魔して、作戦を中断させたようだ。すまんかった」
「あはは、気にする必要なんか無いよ。時々は、休みを入れないと、疲弊から戦士達が病気になってしまう。それに、僕の方も相談したい事があるんだ」
しばらく、お互いの戦況と戦訓を紹介しあった。そして、リュウエンさんが、相談事を打ち明けてくれた。
「僕の方の要件は、次の作戦についてなんだ」
「確か、北東の無人地帯への打通を考えていなかったか? 何か問題──戦士の集まりが悪いとか物資が足りないとか──あったのか?」
「いや、そんな話では無い。作戦の準備は順調で、こちら側の作戦が終了したら、直ぐにでも始められるそうだ」
では、何なんだろう?
「猪村がサバ村への打通作戦を進めているのは知っているよね。連絡が取れれば、北部大連合の利益も大きい。だから、猪村を待つだけでなく、此方からも、打通を進めたい」
「そうだな。大盟の儀にはヒノカワ様も居たのに、ワシは何故思いつかなかったんだろう。
良いアイデアだ。ぜひ進めてほしい」
「賛成してくれて嬉しいよ。戦士達もやりたい気持ちが強い。
ただ、猪村との中間にある大ガエル村は、連合に参加する気がない。ウチの連合に参加したら、猪村との義理を欠くと考えているようだ。
とすると、連合外の村──大ガエル村──を利する事になる。僕らの部隊の目的『連合内の連絡確保』に合致しないと指摘される可能性がある。特に、東側の村々は、不満があるだろう」
「それは、隊長の裁量の範囲だ。戦士達には不満はないんだろ?」
「無論、戦士達はやる気満々だし、此方のメンツが立つように、大ガエル村からも多数の戦士を出すし、諍いのある村との和議も目途が付いて居る。ただ、西側の村の意見だけで動いているように見えるのが気掛かりなんだ」
この連合、意思決定手段が全然未整備だからな……それに遠い村との交渉は時間が掛かり過ぎてどうにもならない。
「安心してくれ。ワシ側の作戦再開までに、有力村を廻るつもりだった。悪く言われないように、ワシが根回しをしておく。リュウエンさんは、確実に妖魔を殲滅する事と、犠牲者を一人でも少なくする事に、集中して欲しい」
ワシは、連合の大幹部──副議長──だ。この手の調整は、本質的にワシの仕事なんだよな。
タツヤが引き起こしている変化は、料理にも影響しています。いつか、各種調味料を開発する回を入れたいですねσ(^_^;)
次は、アマカゼの嫉妬です。




